挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第33回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第33回】

2023年10月号掲載

挫・人間

モテたい。
バンドマンに幻想を抱いている人からすると絶望的な書き出しだが、本当にモテなくてモテたいのである。

「バンドマンなんだからモテるでしょ」などという話を何度もされてきた。
真実としては、「バンド関係なくモテる奴はモテる」というところで、モテない奴はバンドをやるくらいでは絶対にモテないのだが、たまにその枠から逃れる奴らがいる。

奴らは『秘技・下川アイ』で恋愛戦闘力を見てもモテるはずがないのに、自信ありげな顔でいる。そしてそいつらは必ずマッチングアプリをやっているのだ。

「いやいや下川くん、カッコつけてもモテないんだから。イマドキの恋愛はみーんなアプリスタートだから」

「失礼、僕は恋愛を運命だと認識しているので。寂しさで異性を求めることはないんですよ」

「そっか......。確かに挫・人間の音楽にはそんな下川くんの気高い生き方が反映されてるね。バンドマンとして正しい姿だと思う」

僕は帰宅後即マッチングアプリをダウンロード。そして約4,000円の月額料金を入金。「高い」なんて1秒も思わなかった。だってこれで運命の女子が空から降ってくるんですものね。
恋のダウンロード、仲間由紀恵 with ダウンローズ状態である。

「プロフィールで自己紹介してマッチングしよう！」
フム。バンドマンであることがバレるとYouTubeで検索されてしまう。こんな人間として腐敗した姿は隠し通さねばなるまい。

「(=ﾟωﾟ)ﾉぃょぅ拙者、30代無職。週5で阪神タイガースの応援をしておる♪ バンドとかめっちゃ詳しい^_^ 本気の恋愛、しに来ました」

考えているうちに自分の存在がどんどん恥ずかしくなり、そう書いていた。イマドキの恋愛をするはずが怪物が生まれてしまった。

しかしマッチングアプリの世界は広い。
「バンドお好きなんですか？」とメッセージが送られてきたのだ。

「好きです。りかにてぃさんは好きなバンドいますか？」

「そっちの好きなバンドから教えて下さい」

「挫・人間です」

「キモしねよ」

僕は絶望した。こんなやりとり、コラムに書いても信じてもらえるはずがない。2週間やって最初で最後のやりとりは秒で終了。3ヶ月続けたアプリでは何の成果も得られず、僕は現実に帰ってきた。

バンドマンのみんな、学生時代と比べて人間扱いされ、気付かないうちに勘違いしているかもしれないがそれは幻想で、普通に考えて社会性を犠牲にバンドをやるなんてキモいのである。
モテていると思ってもそれは世界がついている嘘で真実を見抜く正しい眼で世の中を見ないと人生を乗り越えることは出来ない。

こうして社会的に洗浄されることによって自分のキモさを自覚し、「なんか意外とイケるかも」みたいな愚かさを抹殺することで「自分には音楽しかない」と思えるのだ。音楽をやる理由なんて、やらないとやられる、以外にないのだから。

Skream!の皆さん、このコラム身体張ってるのでマッチングアプリ3ヶ月分の登録料の振込お待ちしております。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。昨年9月に2ndシングル『このままでいたい』、2023年1月にライヴDVD『メンバー募集"１"でワンマンTOUR』、7月に新曲「夏・天使」を配信リリースした。11月には新体制初となる東名阪ワンマン・ツアーを開催する。

挫・人間

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