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INTERVIEW

Japanese

挫・人間

2020年03月号掲載

挫・人間

Member:下川 リヲ(Vo/Gt)

Interviewer:沖 さやこ

挫・人間5枚目となるフル・アルバム『ブラクラ』、かなり完成度が高い。元来バンドが持ち合わせていた要素やセンスをよりソリッドに際立たせ、バンドのエネルギー、ユーモア、狂気までもを描く。加えて、まったく異なる音楽性でありつつも、1本の軸が見え、プロローグからエピローグまでの流れもドラマチックでスムーズという作品性も心地よい。己の美学を貫き通し続けた孤高のバンドの、会心の一作と言ってもいいのではないだろうか。


自分が出せる答えは、自分が思う"なんらかの美しいもの"ということしかない。でも、それがあればやっていける


-『ブラクラ』、すごくいいです。バンドが始まってから10年強、着々と様々なエリアの開発を進めてきた挫・人間王国が、とうとう完成したなと確信する作品でした。

だとしたら完全に独立国家ですね。国民を増やさないと(笑)!

-国民大満足のアルバムではないでしょうか。この10年のバンドの総集編的なものだけでなく、新しい要素もあって、ここ20年くらいのインターネット文化を感じるものでもあって。いろんな歴史を積み重ねたうえで生まれている印象がありました。

おっしゃっていただいたように、バンドの総集編みたいな内容にはしたくて、そのためにスクラップ・アンド・ビルドをしていった感じですね。自己否定、自己破壊からの怒り! みたいな(笑)。

-なぜ総集編のようなアルバムにしたいと思われたのでしょう?

これまでは自分の暗いところを隠していたつもりなんですけど――まぁ結果的には隠れてない部分もあったんですけど――暗い部分を否定して明るい部分を出そうという意識だったんです。でも、今回は1枚目(2013年リリースの1stアルバム『苺苺苺苺苺』)くらいの自分の暗い面とかも出してみようと思ったんですよね。そうすると過去の自分と向かい合うことになるし、これからのこととかもいろいろ考えて、自己否定が始まったんです(笑)。いろんなことやってきましたけど......まとめると......変なバンドだなぁ......って(苦笑)。普通のロック・バンドと同じことをやってるんですけど、結果出てくるものがまったく違うというか。

-正統派ロック・スピリットを持っているけれど、アウトプットするとだいぶ異端で突飛なのが挫・人間なんだろうなと。

"かっこいいと思うものを出そう!"と思ってるとこうなるんですよね(笑)。シンプルなロック・サウンドにはなっていかないというか。

-そうですよね。とはいっても、『ブラクラ』は、3rdアルバム『もょもと』(2017年リリース)や4thアルバム『OSジャンクション』(2018年リリース)以上に、恥ずかしがらずにまっすぐやりきっている部分も多くないですか? もともと挫・人間が持っていた要素が、クリアに出てる気がして。

あ、"シンプルに、ソリッドにやってみよう!"という初期テーマがあったんですよ。煙に巻いてしまいがちだけど、今回は「マジメと云う」で応援してみたり、「一生のお願い」でロマンチックなことを言ってみたり、そういうのもやっちゃおうかな! と。

-「一生のお願い」、ほんとロマンチックで。

まぁ、妄想なんですけどね......。

-ラヴ・ソングについて話すとき、定番のくだりになってきてますね(笑)。

自分の世界で話が進んでいく系の人間の曲です(笑)。すぐ"前世"とか言い出して規模を大きくするところがありますね......。僕、どうやらロマンチストみたいで、普段思ってることを友人に話すと"何ロマンチックなこと言ってんだよ。気持ち悪ぃぞ!"と怒られたりするんです(笑)。わりと脳内お花畑なのかも。ただ咲いてる花が毒々しいというか。

-毒々しいお花だけでなく、きれいなお花もこれまでにたくさん咲いてると思いますよ。

なんちゅうグラデーションだ! って感じですよね(苦笑)。挫・人間が挫・人間を演じ始めたらおしまいだなと思うんです。だから、"肩の力を抜いて作ってみよう。普段の俺たち、普段の俺を音楽にしよう!"と思ったら、結果的にすごく挫・人間っぽいものができてしまった――おぞましい呪いですよ(笑)! 本当に怖いなと思いました。

-はははは(笑)。そのシンボルになるのが「ソモサン・セッパ」ですよね。インターネットという概念や音楽、文化、下川さんの脳内が爆発するような曲で。

MVも友達がFlashで作ってくれて、やっぱり俺はここ出身だなと。自分の自我はそこにあるんですよね。普段行動するコミュニティも狭いし、人との関わりを断絶しているところもあるし。現実世界と非現実世界がしっかり分かれているぶん、非現実世界である自分の世界に入り込んでしまうんですよ。言葉にすると少女漫画みたいなんですけど。

-実際過去に『非現実派宣言』(2016年)というミニ・アルバムもリリースしてますしね。

そうですね(笑)。そういう"自分の中の守られた空間"に入ってこれる人しか周りにいないですし、それ以外の世界とは本当に関わりがないんです。だから、わりと"静謐な箱"みたいなところで生活してるなと。でも、この社会で生きていかなければならないとなると、税金とか、家賃とかに対抗していかなければならないですよね。だから、現実と自分の世界を行き来しながら生活してるんですけど、「ソモサン・セッパ」は完全に自分の世界の中だけの出来事というか。登場人物も僕しかいないですし。

-たしかに。『OSジャンクション』の「JKコンピューター」も下川ワールドが炸裂してましたけど、あれはアベ(マコト/Ba/Cho)さんも夏目(創太/Gt/Cho)さんも登場人物として参加してましたし。ここまで下川さんばっかりなのは最近だと珍しいなと。

これは"全部俺にやらせてくれ!"と頼んで。最後にできた曲なんですけど、一番スムーズに書けました。最近ランニングしてて気づいたんですけど、息切れをしてくるとどんどん五感の世界に入っていくので、考えることがどんどん少なくなっていくんです。でも、普通にダラッと椅子に座ったりしてると、脳内が常に「ソモサン・セッパ」みたいな状態で(笑)、違う思考が10個くらい同時進行してる――あれ? こう言うとめちゃくちゃかっこいいな。

-(笑)

とにかく、いろんな思考が脳内でぐちゃぐちゃになってるんですよね。それをそのまんま書いたらこんなことになってしまったんですけど、聴いてもらったら"これはすごい曲だよ。他の人に書けない曲だから、いいことだよ"と褒めていただけて。......褒められるとは思ってもみなかったなと(笑)。以前書いた「下川 VS 世間」(2015年リリースの2ndアルバム『テレポート・ミュージック』収録曲)は"世間と自分が戦ってたと思ったら、その正体は自分だった。そこに立ち向かわなければいけない"というオチだったけど、「ソモサン・セッパ」はネガティヴもポジティヴも一致団結してどこかへ向かっていく――そういうゴールをひとつ見いだせたのかなって。

-うんうん、そうですね。成長が見えます。

結局自分が出せる答えは、自分が思う"なんらかの美しいもの"ということしかない。でも、それがあればやっていける。自分で聴いていて、わりとポジティヴな曲だと思いました。

-カオティックな下川ワールドがドラマチックに描かれている曲だと思います。曲中に出てくる"てんしもかわちゃん"がほんとかわいくて。私のもとにも"てんしもかわちゃん"が現れて"関係ないわ、アウフヘーベンよ!"と鼓舞してほしいです。

あははは! そんなふうに聴いてもらえたら嬉しいですね。"アウフヘーベン"はどんなときにも使える魔法の言葉で、お気に入りです(笑)。下川ロボも下川犬も下川たちも全部僕の声なので、僕の声だけでどれだけトラック録ったんだろう......? 想像しうる自分のキャラクターを出してみました。

-そういう曲をバンドでできるのは、素晴らしいことですよね。

ほんとそうですよね。そもそも誰がこんなこと手伝ってくれるんだっていう(笑)。僕の弾き語りの曲のアレンジをみんなが練ってくれて、「マカロニを探せ!」とかはアベが結構考えてくれてます。......思い返せばこのアルバムの制作は「ソモサン・セッパ」の展開と同じような感じで、ずっと僕がもやもやを抱えて苦しみながら作っていて、最終的に「ソモサン・セッパ」を作ったことでその苦しみから抜ける――アルバムが「ソモサン・セッパ」と一緒にゴールした感覚はあるかもしれない。

-その"苦しみ"というのは、最初におっしゃっていた"自己否定"や"今後のこと"とかですか?

そうですね。それ以外にも"バンドを長くやってプロっぽくなって、メンバーと最近あんまり音楽友達みたいな話をしないな"と思ったり、いろんなことが重なって。もともと僕らは最近どんな曲を聴いているのか教え合って、悪ふざけみたいな感じで"こういうのやってみようよ!"と作った曲が多かったんですけど、今回はそういう感じのものはないなー......って思ったんです。曲作りが作業的になっていくとなかなかポジティヴにはならなくて。女々しい話なんですけど、僕としてはそういうのが大変だったのかな。何を書こうか一番悩んだかもしれない。そんなときに夏目が「童貞トキメキ☆パラダイス」を持ってきてくれて。こういう楽しい感じの曲を作ってくれてありがたいなと。