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LIVE REPORT

Japanese

ヒトリエ

Skream! マガジン 2018年05月号掲載

2018.03.25 @EX THEATER ROPPONGI

Writer 石角 友香

昨年12月にリリースしたミニ・アルバム『ai/SOlate』は、VOCALOIDクリエイターとしても活動するwowaka(Vo/Gt)のボカロ曲のセルフ・カバーである「アンノウン・マザーグース」が象徴的だが、ひとりで音楽を始めた表現者の核も、"ヒトリエ"という複数の人間のアンサンブルもすべて詰め込んだ、ある種の原点回帰作だと思う。つまり、ヒトリエであることを再度認識して、世に問うタイミング。4月に初の海外公演となる台北、上海でのライヴを前にした国内ツアーのファイナルでは、今バンドが持っている意志を確認する場でもあった。

James Blakeの「CMYK」を登場SEに用い、紫色のバックライトが幽玄なイメージを作り出すなか、その空間を切り裂くようなwowakaのギターが響きわたり、最新作収録曲の「NAI.」でライヴがスタート。"アンノウン"という言葉が、"自分の思いを知る人はいない、それでも歌う"という今のwowakaの宣言とも言えるこの曲は、ヒトリエ不変の軸でもある。複雑に絡み合い、時に突き放すように展開する演奏や構成に、フロアも感情を爆発させる。矢継ぎ早に新旧のレパートリーを畳み掛け、ライヴ初披露となるwowakaのVOCALOID曲「日常と地球の額縁」も披露された。湿り気を帯びたメロディと大きなグルーヴを持った16ビートが特徴的で、そのニュアンスはスムーズに次の「バスタブと夢遊」に繋がっていった。6曲を一気に駆け抜けるように披露すると、wowakaがツアーを巡り東京に帰還したことを述べ、"今日もあなたと僕らで、音と、心と、人間で、すごく気持ちいいところまで行ければいいなと、思います"と、MCも前のめり気味に真意を話している印象だ。そこからシノダ(Gt)の特徴的なサウンドのカッティング、イガラシ(Ba)の指弾きによるうねるフレージング、タイトなゆーまおのドラミングが有機的に鳴らされる「イヴステッパー」、そして曲間にはインストのインプロヴィゼーションも挟み、メンバーのプレイヤーとしてのスキルとセンスも堪能させてくれた。その流れを汲み、打ち込みのサウンドやパッドのビート感がダンサブルで、オートチューンを用いたwowakaのヴォーカルがメロディアスな「Loveless」が披露される。ライヴ序盤、拳を突き上げ前方に詰め掛けたファンも、このセクションでは身体を揺らして曲の世界を堪能しているようだった。

"ツアーを回ってきて、ステージに立っていることは当たり前のことではないと実感する"とwowakaがまさにこの日の心情を話すと、その素直な気持ちからすんなり繋がるように、ヒトリエ流の瑞々しいギター・ロック「目眩」へ。この曲を胸いっぱいに吸い込んだフロアに、後半戦はおなじみの「センスレス・ワンダー」や「アンハッピーリフレイン」などが、ステージ後方と会場奥の両方から照射されるレーザーの演出も相まって、さらに激烈な空間を作り上げていく。

そしてwowakaは、"音楽は、言葉じゃなくて、ステージ上とフロアの間にある見えない何かのようなものがあるから、ライヴができるんだよね"という趣旨の発言をし、"自分の全感情を、全部、込めた曲が書けました。その曲を歌わせてください"と、今回のツアーのハイライトである「アンノウン・マザーグース」をスタートさせた。複雑なリズム・チェンジ、膨大な言葉数、wowakaの脳内をバンド・アレンジに変換したこの曲がもたらす感情や感覚の開放は想像以上だった。言葉にならない何かで繋がったステージ上とフロアはラストの「絶対的」で、互いに完全燃焼するように想いを全身で表現。wowakaの根本と、バンドであることの必然。その深度が増しながら、前へ進むステージだった。

アンコールでは、自身が主催するツーマン公演の"nexUs"を全国ツアーの形式で行うことを発表し、ますます精力的に活動するヒトリエから目が離せない。


[Setlist]
1. NAI.
2. 深夜0時
3. インパーフェクション
4. ワンミーツハー
5. 日常と地球の額縁
6. バスタブと夢遊
7. イヴステッパー
8. Loveless
9. モノカラー
10. 目眩
11. センスレス・ワンダー
12. アンハッピーリフレイン
13. ソシアルクロック
14. Namid[A]me
15. トーキーダンス
16. アンノウン・マザーグース
17. 絶対的
en1. 踊るマネキン、唄う阿呆
en2. リトルクライベイビー

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