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COLUMN

挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第13回】

2020年06月号掲載

挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第13回】

「愚かな......下川様の怒りは私の怒りです!!!!!」

叫び声の主は息を荒げて、通話相手からの返事を待っていた。
静まりかえった部屋。握り締められた受話器は手汗で湿っている。

「執事の人に何がわかるんですか? いいから早くサクラに替わってください」

「ほう......お嬢様を呼び捨てですか。そんな輩を取り次ぐ業務は請け負っておりませんなァ」

執事、と呼ばれた男は自分の怒りを隠そうともしなかった。

話は数分前に遡る。
下川家の長男であるオレは、部屋で自分が主人公のラブコメ漫画を書いていた!
すると妹の部屋から何かがぶつかるような音がして、それから押し殺したような嗚咽が聞こえてきた。

妹が泣いている。
オレはキモいシスコンだったが、それを悟られたくなかったので、「やれやれ......」と言いながら妹の部屋の扉を開け、腕を組み、自分の左側が妹に見える感じで壁に背中を預け、迷惑そうに言った。
「話があるなら、聞くが?」

――そして気付いたら、妹の彼氏から家にかかってきた電話を受けていた。

なんでも妹の彼氏は束縛や暴力が激しく、それに愛想をつかした妹は電話で別れ話をしたのだが、跳ね除けられたあげく罵倒され、思わず電話を切ったあとに泣きだしてしまったらしい。

その話が真実かどうかなど、妹の泣き顔をみた瞬間どうでもよくなった。そのとき自分の中から火山のマグマのように噴き出したものは、そう。
――置いていかないでくれ、たのむ――
という一言だった。

(おれより先に、妹が恋愛を経験している......?)
しかも話を聞くと彼氏は自分のクラスメイトだった。「連絡網に載っているからおれの家の電話番号知ってたのかあ」なんて今更ながら呑気に思った。

しかも、その男は明らかにおれと同じクラスの下等ヒエラルキーであるにも関わらず、更に下等なおれに関してはちゃっかり見下すタイプの人間......!すなわち外道!!悪辣!!卑劣漢!!その身に受けよ、"神の雷(トールハンマー)"!!
などと叫んでも意味がない。
今は「兄として」という程を保ちつつ、2人の別れを高田社長級の巧みな話術で推奨するのがオレのクールなミッション。

そこで、彼に見下されてる自分では役不足だと思ったオレは、執事を装って電話に出たってワケ(nice things)。

オレッチはクラスのほとんどが声も聞いたことないような陰キャだったから彼も思わず騙されたって話さ(今思えば父親とかにするべきでした)。

小一時間話しても納得しない彼。心の失った何かを埋めるように『黒執事』を読み始める妹。硬直した状況はどんどんと人の心を狂わせる――。

「下川一族は生まれてすぐ戦斧の戦闘訓練を受けております」

「あまり舐めないで頂きたい。下川一族で最も軽いもの......それが命です」

好き勝手に喋っていたら妹に電話を奪われた。
「今までの、兄ちゃんだから。もう電話してこないで」
と言って電話を切ってしまった。裏切り者。

次の日から、なんとなくクラスで気まずいかなと思ったが、どちらも友達が居なかったので、卒業まで何の問題も起こらなかった。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』をリリース。2018年11月には4thアルバム『OSジャンクション』を発表した。2020年3月には5thアルバム『ブラクラ』をリリース。