Japanese
チェコノーリパブリック
Skream! マガジン 2014年11月号掲載
2014.10.10 @赤坂BLITZ
Writer 石角 友香
ニュー・アルバム『MANTLE』を携えて、ツーマン3本、ワンマン8本からなる全国ツアーのファイナル、赤坂BLITZ公演。この3日前に取材で会ったメンバーは"せっかく楽しくなってきたのにもう終わってしまう"と、少々残念そうだったのだが、裏を返せばそれだけにこのツアーが充実していたのだろう。そして実際"楽しい"以上の何かが横溢するライヴになった。
UK/USインディー・ロックの気の利いたナンバーが開場SEとして流れ、ステージにも会場にもフラワーモチーフのデコレーションが施され、開演前からすでにチェコ・ワールドに迎え入れられている気分。フロアを見ると男性も多く、世代も存外広く、そのことにも嬉しさが混じり、さらにワクワクする気持ちが加速したところで、おのおのやる気満々な様子でステージに登場。マーチふうにアレンジされたイントロが"旅"の始まりを感じさせる「Amazing Parade」から勢いよくスタート。伸びやかなタカハシマイ(Cho/Syn/Per)の"高く飛びたい/何より高く"のヴァースでさらに気持ちが高揚する。ちょっとシニカルな歌詞もなにもかも、チェコというバンドのアティチュードそのものを愛するファンにとっては、そのことも込みで声援を送っているように見えた。それは続く「Call Her」「Crazy Crazy Love」でさらに加熱。とにかくファンがチェコの曲を好きで堪らない熱量が2階席にも凄まじく伝わってくる。歌う人、ジャンプする人、しかもちょっといかつい感じの男子も曲調に合わせて控えめにハンド・クラップしたり......正直、序盤の3曲はファンの熱量に感激してしまった。淡々と演奏し歌う武井優心(Vo/Ba)も心なしか"ありがとう!"の回数が多い気がする。
トロピカルかつトライヴァルな「レインボー」、エヴァーグリーンで牧歌的(でもオルタナティヴだけど)、タカハシがヴォーカルを担当する「Field Poppy」など、ミディアム・チューンでは、多幸感が深く広く広がっていく。コンパクトな尺の中に快感中枢を刺激するフックのある展開をいくつも持ち、メロディも明快な彼らの楽曲の力がまずあって、その力がステージとフロアの感情、感性を解放していくのが手にとるように見える。チェコのライヴの空気の中にいて、傍観者でいられる人なんているのだろうか? 八木類(Gt)がシンセ・ベース、武井が小さなアコギでユニークなグルーヴを作る「Summer Love」のエンディングはほぼスカ・パンク! 狂騒的なビートを叩き出す山崎正太郎(Dr)のプレイにも目が釘付けに。
"東京の声が足りないんじゃない?"という武井の振りに八木が"ちょっと叫ばしていただいてよろしいでしょうか?"と、「JOB!」をハンドマイクで歌いながらステージを横断、フロアに倒れこむ場面も。しかも終始、顔つきは冷静......。まったく誰からも目が離せないバンドでもある。アイリッシュ・パンク的なアッパーさの「幽霊船」などで、スラップ・スティックなブロックを終えると、一転、クールなエレクトロサウンドの「Clap Your Hands」で、狂騒の後の虚脱を描いて見せる流れも秀逸だ。エンディングに向けて砂川一黄(Gt)のギターのノイジーさは増し、アンサンブルもCDとは違うヘヴィさを纏っていくある種のカオス状態に、この曲のライヴでの重要性を見た思いも。続く「Hello, My Friends Sophie」のノー・ウェーヴ感、砂川のJohnny Marrばりのアルペジオ、再び八木ヴォーカルのバラッド「Maridabu」と、振り幅の大きい彼らの楽曲センスを心底味わう。
ここまで12曲。"ホントに立ちたかったステージにしかもソールド・アウトの状態で立てて嬉しい"とようやくMCらしいMCをする武井。その前に"ありがとう!"にリヴァーブをかけるという照れ隠し(?)で笑いを誘ってはいたものの、感謝の気持ちは事実だろう。加えて"人が仲良くなるきっかけは共通項が多いこと。何年後かに、キミもあの日のチェコ見たの?ってバイト先の好きな子と仲良くなれるかも"と発言。そこまで考えてのことかは分からない。でも、それぞれの日常に戻ってもチェコの音楽が存在してほしいし、実際そうなれば最高だ。まぁ残念な下ネタで最後はオチを付けたのも武井らしくもあるのだが。
後半は"Hi!"の掛け声が弾ける「ネバーランド」で再びフロアが沸き立ち、八木、砂川の2本のギターの繊細なユニゾン、そしてタカハシの天を突くような声が響き渡る「MUSIC」、地メロから徐々に加速してサビで爆発する「No Way」と、どこまでも走って行けそうなナンバーをたてつづけに演奏。特に「No Way」を入口にチェコに出会った人は多いようで、後方まで多くの腕が楽しげに揺れている。何度も"一緒に歌ってください!"と武井が促した「ダイナソー」、メロディが知らない誰かをつなぐという歌詞と輝度の高いサウンドを持つ「Melody」の2連発は、武井のナイーヴさと音楽家としての意志の強さをバンドごと鳴らしているようで、ある意味、本編のクライマックスとも取れた。「Melody」演奏後、武井は"この曲の歌詞みたいに、知らない誰かと仲良くなれるって思ってくれた人がこれだけ集まって楽しそうにしてるのが見れて、ホントにそれに尽きます"と感謝を口にし、ファンも感謝を返すように拍手を送った。
本編最終盤はアルバム『MANTLE』をグッとロック・アルバムとして引き締めた感のある「2014年宇宙の旅」。中期THE BEATLES的な趣きのあるこのナンバーをいい意味で余裕のある演奏で聴かせ、本編ラストはアイリッシュやウェスタンの要素もある軽快な「Changing My Life」。"祈るばかりじゃ何も起きない"、きっとこの歌詞が自分ごとなのだろう、男性ファンがずっと歌っているのが見えたとき、チェコのライヴは皆が皆、同じポイントで盛り上がってるわけじゃなく、おのおの少しずつ違う特に共振する部分をそれはとてもとても大事にして、リアルで出会える場所であるライヴにおいて交歓していると感じて、さらに嬉しくなってしまった。そんな理想的なライヴ、なかなかあるものじゃないと思う。
アンコールに応えてまず登場した砂川が、ドラゴンボールの名場面を似てないモノマネ(失礼)で披露し、爆笑を誘うという丁重な前振りを用意した上で、絶賛オンエア中の新曲「Oh Yeah!!!!!!!」が披露される。八木がシンセ・ベース、武井はギターにスイッチし、上昇感のある演奏。新曲とは思えないほど好リアクションを得て、ギター、シンセのリフの抜き差しが楽しい「ショートバケーション」を演奏し、5人はステージを後にした。
それでもやまないアンコールの声。誰も帰る気配がない中、ダブル・アンコールで、まず山崎が登場し"みんなチェコ好き? 俺も好き。ほら、共通点1個できた"とフロアを沸かせた。続いてメンバーも戻ってきて、武井曰く"赤坂なんて普段はこないけど、ちょうど3年前、メンバーが3人だけになって、これからどうする? って話をしたのがまさに赤坂のカフェだった"と。その後、まさに3年前のこの日、この赤坂BLITZで行われたOGRE YOU ASSHOLEのライヴにタカハシも来ていたことなど、まさにその後につながることが偶然にもここで起こっていたことに驚きながら振り返っていた。そのMCから自然に現メンバーになって最初のシングルからタイトル・チューンの「アイボリー」を丹念にプレイし、また新たなスタートを感じさせる今回のツアーの幕を閉じたのだった。今後「Oh Yeah!!!!!!!」を入口にさらに新たなファンが増えたり、武井が書きたい曲のビジョンが変化したりするかもしれない。でも、そんなあらゆる変化を音楽に落としこんで進むCzecho No Republicこそを見続けたい。
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