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LIVE REPORT

Japanese

挫・人間

Skream! マガジン 2017年12月号掲載

2017.11.10 @渋谷CLUB QUATTRO

Writer 沖 さやこ

最新作『もょもと』について、下川リヲ(Vo/Gt)はインタビューで"僕の憧れのロック・バンドのアルバムってこんな感じ! という作品になった"と語った。ツアー・ファイナルで会場全体が笑顔に包まれた感動的な空間になったのは、彼らがステージ上でその言葉を全うできたからだろう。

"もょもと"の由来にもなった"ドラゴンクエストⅡ 悪霊の神々"の楽曲をBGMに、夏目創太(Gt/Cho)がディズニーランドばりに情感たっぷりの開演前の注意事項アナウンスを届けると、レベル・アップ音とともに「テクノ番長」のイントロが流れ、ライヴがスタート。マイク・スタンド前で歌いながら振付を踊り、間奏で"非現実を超えて現実の世界にやってきました。今日この夜だけが俺にとっての現実です!"と喉を枯らして叫ぶ下川の姿からも多大なる気合が感じられる。アベマコト(Ba/Cho)の"みなさんダンスの準備はよろしいでしょうか? 踊ってくれ!"の煽りからファンク・ナンバー「おしゃれメロス」へ。大胆でグルーヴィなベース・プレイは、感心すると同時に、そのハイ・スキルさがどうにも笑えてしまう。この歪さも挫・人間のチャーム・ポイントである。アベと夏目だけでなく、サポート・ドラマーである菅 大智もプレイに歌心があり、何よりダイナミック。躊躇することなく突進していく痛快さが、彼らのユーモアの根源ではないだろうか。


楽曲の振れ幅の大きさと同様に、ステージングも一辺倒ではないところも彼らの特徴のひとつ。「人生地獄絵図」はクレイジーなくらいパンクで、とにかく真剣に楽しそうに演奏する4人の人間力が炸裂し、下川のギター・イントロで始まるセンチメンタル・ポップな「ハヤオ」はメンバー3人でステップを合わせて左右に揺れたりと、とにかく情報量も多い。加えて彼らは飛び道具を多数持っている。「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」はその最たる例。3人が楽器を置き、まずは裏声&マイクを両手で持って、アイドル的な自己紹介を届ける。観客から"かわいい~!"という、まるで美少女に捧げるような声が上がるチーム・プレイっぷりも熱い。MCと引退をほのめかす小芝居をし、"普通の女の子に戻りたい!"という台詞を合図に楽曲へ。オケが流れ、3人はヴォーカルとダンスとサイリウムでパフォーマンスし、菅も完璧なダンスとサイリウムで応戦するという徹底具合も秀逸だ。

再び楽器を手にした4人は、がらりとモードを変えてバラード「そばにいられればいいのに」を演奏する。ぽつぽつとつぶやくように歌う下川の声も、メンバーの繊細なプレイも切なく優しい。メンバー全員が下川の作る曲を純粋に愛していることが伝わってきた。「ココ」からスマートに「天使と人工衛星」に繋ぎ、洒落た音使いが印象的な「ゲームボーイズメモリー」をエネルギッシュに届ける。音楽への誠実さが表れた真摯なアクトに、観客一同聴き入った。

観客の中にもインターネット上で出会ったことがある人がいるはずだと感動を噛みしめる下川が"インターネット上では味わえない感動を曲にした"と言い、4人は笑顔で「チャーハンたべたい」、「明日、俺はAxSxEになる......」を披露する。自分たちの音楽を媒介にして目の前の人々と交信する――それは非現実の世界に自分の居場所を作ってきた下川が、大好きなメンバーとともに自分たちの音楽でもって現実世界に少しずつこれだけ多くの仲間を見つけられたことの象徴でもあった。「絶望シネマで臨死」はラスボス感ある圧巻の爆発力。下川が最後までギターをかき鳴らし続けて本編を終えるところもロック・バンド然としていた。


アンコールでは「Tee-Poφwy」のオケが流れると、柄シャツとサングラス姿の下川、アベ、菅の3人がバック・コーラスとプチ・ダンスに徹し、ハンドマイクの夏目がポエトリー・リーディング(?)を絶叫。気づけば3人はステージから撤収しており、最終的には夏目だけがステージに残り、観客から"もう諦めてサンバ"の大合唱が起こるというシュールすぎる展開が成立するのも、このバンドならではだ。

再びステージに4人が揃い、下川が最後に「下川最強伝説」を演奏することを宣言。そこから下川が15分ほど、自身の実らなかった初恋について詳細に語り始める。彼は"俺は初恋の相手を笑いものにしたいわけではない。ただ俺は初恋の相手への恋愛感情を超えて自分を好きになりたいし、誰かを好きになりたい"と言うが、どうしても初恋の魂は報われないらしい。スイッチが入った彼は彼女への想い、そして自分たちの音楽を愛する目の前にいる人々への想い、これまで生きてきた過去の自分への想い、いまこの瞬間に感じている自分の高揚をまくしたてる。"あいつへの愛を、お前らへの愛をここにぶちまけて帰りたい。俺はお前らを前にして心臓がバクバク言っているわけ! この心臓がなんて言っているのかお前たちに教えてやるよ!"――そう叫ぶ姿には、胸に闇を抱えた人間だからこそ見つけられた確かな希望が漲っていた。

「下川最強伝説」は下川が最後壮大に"羽ばたきたい"と歌い上げて締めるのが定番だが、この日彼はその特権を観客に委ねた。それは観客に対する最大限の感謝だった。それに応えるように観客ひとりひとりも全力で声を上げる。挫・人間というバンドがロックと真正面から向き合ったからこそ生まれた空間だろう。復活の呪文を唱え新たなステージに挑んだ挫・人間。第1ミッションをクリアした3人は、今後どのような冒険を見せてくれるのだろうか。


[Setlist]
1. テクノ番長
2. よくないんです
3. おしゃれメロス
4. 人類
5. 人生地獄絵図
6. セルアウト禅問答
7. 土曜日の俺はちょっと違う
8. ハヤオ
9. ☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆
10. そばにいられればいいのに
11. ココ
12. 天使と人工衛星
13. ゲームボーイズメモリー
14. チャーハンたべたい
15. 明日、俺はAxSxEになる......
16. クズとリンゴ
17. 絶望シネマで臨死

en1. Tee-Poφwy
en2. 下川最強伝説

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