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Japanese

シナリオアート

Skream! マガジン 2017年01月号掲載

2016.12.03 @渋谷Galaxy

Writer 石角 友香

シナリオアートの自主企画ライヴ[Chapter]。その中でも二度目となるアコースティック・ライヴが、2015年の恵比寿STUDIO38から場所を変えて、今回は渋谷のキャットストリートにあるギャラリー・スペースで開催された。土曜、日曜の各2部構成で、それぞれ"Warm Night"、"Deep Night"と題して、演奏曲目も演出、衣装も変えての展開だ。
 
"世界観"という言葉を一つ覚えのように使うのは好きではないが、こと、シナリオアートに関して言えば、パーソナルだからこそのひとりひとりの心に響く作品性があり、それをことさらメッセージ色を強く届けずに、色彩や空間の記憶とともにオーディエンスに届けるという志向性そのものが彼らの世界観なのだと思う。前回、キャリア史上最大のキャパシティとなるEX THEATER ROPPONGIで行った、潜水艦に"同乗"してオーディエンスとともに旅に出るというコンセプトを立てた物語性の高いライヴと、規模こそ違えど考え方としては同じものをこのギャラリーである会場にも感じる。深い森の中にいるようにSEでは木々のざわめきや鳥の声が流れ、ステージを複数のランタンが暖色系の灯りで彩り、クリスマスを思わせるオーナメントが吊り下げられているのも、"Warm Night"の世界観へ入る装置。そこに5分もいれば、原宿から渋谷にかけての賑わいが別世界のようだ。
 
3人とも白い衣装で登場。ハヤシコウスケ(Gt/Vo/Prog)はアコースティック・ギター、ハットリクミコ(Dr/Vo)はエレピ、スティックとブラシを併用するシンプルなドラム・セット、ヤマシタタカヒサ(Ba/Cho)はカホン、エレクトリック・ベース、グロッケンシュピール、アコギと、曲のアレンジに応じてスイッチしていく。夜に向かっていく夕焼けのイメージなのだろうか、オレンジのバックライトに包まれながら「ナイトフライング」でスタートする。エレクトリック・セットと比べると編成がオーガニックで音数が少ないだけに、"音楽で世界を救えるはずないだろ? とか/笑われて バカにされて"、"それでも歌っていれるのは/救われた 僕がいる"という彼らの核心が直に伝わってくる。最前列のファンはおそらく2、3メートルという距離なんじゃないだろうか。リアレンジといつもと違う楽器編成がいい意味で緊張感を醸し出しているのだが、「ワンダーボックス」でサンバのリズムに乗せてハットリが"ワンダーパレード"とリズミックに声を発すると、ファンが笑顔になり、それがちょっと硬かったハヤシの表情を崩させた。
 
3曲続けて演奏したところで、"喋っていいですか?"と緊張に耐えかねた(?)ようにも、いつもどおりにも見えるハットリが笑いを誘う。アコースティック・ライヴは今回2回目だけれど、"練習したよねー!"と強調。そりゃそうだ。パワフルでスキルフルなエレクトリック・セットとは力の入れようも使う楽器も違うのだから。
 
シナリオアートの曲はメジャー・キーでもひとりの夜に似合うレパートリーが多い。その中でも冬だからこそ感じられるあたたかさをテーマにした選曲で構成された"Warm Night"。中でもちょっとチャレンジングだったのが、ハヤシが"念願のピン・ヴォーカル"と笑いながら挑んだ「ドリーミーラブストーリー」。ハットリのピアノ、サビの3人のハーモニーがアコースティック編成ならではの歌にフォーカスした聴感を残す。またヤマシタがベースを弾きながらグロッケンシュピールを効果的に配置していく「ハイスイコウノサキニ」は、この編成でありつつスペーシーにさえ聞こえて驚いた。
 
「トウキョウメランコリー」ではハットリはカホンとバス・ドラムを操り、ヤマシタはカホン、ハヤシはアコギのボディを叩く。ハットリが"誰が打楽器、一番上手か?"と軽く煽って、ラテンなリズムが変化しながら心地よいポリリズムを生み出し、ウォームどころかかなりの熱を帯びたステージになっていく様が予定不調和で、"練習したなー!"というハットリの言葉とは裏腹に、3人のミュージシャンシップに触れた気がした。この人たちは楽器が何であれ、編成がどうであれ、必ず予想を超えてくる。超絶技巧というレベルでも、良質のチェンバー・ポップでもなく、ジャンル分けできないシナリオアートの曲を生楽器に置き換えているのだから無理もないのだが。
 
シンプルなセットながら曲が持つ世界観でリスナーの心象さえ塗り替えていく様は中盤以降、さらに深度を増す。3連2拍のクラップが起こり、キーボードとドラムを同時に演奏するハットリが"ひとりバスキング"の様相を見せ、途中からジャジーな展開を見せた「エポックパレード」の愉快なムード。一転、ランタンだけの灯りの中で歌う「フユウ」は、その灯火の不安定さも相まって、夜明け前の一番心細い時間を思い出させる。こんなに親密な空間とキャパシティでも、聴く人がいい意味でひとりになっている。続けて、ハットリの"あたたかい曲を聴いてください"というMCがさらに歌に込められた祈りの感情を喚起した「ホシドケイ」も、主人公は違えど「フユウ」から繋がる孤独や苦悩を赤裸々に響かせる。でも歌になったことで彼女の気持ちは共有され、普遍的な地平に昇華されたんじゃないだろうか。この日のアレンジでは途中からアコギとベースが、まるで人間そのもののようにハットリに寄り添う印象を受け、それがさらに曲を美しいものにしていた。
 
ラストは再び森の音のSEの中、ハヤシひとりの弾き語りによる「センカイへ」。歌というよりモノローグに近いそれをエフェクティヴに処理した音源とは違い、生身で表現する難しさがあったと想像するが、肩の力を抜いてモノローグそのままの近い距離感で披露したことは、このセットならではの見どころだった。
 
終盤の展開で思いっきり日常から遠いところに来た印象と同時に、記憶のどこかにある夜にも浸ってしまった。アンコールで登場した3人は「ブレーメンドリームオーケストラ」で再びシナリオアートのメロディの飛翔感を丹念なアンサンブルで表現。夜に似合う曲が多いからこうしたライヴが成り立つことを彼ら自身、自覚しているMCもあったが、"Warm Night"と銘打った第1部だけでも、シナリオアートが描くファンタジーの中には光も闇もあることが十分伝わった。リアレンジと練習は大変そうだが、大音量とは違う得難い体験をまた味わいたい。
 
[Setlist]
1. ナイトフライング
2. ワンダーボックス
3. ハロウシンパシー
4. ドリーミーラブストーリー
5. ハイスイコウノサキニ
6. トウキョウメランコリー
7. ポートレイトボヤケル
8. エポックパレード
9. ナイトレインボー
10. フユウ
11. ホシドケイ
12. センカイヘ
En1. ブレーメンドリームオーケストラ

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