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LIVE REPORT

Japanese

ヒトリエ

Skream! マガジン 2023年05月号掲載

2023.04.25 @LIQUIDROOM ebisu

Writer : 稲垣 遥 Photographer:白石 達也

バンド、ヒトリエが今のポジションを築く第1歩になったと言っても過言ではないアルバム『ルームシック・ガールズエスケープ』。ボカロPとしてすでに活動していたwowaka(Vo/Gt)の楽曲が、シノダ(Gt/Cho)、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)という強力なプレイヤーと奏でる生音のバンド・サウンドになり、凄みを増して届けられた本作は、自主制作の初作品でありながら、多くの音楽好きや関係者の耳と心を掴み、バンドとしての認知度を広げるきっかけとなる作品となった。そんな同作のリリースから10年が経った今、3人になったヒトリエが改めて"10年後のルームシック・ガールズエスケープ TOUR"と題したツアーを開催。その東京公演2日目、恵比寿LIQUIDROOM公演だ。

定刻、鍵盤の音と点滅する照明の中、走って登場したシノダがノイズ音からギターを鳴らし、"Are you ready Tokyo!?"と開口一番放つと、フロアからも大きな声が上がる。高速ギターから、『ルームシック・ガールズエスケープ』同様「SisterJudy」で幕を開けた。アルバムの流れのまま続けた「モンタージュガール」では2曲目にして重々しい音の雪崩を起こすと、「シャッタードール」とここ最近ではレアな選曲にイントロから大歓声。イガラシとシノダが左右で速弾きを披露する様に目を奪われる。10年前の楽曲ということは、もちろんシノダが歌いながら弾くことなど想像もしてなかったギター・フレーズの数々なわけだが、10年で培ったタフさでそれを華麗に奏でてみせ、相変わらず頭からテンションをぶち上げてくる。

ダンス・チューン「アレとコレと、女の子」ではゆーまおのドラム捌きが凄まじいうえに、スティック回しもさりげなく披露。難解な楽曲を乗りこなし自分のものにしたのはシノダだけではないと、改めて3人全員の技術の高さを再認識させられる。"アレとコレもあったのならば、風と花もあるのではないだろうか"とシノダが朗読をするようにつぶやくと、「風、花」へ。LIQUIDROOMというハコの性質もあったのだろうか、それともこのライヴに臨む3人の気迫ゆえか、ポップに振り切ったはずのこの曲だが、この日はノイジー気味なロック・サウンドとして響いたのは新鮮だった。そこから、4カウントのあとシノダの絶叫を合図にフロアが一斉に跳ねたのは「るらるら」。BPMを上げ、インタールードではシノダがステージを転がりながらギターを弾き倒してフロアも熱くさせていった。

ここまでグングンと上昇し続けた温度をエモーショナルな胸の温もりに変えたのは、"みなさんにとって、そして僕たちにとっても大事な曲をやりたいと思います"(シノダ)と届けた「プリズムキューブ」。優しいメロディと裏腹、歌われているのは悶々とした惜別の想いを痛々しいほどに、身を削るように紡いだ言葉たちだ。青い光の中、繊細なギターを紡ぎながら歌うシノダの声を、緩急をつけたドラムが際立たせてゆく。しかし今宵の彼らは切ない想いにただ浸らせることはしない。ここに続けたのは「カラノワレモノ」で、オーディエンスを一斉に垂直にジャンプさせ、会場が揺れた。「るらるら」もそうだが、『ルームシック・ガールズエスケープ』というまさに原点の作品から、ライヴのキラーチューンが生まれている事実に改めて唸る。それは当時をリアルタイムで知らないリスナーにとっても鮮度のある楽曲の強さがあり、初期曲を心から愛し大事に歌い続ける3人の信念があり、毎度全力で向き合い続けた年月のぶんだけリアルな物語性が乗っているからこそのものだ。また、この日のライヴを"再現ライヴ"と銘打たず、"10年後の"と打ち出したのにも"今"を常に生きる彼らの意志が滲んでいるように思う。

"絶景かな、絶景かな"。一面にわたって美しく飛び跳ね続けたフロアを見て、同じく汗だくのシノダが嬉しそうに言うと、ロマンチックなダンス・ナンバー「undo」から、同じキャッチーな楽曲でも急転直下で不気味な方向に振り切った「ゲノゲノゲ」へ繋げたのも面白かった。ギターやベースも多彩な音色を荒々しく重ね、がなるように歌うシノダの歌とも相まって強烈なカタルシスがある。

"ちょっと今からみんなの力をお借りしたい。よろしいか?"とゆっくりとギターを弾き始めたシノダ。"ウォーオーオー、オーオーオオーオーオーオオオ"とひとり歌い、"行くぜ!"と放つと、フロアのひとりひとりからも同じように歌声が響く。"――wowakaより愛を込めて、「アンノウン・マザーグース」"。全方位から想いの乗ったシンガロングが身体を包み込み、シノダ、イガラシ、ゆーまおの声とも重なる。"帰ってきた"と言いたくなるこの大合唱は、きっと空の上にも届いたことだろう。さらに、四つ打ちの「サブリミナル・ワンステップ」でイガラシも飛び跳ねて狂騒的なムードを作り出してゆく。"最高すぎて爆発しそう"と漏らしたシノダはここで語り始めた。

"『ルームシック・ガールズエスケープ』を作ってから10年経ったらしいです。その間に、仲間のバンドが活動をやめてったり、解散したり、2度と会えなくなってしまうやつがいたり、疫病が流行してライヴができなくなったり、神様は俺からバンドすら奪ってしまうのかと思った。かと思えば、こうやってまたみんなで集まってバカ騒ぎできるようになったり。俺たちにとっては、血の滲む10年だった。それでも、「ヒトリエに影響を受けて音楽を始めた」とか、「一番影響を受けたギタリストはシノダさんです」とか言う若いやつも出てきて......まぁ、悪い気はしません。10年というヒトリエの歴史の中で、俺が歌い始めて4年目になるんです。でもこれまでも、たぶんこの先向こう10年も、ステージとフロアの関係性は変わらない。そんな変わらない関係性の中に、ヒトリエというバンドはあり続けたい。みんな、それに付き合ってほしいんだよね"

温かな拍手が湧くが、ひと呼吸置いて、溢れ出るように続けた。"エゴサしてたら「ヒトリエの音楽に救われてます」みたいなのたまに見るんだけど、俺らだって救われてるんだよねって急に言いたくなっちゃいました。すみません。だからお互い救い合って、って言うとヤバい商売みたいだけど、救い合っていきましょう。ずっと歌い続けていきたい曲"と届けたアルバムのラスト・ソング「泡色の街」。感謝と、これからも長く続けることをしっかりと言葉で示したシノダが、光に照らされながら"今日も悪足掻きをしている"と歌う様に心が震える。この日一番優しい声で、それから最後は絶唱で、アルバムの楽曲たちを最高のかたちで締めくくると、"みなさん、まだまだバカ騒ぎしたくありませんか!?"と叫び高く跳び「アンハッピーリフレイン」でラストスパートをかける。ダメ押しで、10年後のライヴ・アンセムと言っていいだろうナンバーへ。"ここにいるあなただけに愛を込めて!"と「ステレオジュブナイル」を畳み掛けた。気持ちの昂りがそのまま横溢するような、音源より超ハイスピードな演奏に笑顔にさせられながらも、"愛せない自分を愛せないまま10年経ったっけ/まぁ、どうでもいいよな!"と歌詞を変えて歌う様にグッと胸が熱くなってしまう。まるでこの日のための1曲のような、この上なく充足感のあるフィナーレだった。

"もう一回! もう一回!"と声が揃うアンコールも久しぶりで嬉しい気持ちにさせるなか、出てきて中央で500mlペットボトルの水を一気に飲み切り盛り上げたシノダ。に、絶妙のタイミングで現れ無言でコーラをもう1本差し出すイガラシが可笑しい(ちなみにツアー・ファイナルの福岡ではコーラ一気飲みに挑戦したようだ)。

"続けてて良かった。やめなくて良かったと思ってます"(ゆーまお)、"ありがとうございました"(イガラシ)とそれぞれ声を届け、シノダが"向こう10年も我々ヒトリエを利用していただければ"と挨拶すると、最後の最後は「ローリンガール」。いつも以上に凄まじい熱量と攻めっぱなしのセットリストで、轟音が押し寄せたこの日。シノダとイガラシはラストも前に出てギター、ベースを掲げ、ゆーまおも弾丸のようなドラムで観る者を身体の芯まで震わせて、頼もしく去っていった。


[Setlist]
1. SisterJudy
2. モンタージュガール
3. シャッタードール
4. アレとコレと、女の子
5. 風、花
6. 日常と地球の額縁
7. るらるら
8. プリズムキューブ
9. カラノワレモノ
10. undo
11. ゲノゲノゲ
12. アンノウン・マザーグース
13. サブリミナル・ワンステップ
14. 泡色の街
15. アンハッピーリフレイン
16. ステレオジュブナイル
En1. 3分29秒
En2. ローリンガール

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