Japanese
ROCKのススメ Vol.2
Skream! マガジン 2015年03月号掲載
2015.02.13 @ 渋谷 WWW
Writer 沖 さやこ
Skream!とHMVがタッグを組んだライヴ・イベント"ROCKのススメ"第2回。今回の出演は、Skream!主催イベント"Skream! EXPO -02-"(※2011年8月開催)にも出演経験がある真空ホロウ、そしてSkream!ではお馴染みのヒトリエとシナリオアートという、独自のロックを追究する3バンドが渋谷WWWに集結した。
トップバッターはシナリオアート。3人が身に纏った青を基調にした衣装は、彼らが音で表現している夜や宇宙を彷彿とさせる。1曲目「スペイシー」からフロアにはクラップが沸き、3人の登場を大いに歓迎した。筆者が彼らのライヴを観るのは約1年ぶりだったのだが、まずハットリクミコのドラムとヴォーカルに、可憐さだけではなく力強さが加わっていたことに驚いた。彼女から発信されるすべての音は引き締まり、バンドのグルーヴを牽引する。クミコとハヤシコウスケのツイン・ヴォーカルがスピード感を生む「アオイコドク」も、3人全員がとても自信に満ちた音を鳴らす。一切迷いがない。何かを掴んだ人々にしか出せない清々しさだが、"彼らは一体何を掴んだのだろう?"と考えていると、彼女のドラムに、繊細なエフェクトが効いたコウスケのギターとヤマシタタカヒサのベースが重なり「トウキョウメランコリー」。白雪のように美しくて、煌びやかで優しい音なのに、そこはかとなく滲む毒。おとぎの国のようだ。"この東京が彼らの音のように柔らかく、傷つきやすい夢のある場所だったらいいのに"、とさえ思う。
"ROCKのススメというイベントに出させてもらったからには、シナリオアートのロックンロールはこんなもんやぞ! というのを伝えて帰りたい"と告げたクミコは、この日がバレンタイン・デー前日ということに触れ"ここにいる人たちに特別なプレゼントを"と、1stフル・アルバムのリリースと9都市のワンマン・ツアーの開催を発表した。この日彼らがこれだけ堂々としたライヴをしているのは、アルバムを完成させられたことも理由のひとつかもしれない。星屑の中を疾走するような「ハロウシンパシー」に続き、クミコの"まだまだいきますよー!"の掛け声で「シュッシュポップ」。7色の照明がドリーミーな空間を作る。それは触ったら弾けてしまいそうなシャボン玉のように華奢なのに、そこに触れた人々を染め上げてしまうような力もある。その力の正体は、ラストの「ワンダーボックスⅡ」の前にコウスケが語った言葉にすべて詰まっている。"この世の中には自分の幸せのために、誰かの大切なもの、国、心を奪う強さが溢れ返っています。だけど僕たちは優しい、隣で寄り添える音楽を突き詰めていきたいと思います""これからも優しさを"と語る彼の強い眼差しが、今も脳裏に焼きついている。自分たちの想いやメッセージを強く外に発信する3人は、どこまでも凛としていた。
続いての登場は真空ホロウ。松本明人(Vo/Gt)の"真空ホロウへようこそ"とともに「闇に踊れ」で情熱的に幕を開ける。赤に染まる舞台で、赤いジャケットを羽織り妖艶に歌に興じる松本の姿に目が離せない。強い美意識が貫かれた真空ホロウの音楽は、かつては映画館だったWWWの空間との相性も抜群だ。続いてシーケンスの入ったダンス・ナンバー「Balance cont(r)ol」。真空ホロウの音楽はどれも――非常に抽象的な表現で申し訳ないが――手に持ったガラスが手から離れて地面に叩きつけられる直前までのような、終わりを目前にした"刹那の儚い解放感"がある。松本明人の綴るシナリオは、非現実的な現実なのか、それとも現実的な非現実なのか。目の前に広がる景色にただただ見入る。
松本のギターと村田智史のベースが太いグルーヴを作る「シンデレラコンプレックス」では、実はこのバンドの根にあるものが非常に雄雄しいものだということを強く印象付ける。チューニングすらも演出のひとつにして、インディーズ時代からの名曲のひとつ「引力と線とは」へとさらりと繋げて景色を描く様は、舞台に立つ演者のように華々しかった。
MCで村田は自分たちのバンドがジャケットの帯の細部までポリシーを貫いてることをフロアに伝え、4月8日にリリースされるセルフ・タイトルのフル・アルバムに触れた。とはいえお馴染みのゆるゆるトーク。村田はいいことを言ってるのにもかかわらず、本人も言っていた通りなぜだか面白おかしくなってしまう......それが彼のキャラクター。そして音楽性とのギャップも真空ホロウの味である。村田の"ヒトリエのベースのイガラシくんに、俺のベースの音ずきゅんとしてた? って訊いたら、ずきゅんとしてましたと言ってくれた。みんなずきゅんの用意はできてるか!? バレンタイン・デーだし、ずきゅんしちゃうぞ!"で、アッパーな「アナフィラキシーショック」「バタフライスクールエフェクト」へとなだれ込む。松本のヴォーカルは楽曲の登場人物を演じるようにフレーズごとに千変万化。だがふとした瞬間に素朴な等身大の彼の姿が零れることがある。それを受け止められたときに訪れる幸福感は何事にも代え難い。ラストは3人の生音のみで織り成す、スケール感のある「The Small world」。新旧織り交ぜたセットリストと巧みな手腕で観衆を翻弄しながら魅了した。
そしてトリを飾るのはヒトリエ。彼らにとっては、大成功を収めた赤坂BLITZでのワンマン・ツアー・ファイナル以来の約1ヶ月ぶりのライヴだ。まずは「終着点」「インパーフェクション」と現在形のヒトリエをオーディエンスに叩きつける。赤坂BLITZ公演はワンマン・ツアーの溢れんばかりの高揚が音に如実に表れていたが、この日の彼らは冷静に内に秘めた情熱でもって音を鳴らす。故にアッパーでアグレッシヴな楽曲が多かったにもかかわらず、彼らの繊細さやセンチメンタルな面がよく出ていた。シノダのギターは今にも泣き出しそうな脆さがあり、wowakaのヴォーカルも彼の作るマイナーのメロディ・ラインとシンクロする感傷性を放つ。このバンドはライヴをテクニックで乗り越えるのではなく、いつも"今の自分たち"のモードで体当たりをする、不器用なバンドである。だからこそ常に攻めの姿勢で、ライヴごとに違う景色を見せるのだ。
映画館を改造した故に、雛壇のような構造のWWW。シノダがMCで最上段にいる初めてヒトリエのステージを観ているであろう観客たちに視線を向けて"我々を見下ろす気分はどうだい? 俺にはあんたらの顔がよく見えます。いつまでそこで腕組んで見ていられるかな!"と煽り「るらるら」へ。イガラシとシノダはステージ前方に出てフロアを刺激し、wowakaも音をひっくり返すような根強い歌声で圧倒。ダンス・ビートと哀愁が絡み合う「カラノワレモノ」は4人が心をひとつにして音を奏でる、その集中力がもたらす美しさに恍惚とした。
「アンチテーゼ・ジャンクガール」で新しいアレンジを盛り込み新鮮な色を与えたあとは、イガラシのベース・ソロから「踊るマネキン、唄う阿呆」。3人のコーラスにより、wowakaのヴォーカルもさらに引き立つ。高まり続ける4人の集中力。破壊音から導入のイントロを経て「センスレス・ワンダー」に移ると、シノダのリフが鳴るや否やフロアから歓声が沸いた。ハードコア的なベース、太く強靭なドラム、焦燥的なギター、そしてシャウト混じりやファルセットなどのギミックで魅せるヴォーカル。ヒトリエのロックンロールが今この瞬間にも進化しているのが見える。それは4人それぞれが同次元で、このヒトリエという場所を求め、ヒトリエというものの可能性を強く信じているからこそ実現できることだ。
フロアからの"もう1回"の声を受けて再びメンバーはステージに登場。シノダが"お望み通りもう1回やってやるよ"と告げ、アンコールは「ローリンガール」。最後までヒトリエの作る、彼らならではの美しさが壊れることはなかった。
フェスやサーキットが全国各地で行われ、バンドの自主企画などが主流の時代。メディアがこうして中規模のライヴハウスで出演者を絞ったイベントを開催することには大きな意味があると思う。そして、シナリオアートも真空ホロウもヒトリエも、自分たちの音楽を守るだけではなく、それを信じて極め、広い場所へと発信し続けている。"楽しい"を基盤にしながらもその背景に様々な含みを持っている音楽は、深みにはまればはまるほど面白い。1組1組の1曲1曲を大事に吸収できた、"ROCKのススメ Vol.2"であった。
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