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LIVE REPORT

Japanese

TRIAD ROCKS -Columbia vs Triad-

Skream! マガジン 2015年06月号掲載

2015.05.19 @豊洲PIT

Writer 石角 友香

会場である豊洲PITに入ると客層の幅広さに驚く。印象としては10代から50代のファンまで足を運んでいる印象だ。それもそのはず、今回初開催となった"TRIAD ROCKS -Columbia vs Triad-"は、今年7年ぶりにコロムビアのロック・レーベル"TRIAD"が復活したことを記念して開催されたものなわけだが、同レーベルといえば、この日の出演者である吉井和哉がフロントマンだったTHE YELLOW MONKEY、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTやsyrup16gなど日本のロック史に欠かせないバンドの作品を多数送り出したレーベルである。場内BGMでそうしたバンドの曲が流れるたびに、その功績と当時の思い出がフラッシュバックしてしまった。


一番手にはTRIADのニューカマー、LACCO TOWERが黒ずくめの衣装で登場。ジャパニーズ・メタル、ラウドといった激しさの中に松川ケイスケ(Vo)の歌う歌謡的なメロディが相まったときのカタルシスが新鮮で、1曲目の「蕾」からかなり引き込まれる。メンバーのキャラもギターはヴィジュアル系、ドラマーは野人系(!?)、しかも華麗なシンセ・サウンドを操るキーボードもいるメンバー構成もユニーク。"これだけいろんなバンドが一堂に会することも珍しいと思いますが、その瞬間瞬間を楽しんでもらえたら"と、さすがキャリア10年以上を数えるバンドらしく、堂々としていてしかもまっすぐな松川のMCも心に素直に入ってくる。後半には6月17日にリリースするメジャー初アルバム『非幸福論』から、アニソン顔負けの1曲の情報量とエクストリームな演奏が一体化した「葡萄」を披露し、初見のオーディエンスが大多数であるにも関わらず、パフォーマンスそのもので大きな拍手が起こっていた。ヴィジュアル系とかギター・ロックとか狭義のジャンルを飛び越えて、攻めのキャッチーさとスキルの高さで勝負する彼ら、この日の観客の中でも吉井和哉ファンの心を最も掴んだ印象が強かった。とっさに思い浮かんだのはX JAPAN、9mm Parabellum Bullet、そしてTHE YELLOW MONKEYなど。最近では珍しくなった日本人の琴線に触れる歌謡の部分とサウンドの激しさが自然と接着しているバンドとして、大いに今後に期待できそうだ。


続いて登場したのはCzecho No Republic。マーチ風にイントロをリレンジした「Amazing Parade」で、フロントのコーラスがこのイベントを祝うようなニュアンスも相まり、今回のメンツの中では若干アウェイかも?なんて心配をよそに各所で手が挙がっている。1バンドで洋楽インディーのイベントっぽいムードを堂々と醸しだすあたりに頼もしさすら感じさせる、普段通りのポップでアグレッシヴな演奏を展開していく。思えばどのバンドも自分たちらしく堂々としているのが見ていて気持ちがいい。さらに様子見な観客を笑わせたのは、武井優心(Vo/Ba)の開催直前の4バンドのフロントマン対談で"他の人もヤバい発言してたのに俺がキャバクラでイエモン(THE YELLOW MONKEY)の「LOVE LOVE SHOW」歌ったことあるって話だけきれーに残されて"と笑いをとると、グッと会場の親密さが高まった感も。そんな流れの中に思いっきり近年のUSインディー以降を感じさせる、トライバルなドラムと、シンセのレイヤーが神聖な印象すらある新曲を投入してくるあたりも侮れない。後半はアッパーかつタカハシマイ(Cho/Syn/Per)のヴォーカル部分が突き抜けるように会場にこだまする「No Way」、そして思わず身体を動かしたく鳴る「Oh Yeah!!!!!!!」をラストにチェコの音楽初体験のオーディエンスさえもポップで輝度の高い楽曲と演奏で空間ごと上昇させてステージを後にした。


そして、そうなると3番手は自ずとグッドモーニングアメリカになるわけだが、この日のたなしん(Ba/Cho)はドラゴンボールの孫悟空を模した衣装でフロアのドアからプロレス入場。"こういうノリが生理的にダメって人も心の中だけでいいですから! きっと吉井さんにも繋がりますから!"と"ファイヤー"を唱和させる、おなじみのオープニング。大急ぎでパンイチになる姿にどよめく初見のお客さんの心をそのタイミングで掴んだんじゃないだろうか。他のメンバーも登場し、イントロからシンガロングが起きる「拝啓、ツラツストラ」、思わずこみ上げるものがあるメロディでオーディエンスを巻き込んでいく「inトーキョーシティ」と、グドモのエモさを炸裂させる。そして中盤にはニュー・シングル「コピペ」を披露するにあたって、簡単なのでサビを一緒に歌いましょうと金廣真悟(Vo/Gt)がレクチャー。見事に早口言葉風のサビのシンガロングが発生。シンプルで刺さるギターリフなど新鮮な部分が多い新曲はその場で受け入れられた印象だ。インディーズ時代が長かった彼らが、今、コロムビアというレーベルで自由に活動できていることへの感謝を金廣が延べ、"最後にメジャーデビュー曲をやろうと思います"と、「未来へのスパイラル」を高らかに鳴らしきった。演奏を終え楽器を置いた4人が最敬礼する姿に驚いている人もいたが、その表情からはグドモというバンドのスタンスを理解した様子が伺えた。ステージ以外のそんないろいろなことが、このイベントでは奇跡のように数多く発生していたと思う。


いよいよ大トリは約18年ぶりにTRIAD所属アーティストとして戻ってきた吉井和哉の登場だ。いやもう、佇まいも出音もスケールが違う。大きなグルーヴとゴージャスなギター・サウンド。大文字のロックが鳴っている。オープニングはニュー・アルバム『STARLIGHT』から「(Everybody is)Like a Starlight」。バックに掲げられたフラッグを指して、"トライアド!"と言い放つと、会場が沸騰するイントロが流れ、THE YELLOW MONKEYの「SPARK」が現在のバンド・メンバーでアップデートされた演奏で披露されると、老若男女が一体化する。ロックスター、吉井和哉の健在ぶりを見た思いもあるし、ストイックな表現者の時期などさまざまな局面を経て、今、彼が古巣のTRIADに戻ってきた理由もわかる。ロックンロールの深さや奥行きを継承することの役割を、包容力に溢れる今の吉井はリラックスして引き受けているように見えたからだ。"今日はTRIAD在籍時の曲しかやりません"と期待を持たせるMCの後は、ニュー・アルバムから続けて「TOKYO NORTH SIDE」、「Step Up Rock」、「クリア」を披露。現在進行形のロック・ミュージックのエッセンスや、ロックを聴き始めたころの高揚感さえ含む楽曲の瑞々しさが素晴らしい。そしてじっくり語り始めたのは90年代、TRIAD黎明期からTHE YELLOW MONKEYやTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTを世に送り出してきた名物PRマンで故人の中原氏のことだ。"TRIADを築き上げてきた男がいるんだけど、当時、すごい新人がいるんだって見つけてきたバンドがいて、今日は中原のために捧げたいと思います"というMCに鳥肌が立った、と同時に「世界の終わり」と曲を紹介。オリジナルに忠実な歌と演奏、今改めてより個々人の心に刺さる歌詞が会場を震わせる。驚きと感動に浸るオーディエンスをさらに泣かせたのは、日本のロック史上に残る名曲「JAM」。"今はもう飛行機が墜落したからって満面の笑みで「日本人はいませんでした」って言うニュースキャスターはいないけど"と、時代の変化も語りつつ歌い始めた吉井。世の中の善悪の価値観に違和感を持ち、ひとりで震える少年少女と元・少年少女たちすべてに捧げられた当時の問題作は、のちのロック・ミュージシャンへの影響も計り知れない。こんな曲をシングル・リリースしたスタッフのひとり、それが前述の中原氏である。ファン、スタッフ、そして表現するアーティストの誰が欠けても素晴らしいロック・ミュージックは然るべき評価を得られない。そのことを知る吉井のTRIADに対する感謝を実感する、かけがえのない大団円になった。

終演後には再度、吉井とグドモのメンバーが登場し、アニメ"ドラゴンボール超(スーパー)"のOPとEDをそれぞれ担当することを発表。会場を後にするさまざまな世代の人たちは盛り上がるというより、何か大事な思いを抱えて静かに歩いていたことがイベントの性質を物語っていたんじゃないだろうか。

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