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INTERVIEW

Japanese

ヒトリエ

2022年07月号掲載

ヒトリエ

Member:シノダ(Vo/Gt) イガラシ(Ba) ゆーまお(Dr)

Interviewer:秦 理絵

強く、美しい。そんなヒトリエのニュー・アルバム『PHARMACY』が完成した。新体制になり、初めてリリースされたアルバム『REAMP』から1年4ヶ月。シングル「3分29秒」(アニメ"86―エイティシックス―"オープニング・テーマ)、「風、花」(アニメ"ダンス・ダンス・ダンスール"エンディング・テーマ)が収録された今作は、バンドの裾野を広げるべく大胆な進化を遂げる1枚になった。エレクトロなサウンドを導入し、"歌"の在り方を突き詰めたことで、これまで以上にポップスとしての側面も強い全10曲になったが、あくまでもその根底にはロック・バンドとしての美学が貫かれている。刹那の今を大きな包容力で肯定する。そんな強いメッセージも込められた意欲作について、メンバー全員に話を訊いた。

-すごく優しいアルバムになったなと思いました。

シノダ:あー、なるほど。

-意外な感想ですか?

シノダ:いや、意外ではないです。初めて言われましたけどね。自分たちでは面白いものができたなと思ってるんですよ。いろいろなことに挑戦できたし。前作『REAMP』(2021年リリースのアルバム)のときは本当にギリギリな状態でしたから。自分を追い詰めるような感じで作った側面もあったけど、そういった部分が今回は一切なかったんです。真逆の状態でしたね。

-ちゃんと音楽を楽しみながら制作に取り組めたということですか?

シノダ:うん、スムーズなレコーディングでした。『REAMP』のころは、これ以上自分に精神的な負荷をかけたら破壊されてしまうっていう状態だったので。

-『REAMP』はwowaka(Vo/Gt)さんが亡くなってから初めて新しく作ったアルバムで、3人のヒトリエとして何がやれるかがわからない状態だったと言ってましたからね。

シノダ:そうなんですよね。そういう状態の中で『REAMP』を作り上げて、ツアーをやって、「ステレオジュブナイル」とか「風、花」を作って。そういうプロセスを経たことによって、今回は3人で音楽を作るっていう見通しが立つようになってたんです。

-イガラシさん、ゆーまおさんは、今作を作るうえでどんなことを考えていましたか?

イガラシ:前回はコンセプトも立てずに作ったっていうことをお話ししてたと思うんですけど。それを踏まえて、個人的にはもう一度、wowakaがイニシアチヴをとって、それに答えていくような作業をしてみたいと思ってたんです。そう考えてたところに、シノダが曲順も決めたデモをバッっと出してきて。自分がやりたいことと合致したんですよね。

-かつてのwowakaさんがやっていたように、まずシノダさんがアルバムの全体像をしっかりイメージして、制作をリードしていくかたちでやってみたかった?

イガラシ:そう、だからシノダが持ってきてくれたものに対して、もう僕は"任せます"っていう感じでしたね。「Flight Simulator」って曲は入れたほうがいい気がするという話だけはさせてもらって。これからまたツアーをまわっていくときに、こういう曲をやってるバンドでいたいと思ったんですよ。

-「Flight Simulator」はいわゆるロックで疾走感のあるタイプの曲ですもんね。

イガラシ:そういう要素は必要だなと思ったんです。

-シノダさんは、最初にアルバムの全体像から構築しようと思ったのはどうしてだったんですか?

シノダ:先に自分の中で固めていったほうが、みんなが動きやすいだろうなって思ったんです。あとは、とにかくいろんな音楽をやりかったんですよね。『REAMP』も振り幅は広かったけど、そのあとに「風、花」っていうポップな曲を出せたから、それを追い風にして、どれだけ振り幅の広い曲を作れるかっていうチャレンジもしたくなったんです。それで、僕が頭の中で描いてる図を口頭では説明できなかったので、これはもう先に曲順を組んでしまって、これでどうだ!? って判断してもらいました。

-シングルの「3分29秒」、「ステレオジュブナイル」と、さっき話に出た「Flight Simulator」をのぞいては、比較的ゆったりとした曲調が多いですよね。

ゆーまお:それは思いました。実はシノダが構成を組んでくる前に、みんなで曲を出し合うドラフト会議もやったんですよ。そのときに僕が作った「電影回帰」も渡してて、それも選ばれてますからね。シングルに「3分29秒」とか「ステレオジュブナイル」があるから、アッパーな曲を書く枠はもう必要ないかなと思ってたし、ゆったりしたエレクトロなものがやりたいっていうので作った曲だったんですよ。それが最終的にボコボコの速いドラム・フィルが入る曲に変わっててびっくりしましたけど(笑)。

-今年1月にリリースされたデジタル・シングル「ステレオジュブナイル」は、ゆーまおさんらしい開放的な楽曲でしたけど、そのあたりからアルバムは見据えていたんですか?

シノダ:いや、このときはアルバムのことは考えてなかったんじゃないかな。

ゆーまお:どちらかというと、シングルを出したいってことが先行してましたね。最近、世の中に明るい曲が少ないなと思ったんです。太陽のように明るい曲があんまりない。どちらかと言うと、チルだとかおやすみモードな曲が多い印象があって。

シノダ:今はバンドがこういう曲をやらなくなってますよね。僕もそういうモードに引っ張られて曲を書いてる部分があったし。それよりも、今回はゆーまおの提案に乗っかって、思い切り明るい曲を作ったほうが面白いんじゃないかなと思ったんです。

-"こんなん聴いてくれんのお前だけ"って歌ってたり、歌詞にはヒトリエの音楽を愛してくれる人へのストレートな想いを感じる曲だなと思いました。

シノダ:それは"Amplified Tour(ヒトリエ Amplified Tour 2021)"を経て思ったことなんですよ。コロナ禍になって、俺らも3人になったのに、なんでこの人たちは俺たちを観に来てくれるんだろう? って不思議でしょうがなかったんです。それが「ステレオジュブナイル」の歌詞を書くにあたってバーッと出てきたんですよ。で、なるほど、と。俺はリスナーに対してこういうことを思ってるんだな。じゃあ、これを最後まで書き切ってみようっていう。結局、みんなロックが好きだよね。ロックっていいよねということです。

-ええ、"五月蝿い音には勝てないじゃんね"とか最高です。

シノダ:そんな恥ずかしいことを書いたことないし、書きたくもなかったけど。それをやるタイミングが今来たんだなって。自分らしく照れくさいことが言えたなって満足してる曲です。

-こういう自分の気持ちをストレートに綴った曲がナチュラルに生まれたことで、そのあとのアルバム制作へのはずみになった部分はありましたか?

シノダ:聴いてくれるからこそ、じゃあ、もっと聴いてくれるようにするにはどうしたらいいんだろう? っていう欲求が湧いてきたんですよ。現状、ヒトリエというバンドを存続させて、3人の音楽を聴いてもらうことには成功していると思う。じゃあ、その先もっと多くの人に聴いてもらわなきゃダメだよねっていうモードに入ろうかって。

-それが、より振り幅の広い音楽をやりたいっていう話にも......。

シノダ:そう、繋がるんです。

-「Flashback, Francesca」を1曲目に置いたのもその発想ありきですよね。こういうスタイリッシュな曲調で幕を開けることで、今作のモードを端的に表してますし。

シノダ:これは罠ですよね(笑)。人の懐に入る込むためには、これぐらいのスタートがいいんじゃないかって、スタイリッシュでモダンな感じを装った曲です。この曲を作っているときに、PRIMAL SCREAMの『Screamadelica』を聴いてたんです。ああいうレイヴ感のある音像になったらいいなと。'90sをリヴァイヴァルしてるっぽいテイストにしたくて。いろいろな音楽を聴いてきたけど、やっぱりPRIMAL SCREAMに帰ってくるし、私はこういうのが好きですよっていうのも詰め込んでるんです。だから、ふたりにも好き勝手してもらって。ゆーまおには普段は使わない楽器を使ってもらったりもしてますね。あれはコンガだっけ?

ゆーまお:ボンゴだね。

シノダ:エディットしてサンプリング的に使ってるんですよ。

ゆーまお:たまたまスタジオにあったから、ラッキーみたいな感じで使ったんです。

-曲調はスタイリッシュだけど、歌詞は皮肉めいた内容ですね。

シノダ:新宿歌舞伎町あたりの退廃的なムードを歌ってみました。

-"あいつらにしか聞こえない歌がある"というフレーズが痛烈でした。なんとなく「ステレオジュブナイル」と対比してしまうんですよ。

シノダ:たしかに、これはロックを聴かない人たちのことを指してますね。「ステレオジュブナイル」とは逆というか。自分のアンテナではキャッチできない周波数の音楽を、キャッチしながら生きてる人たちもいるじゃないですか。その現象を歌った一節です。自分の預かり知らないところにそういう人たちが存在する。ただ、そういう人たちのアンテナにも、この音楽が何か引っ掛からないかなって願ってる部分でもあるんです。どうやったら、そういう人たちに自分の声が、言葉が、サウンドが届くんだろうなって。