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LIVE REPORT

Japanese

チェコノーリパブリック

Skream! マガジン 2015年12月号掲載

2015.10.17 @Zepp DiverCity

Writer 石角 友香

普段はちょっとシニカルで苦悩なんておくびにも出さないチェコだが、結成5年の歳月の中には転機と大きな成長があったことをこのステージで体現してくれた、そんな印象を持った。
 
ニュー・アルバム『Santa Fe』のアーティスト写真同様の白い衣装で登場した5人。イントロをライヴ仕様にアレンジした「Oh Yeah!!!!!!!」でいきなり金テープが放たれる華やかなオープニング。チアフルな「Amazing Parade」と続け、ニュー・アルバムからシンセ・ベースやファンキーな砂川一黄(Gt)のカッティングが新鮮なグルーヴを作り出す「Heart Beat」で、すでに1Fはダンスフロア状態に。ツアーを経て新曲もセットリストの重要なポジションを獲得しているのがわかる。正直、じっとメモをとっているのが早くも苦痛になってきた。一気に演奏したあとのMCで武井優心(Vo/Ba)は"今日は5周年スペシャルなんで、めちゃくちゃ久しぶりの曲もやります。どれだけ盛り下がるか見ものだけど"といつもの自虐ネタをを盛り込みながら、あくまで笑顔。まず5人でメジャー・デビューしてから初めて作った曲として「ネバーランド」を披露。"Hey!"の掛け声のたびに挙がるファンの手、間奏部分のクラップ......祝祭感たっぷりな楽曲だが、この曲が持つ"パンク・スピリット溢れる平和主義者"像がさらに多くのファンと共有された瞬間を見た。また、武井とともにバンドのソングライターである八木類(Gt/Cho/Syn)のTHE BEATLESライクなセンスが発揮された「絵本の庭」、そしてニュー・アルバムからの「Fun, Fun, Fun, Fun, Fun」。八木の紳士的なんだかビザールなんだか、どっちも混ざったパフォーマンスにも目が釘づけに。全員がフロントマンのようなこのバンドのキャラ立ち加減を存分に楽しませてくれる。
 
5周年スペシャルならではの選曲に新旧それぞれのファンのリアクションが見られたのが中盤。もちろん、バンドも今の5人で演奏する楽しさと感慨深さを噛みしめているはず。そんな特別な1曲目は、Czecho No Republicとして初めてミュージックビデオを制作したという「マサチューセッツ」。10年代初頭の海外インディーとリンクした、音数少なめのDIYチェンバー・ポップ風ナンバーだが、今の5人でもシンプルなアンサンブルでキュートに届けてくれた。続いても当時の曲と紹介したのは、この5人で初めて演奏するという「魔法」。タイトルコールとともに一部で悲鳴にも似た歓声が上がったのも納得のレア選曲だ。2012年のミニ・アルバム『DINOSAUR』自体が今も人気が高いということもあるが、砂川が八木と奏でるフレーズに、当たり前のことだが今のチェコのバンド・アンサンブルを見た思いがするし、楽曲に対するファンの愛も同時に見て取れた。さまざまなタイミングでこのバンドに出会い、そして今ここに共にいること。特別な選曲がくれた"実感"だ。
そして鮮やかに『Santa Fe』モードに場面転換。武井はさかんに"ライヴハウス初めての人も自由に踊ってほしいんですよ。『ここで手上げたい!』って思ったら他の人のことなんか気にしないで。1秒でもいいから自由にやってくれたら、俺たちもよく眠れるんで"と新曲のブロックへ明確な意志を持って誘導する。そこにタカハシマイ(Cho/Syn/Per)がメイン・ヴォーカルでめくるめくメロディが展開する「クワーキーワールド」、文字通りエンドルフィンが溢れ返る「エンドルフィン」では武井がハンドマイクで自由なステップを踏み、シームレスに前作『MANTLE』の中からエレクトロニックな「Clap Your Hands」へと繋いでいく。また、おなじみの「MUSIC」のタカハシの伸びやかなヴォーカル・パート、シンセにも負けない透明感とリリカルなフレーズで存在感を見せる砂川、フロントの男子(!)3人が前へ出て行く様がいつになくロック・バンド、チェコのかっこよさを体現した「Call Her」と、楽曲ごとの見せ場が自然とできているのもツアーを経てついた地力かもしれない。
 
そして本編終盤に配された「Firework」のイントロでも再度、銀テープが放たれ、うごめくようなシンセ・ベースと繊細に交わされる武井とタカハシのツイン・ヴォーカルがサビへとグングン伸びていくダイナミズム......。"この曲ができて5人のスタート、デビューするみたいなイメージ"と武井がひと言添えて始まったのは、『Santa Fe』を駆動させた大きな1曲「Beautiful Days」だ。どこか神聖なシンセと踏みしめるようなタフな山崎正太郎(Dr)のビート。もう邦楽とか洋楽とかの境界はとっくになくなって、アルバム・タイトルが示唆するような"聖なる信仰"、彼らにとっては音楽そのものが大きな愛になって空間を満たす、圧巻の演奏だった。そして本編ラストはパレードのような「For You」「オルゴール」でカラフルに締めくくった。驚くほど弛緩する瞬間がなかったことに気づいたりも。
 
新旧いずれ劣らぬ濃い選曲に興奮状態のファンが待つ中、珍しくまず武井がアコギを抱え、山崎はカホンがセッティングされた状態にセット。"アコギで歌うのは拒否したかったけど、今日はしょうがない"という趣旨のことを言いながら、チェコ創世記の"いつ終わってもおかしくなかった"ころの話、当時、曲を作っても彼女にしか聴かせてなかったのを山崎に聴かせたところ"いいじゃん、やろう"、そんな経緯でできたという「Good Bye」を歌い始め、八木、そしてタカハシ、砂川も参加していくという演出に胸が熱くなる。そしてアンコールも含めこの日のラストは"この曲なしじゃ終われないでしょ!"と、すっかり今の5人のライヴのハイライト......いや、ファンも含めて全員で声を合わせる音楽の至福、「ダイナソー」が、これまでのアーティスト写真やアートワークを背景に奏でられるという演出も相まって過去最高のエモーションをまとって響き渡った。
大げさなメッセージとも根性論とも共感系ロックとも距離を置きながら、楽曲の純度にハマるとその楽しさで誰もが自由になれるチェコのライヴ。この空間が今後さらに大きなものになることを確信した5周年スペシャルだった。

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