挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第39回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第39回】

2024年10月号掲載

挫・人間

女友達の誕生日会に呼ばれた。
「本当に開催されているのか」という感想に尽きる。それほどまでに人生で女性の誕生日会に参加した記憶がない。誕生日といえばプレゼントだ。
ひとつ覚えているのは、小3の頃クラスメイトの女子にお呼ばれして『浦安鉄筋家族6巻』をプレゼントしたときの、その子の神妙な顔である。
小学生の気を遣った顔というのはこの歳になっても私の心をグシャグシャに叩き折る破壊力を持っている。

私は他人の誕生日会で自己表現をしていたのだろうか。
相手を喜ばせようという気持ちが欠落した私は自分のセンスを見せつけようと舌舐めずりしながら『浦安鉄筋家族6巻』を両手に掲げて絶頂していたのである。
10年後には法律が進んで私は死刑になっていることだろう。

しかし、私はもう様々な人生経験を詰んだ大人である。
インターネットによる集合知は私の魂を進化させた。大脳皮質のイケメンエリアに超スパークを発生させ弾き出したイケてるプレゼントは......「ちょっと良いハンドクリーム」である！お父さんカッコイイ

イケメンすぎて私の本質部分がドン引きしている。私が渡すとハンドクリームをキモい毒物かと疑われるかもしれない。

しかし勇敢な私は某有名スキンケアショップにやってきた。入店したところで勝利は確定している。
私は女性の店員さんに「ワン・ハンドクリィム・プリィズ」的な注文をする。

「プレゼント用ですか？」

「ぁ......そうです、友達の（ｺﾞﾆｮｺﾞﾆｮ）」

「夏はあまり使う機会がないので～こちらのスクラブとかの方が良いと思いますが、いかがでしょう？」

一瞬で孔明の罠にかかったときのような絶望に襲われた。圧倒的アウェーでの想定外の事態におたくクン成す術なし！！という状況である。
されるがままに私の手は店員さんの使うサンプルで磨かれピカピカにされてしまう。スベスベの手を見ると自分が親切な人間になったような気持ちになった。

「こちらのフレグランスも新作ですが、お相手の方は匂いとか気にされてますか？」

「臭いかどうか分かるほど接近したことはありませんが見た目的にかなりいい匂いです」

「......お友達の肌のお悩みとかご存知ですか？」

「そ、それは分からないですね......！でもデリケートなお悩みに関するプレゼントをするのはキモいとか好きだとか思われちゃったりしませんかね！？ナンチテ......！」

などと言ってみたのだが完全に無視される。私は女性を困らせる天才である。

「こちらは男性に人気なのですが、汗の匂いをフレッシュにしてくれるスプレーでお勧めさせていただいております」

と言われた私は暗に「お前夏のカードショップみたいなニオイすんだよ」と言われたと思い、全然欲しくなかったのにスプレーも2つ購入してしまった。

完全に予算オーバーだったのだが、プレゼントを購入して店を離脱することに成功した。

私はまだこの店と渡り合うのに人間としての徳が足りていなかったのだろう。しかし人間とは失敗を繰り返して成長するのである。
家に帰ってギャグ漫画を読むとくだらなくて涙が出た。なんかオシャレなクリームを買えて良かったなあと思った2024年の夏であった。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。2023年11月に新体制初となる東名阪ワンマン・ツアーを行った。2024年3月には2年7ヶ月ぶりのアルバム『銀河絶叫』をリリース。今年2度目となるツアーを11月より開催する。

挫・人間

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