Japanese
ヒトリエ
Skream! マガジン 2025年02月号掲載
2025.01.19 @Zepp Shinjuku (TOKYO)
Writer : 稲垣 遥 Photographer:西槇 太一
2024年1月、ヒトリエのデビュー10周年を記念した恵比寿 LIQUIDROOMでのワンマン2デイズ"HITORI-ESCAPE 2024 ~10-NEN-SAI~"から、全国ツアー、アジア・ツアー、初の日比谷野音(日比谷公園大音楽堂)公演と、1年をかけて行ってきたこの濃厚なお祭りを締めくくる東名阪ファイナル・ツアーの最終公演が開催された。
17時きっかり、場内が暗転しSEが鳴り響くと、会場を埋め尽くす観客からもう歓声が上がる。そこへシノダ(Vo/Gt)が拳をフロアへ向けながら登場、イガラシ(Ba)、ゆーまお(Dr)もステージへ上がり、ブルーと白のストロボの明滅と同時に「SisterJudy」を鳴らすと、1曲目からZepp Shinjukuのフロアが揺れた。野音ライヴと同じく、バンドの始まりの作品『ルームシック・ガールズエスケープ』の最初の1曲。そして曲順通りに「モンタージュガール」へと繋ぎ、気迫で魅せてゆく。「オン・ザ・フロントライン」では"喪失"を経験した者の入り組んだ感情を、シノダの轟音ギターと、悲しみも悔しさも優しさも孕んだ歌、イガラシの荒々しくうねるベース、ゆーまおの強弱を付けた精緻なドラムで描き、観客の心をグッと掴んだのだった。
"インターネットからやってまいりました。ヒトリエです。どうぞよろしく!"
シノダの挨拶を挟んでの、「ワールズエンド・ダンスホール」は序盤のハイライトだろう。wowaka(Vo/Gt)が2010年に投稿したボカロ"神話入り"の曲であり、バンドでも4人の時代には演奏されていたこの曲。昨年11月にシノダヴォーカル・バージョンが満を持してリリースされたのだが、その音源とは違ってドラムからスタート。にもかかわらず察したオーディエンスたちが声を上げてクラップを始め、ミラーボールが回るとさらに大きな歓声が。そしてシノダとイガラシが前に飛び出しギターとベースを弾き倒すとまた1段階大きくなる声。"オイ!"と拳も上がって、会場全体がまるで生き物のように熱狂の渦と化した様に、興奮せざるを得ない。
"Zepp Shinjuku、初めてだけど、まぁこんくらいは余裕で埋まるっしょ"とシノダが放った後、ふふっと笑い、"この「10-NEN-SAI」をやって来て、よく分かんない調子のこき方覚えました"とニヤリとする。
中盤ではゆっくりとギターのアルペジオをリバーヴィに響かせて、雰囲気たっぷりに始まった、今の季節にぴったりのレアな選曲「フユノ」も印象的だった。冬の冷たさを音で表現するようなタイトなサウンドと儚さのあるコーラス、微かに差す木漏れ日のような光に反射して、ちらつく雪のようにステージをゆらゆらと照らす照明、"時間はやたらと駆け足に/去って"、"ただ歌を唄っている"という歌。どれもが趣深く胸に焼き付いた。
"Zepp Shinjuku初めて来たって人?"とシノダが問うとかなり多くの手が上がり、"ここに来るまで怖かった!"、"めっちゃ声掛けられた!"というフロアからの声に"そうか、みんな体質的に来れないのか。なんか、ごめんな!"と笑うシノダ。"でも、だからって身体がビビってんじゃないですか? もっと軽快に跳んだり跳ねたりしていいんじゃないですか"と言うと「Selfy charm」へ。クラブチックなナンバーをバンドで奏でる、現体制だから生まれたヒトリエを感じる1曲を、ハンドマイクで、オーディエンスに近いところにしゃがんだりステージから乗り出したりして歌い盛り上げる。
そして大胆不敵で色っぽさもあるギター・リフを響き渡らせる、バンド然とした「ジャガーノート」で再び会場に火を付け、「3分29秒」を畳み掛けた。鋭利なバンド・サウンドやアクセント的な電子音が、レーザーと相性抜群で、問答無用でアガる。さらにアンセム「アンノウン・マザーグース」を、演奏力も熱量も完成されたと言いたくなるくらいの文句なしのパフォーマンスで投下。熱のこもった拳が大きなシンガロングと共にフロア中で上がった。
"2024年始まってから想像の付かないような出来事がたくさんやってきて、それに真正面からぶつかっていくうちに、とても強いバンドになれたんじゃないかと思う"、"今のヒトリエを一番見せたいやつがいまして。そいつはこの「10-NEN-SAI」にも現れなかったし、きっとこれからも現れないだろうし、そいつがいない歴史のほうが長くなっていく。......あなたにはそいつの分までこれからもヒトリエを見届けていってほしいと思ってます。よろしくお願いします"
10周年の先を見据えた、気概を示すシノダの言葉に、深い賛同と歓諾がこもった大きな拍手を送る観客たち。
そこでヒトリエが奏でたのが「NOTOK」だ。wowakaが遺したヴォーカルと演奏のデータをもとに、限られたパーツから3人が形にしたこの曲。"正解不正解なんて/あたしの中にしかないわ"とwowakaが書いたこの曲を、そのハードルを越えて作り上げて、"これでどうだ"と彼に聴かせるかのような堂々としたパフォーマンス。そしてこの曲が歌うのは、"それでも人は続く"ということ。そのメッセージをまっすぐに届ける姿に、ステージを見つめながら視界が滲まざるを得なかった。
あと1曲やって終わるというシノダの声に残念がるオーディエンス。それに対してシノダが"好き放題言いやがって。別にこのバンドが終わるわけじゃあるまいし"と放ち、「イメージ」を後ろから眩しい程の強い光を浴びて、弾き語りから歌い出す。
彼等は終わることなく、さらに進んでゆく。その道はもしかしたら平坦ではないかもしれないし、目の前に壁が立ちはだかることがあるかもしれないけれど、シノダの言葉通りこれからも彼等はそれに必死に食らいついて、そのたびに強くなっていくのだろう。そう確信させて去って行った。
アンコールではいつものようにシノダの後にゆーまおにマイクが渡ったのだが、ゆーまおが話のオチを言った瞬間に、狙ったかのようなタイミングで同期音源が流れるという逆に奇跡的な事故が。おかげで涙が笑いに見事に変わったのだが、その流れで解れた気持ちで全員が思いっきり飛び跳ねたであろう「カラノワレモノ」は壮観だったし、ポップなセンスが弾けるゆーまお作の明るい約束の歌「YUBIKIRI」で"新宿の空中"、"きっとこんなんじゃ終わらねぇよな!"とシノダが歌詞を変えて歌う様にも笑顔になる。10周年を超えてもはや11周年を迎えたヒトリエの、まだまだ続くストーリーを一緒に見ていける幸せを噛み締めた終演になった。
[Setlist]
1. SisterJudy
2. モンタージュガール
3. オン・ザ・フロントライン
4. ワンミーツハー
5. ワールズエンド・ダンスホール
6. 耽美歌
7. テノヒラ
8. フユノ
9. daybreak seeker
10. Selfy charm
11. ネバーアンダースタンド
12. ジャガーノート
13. 3分29秒
14. アンノウン・マザーグース
15. NOTOK
16. イメージ
En1. センスレス・ワンダー
En2. カラノワレモノ
En3. YUBIKIRI
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