挫・人間 下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第37回】

挫・人間下川リヲの"モノホンプレーヤーになれねえ"【第37回】

2024年06月号掲載

挫・人間

挫・人間はまったく人気もない頃から特殊な客が集まりがちだった。

赤いロープで亀甲縛りをしたままライブにくる女や、女の子に踏まれるのが好きな関西弁で喋る外国人、毎回気合いの入ったコスプレをしてくる女もいたし、全身タイツで股間から白鳥が生えてる性別不明の存在もいた。おれが警察なら全員逮捕している。

オレンジのツナギを着てる人が集まっていたりすると、「今日はPOLYSICSがライブやるのか～」なんて思ったりするものだが、上記のような特殊な客がちゃんと会場前に並んでいるのを想像すると「何が開催されるんだ？！」と混乱するに違いない。

ファンはバンドの写し鏡と言われるが、多種多様な狂人がそれぞれ自由に楽しむ様は正しく解放的で自分の理想である。「普通のお客さんとか、いないんだね」と打ち上げで対バン相手に言われても構わないのである。

そんな昔、下北沢にライブを観に行くとボブカットのセーラー服を着た女の子が話しかけてくる。

「私、下川さんのファンなんです！短いんですけど今日ライブ出演するので良かったら観てってください！」

なんだ、普通のファンだっているじゃないか！と感動する。いや、今はそりゃ狂人以外もライブ来てくれますけど、当時は珍しかったんですよ。

自分のファンだと名乗る女の子がどんなライブをするのか楽しみにしていると、照明が落ち、その女の子がステージからフロアに降りてくる。

「あ、フロアでやる感じなんだ」
と思うとアイドルぽい楽曲が流れてその子が激しく踊り始める。5分くらい観て気付いたのだが、特に歌ったり演奏したりすることはなくひたすらにダンスをするライブらしい。

あざとかわいい感じで踊っていると思ったが突然その子が自分のボブカットを鷲掴みにして、「オラァ！！！！！！」と叫び、ボブカットを床に叩きつけた。

「えっ？！」と驚くおれ、床に叩きつけられたボブのカツラと、坊主頭でヘドバンしまくる女子高生......
「こんなんばっかりかい！！」
とおれは心の中でつっこんだ。

昔より人気も出たが、あの日の狂人たちにまたライブで会いたいという気持ちも強い。いや、まともな服装で普通にライブに来てくれている可能性もあるのだが。

でもやっぱりファンは写し鏡だし、おれ自身が綺麗になってまともな社会性を身につけた証拠かも！
なんて思っていたら、最近はライブ中に客から大量の罵声を頂くようになった。

それは自分にとって理想の、「特殊な奴らが集まって自由にしている特殊な空間」だったので非常に懐かしく、うれしかった。

ライブ後、友達に「下川も普通じゃないけど、客もかなり普通じゃないな」と言われた。
おれも負けじと特殊さを磨いていかねば、と思う。
これからはライブハウス前に特殊な奴らが集まっていたら「今日は挫・人間がライブやるっぽいな......」と思われるようにならねばなるまい。

挫・人間

2008年、熊本で結成。"閃光ライオット2009"の決勝大会に進出し、同大会のキャンペーン・ガール、夏未エレナが選出する"夏未エレナ賞"を受賞。2013年に1stアルバム『苺苺苺苺苺』を発表。2021年3月にUSEN STUDIO COASTにて単独公演を実施した。2023年11月に新体制初となる東名阪ワンマン・ツアーを行った。2024年3月には2年7ヶ月ぶりのアルバム『銀河絶叫』をリリース。同作の発売を記念した全国ワンマン・ツアーも開催した。

挫・人間

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