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LIVE REPORT

Japanese

チェコノーリパブリック

Skream! マガジン 2015年08月号掲載

2015.07.12 @日比谷野外大音楽堂

Writer 石角 友香

ここ最近、バンドを巡る状況が好転している現実はわかっていたものの、武井優心(Vo/Ba)という人はつくづく音楽が好きで、今自分の中にあるものが必ずしも表に見えるバンドの好況とリンクしない時期もあったんだと思う。今の5人編成になってからの外野の声や、前作『MANTLE』をリリースした直後ですら、もう新しい音が頭の中で鳴ってしょうがないと言っていたことから、彼の表現欲求と現実は実はずっと乖離していたのだろう。でも、この日、てらいなく一歩目の大舞台を楽しめていたのは、ニュー・アルバムのリリースも決まり、新たな作品が続々完成していることも作用しているんじゃないかと感じた。遂に今のチェコの心と身体が気持よく作動し始め、それを自らも祝祭するようなとても意義のある1日になったんだと思う。

梅雨空から一転、真夏並みの日差しが照りつける東京の真ん中。背景にはグッズのレインポンチョと同じジャングル風の背景が飾られている。と、いうことはこれもアディムの絵が元になっているのだろうか。鳥のさえずりからシーケンスが心地よいSEに乗って、階段状になったセットの上からメンバーがひとりずつ登場。特にライヴ前の配信企画で"野音までに髪を切る"と言っていたタカハシマイ(Cho/Syn/Per)がロングヘアをばっさり切って、ショートのパーマヘアに変身していることに男女双方のファンから歓声が起こる。冒頭からピースフルな「ネバーランド」「Festival」「Crazy Crazy Love」と、野外に似合う、そしてさりげないメッセージを含んだナンバーが続く。夏らしいオールインワンで仁王立ちし、鍵盤を操るタカハシは海外にもこんなカッコイイ女性アーティストはいないんじゃないか?と思うぐらいパワーアップ。時折吹く風で音が流れることはあるけれど、5人の楽器の音は非常にクリアだ。そして夏らしいナンバーのベスト・オブ・チェコらしく、バックビートのスカっぽい「絵本の庭」や、シティ・ポップとポップ・パンクが融合したような「Don't Cry,Forest Boy」など、最近のセットでは聴けなかった曲が続き、カーニバル感が野音を賑やかに盛り上げていく。洒落っ気と粋をパンク魂に込めるというか、まさにチェコならではの野外らしい選曲に彼らのヒストリーの厚みを実感したりも。
そして久々の披露の中でも2年ぶりぐらいに演奏したという「Nowhere Boy」の先進性たるや。ピアノと歌始まりに以前からのファンが嬌声を上げるのもわかる。ボサノヴァ風のコード感にトライヴァルな山崎正太郎(Dr)のビートを持つ八木類(Gt/Cho/Syn)作のこのナンバー、実は"アディムがいなくなったころのことを書いた日記的な曲"という説明。と、ともに武井が"どっかそのへんに(アディムが)いるんじゃない?"言うと、野音中が彼を探し当てるのもなんだか心温まるものがあった。

さらにアイリッシュトラッドmeetsEDMな「レインボー」や、タカハシがメイン・ヴォーカルをとるキュートな「Field Poppy」などを経て、武井が野音ライヴの思い出を話し始める。"今日、ひとりで来た人? 俺も初めて野音観に行ったときはひとりで、THE HIGH-LOWS好きで行ったんだけど"という説明。ASIMOが出ていたHondaのCMのことなどを説明しつつ、すごくいい曲だからカバーをやります、と「日曜日よりの使者」を披露。砂川一黄(Gt)がグルージーなソロを弾く意外な側面や、"いい曲はいい"という当たり前だがなかなか実際には表明しないことをこの日ならではのシチュエーションで見せた心意気も今のチェコだからこそだと思う。
そのまま会場中央付近のスペースまで移動し、バスカー風に「ABCD Song」をメンバー全員、360°のオーディエンスに向けて演奏したあと、メンバーにも知らされていなかった縁の人々、オードリーのふたり、avengers in sci-fiの木幡太郎、SAKANAMON、MAN WITH A MISSIONのジャンケンジョニー、東京カランコロン、the telephones、miwa、そしてコロムビアの大先輩、吉井和哉から野音ライヴへのお祝いメッセージが流れる。特に吉井からは"最初会ったときはコロムビアっぽくない洗練されたバンド"という印象や吉井のバンドにライヴで正太郎が参加すること、TRIADへの移籍の勧誘(笑)などが大いに語られた(これが伏線になっていたわけだが)。
後半は衣装を替えて再登場し、女性3人のホーン隊もイン。また新たにライヴが始まったか?と思うぐらいのテンションで「Amazing Parade」のチアフルな空間、ホーンが映える「幽霊船」、生で聴くとより一層ホーンの鮮やかさに鼓舞される「For You」などが次々に演奏されていく。空も夕闇が迫ってきて、華やかなライティングとともにファンタジック且つパワフルなムードが野音いっぱいに広がっていくのがわかる。
"そろそろ踊りたいだろう?エンジョーイ!"と八木がダンディ(?)に呼びかけると、彼がメイン・ヴォーカルの、どこかスラップ・スティック感あふれる「JOB!」。そして"一緒に歌ってくれ!全員の声を聴かせてください!"という武井の呼びかけに応えるようにコーラスのシンガロングが空に向かって上昇していく「ダイナソー」の、歌うことで醸成される一体感はとても美しかった。
そして本編ラストは、夏の野外の祝祭感も踏まえたうえで彼らの意志を音楽の魔法に乗せて遠くまで羽ばたかせるような2曲、「MUSIC」「No Way」で幕を閉じた。いつも熱いものが込み上げる「MUSIC」だが、この日はその思いもひとしおだった。

アンコールでは9月9日にニュー・アルバム『Santa Fe』をリリース、しかもTRIADに移籍してのリリースであること(吉井和哉の口説きが功を奏したのか?)、新作に伴うツアーの開始をアナウンス。そしてアルバムの中から早速披露した新曲はエレクトロのクールネスとポップの妙味が出会った、チェコのみならず、メイン・ストリームの新たな潮流も感じさせるもの。そのままタカハシ、八木のシンセがアグレッシヴに投入される「Oh Yeah!!!!!!!」、楽しい時間のつかの間の輝きをこの夏に捧げるように、最後に「ショートバケーション」を演奏。なんて完璧なセットリストなのだろう。そして新旧のナンバーがこの5人で最新の光彩を放っていたことが最大の収穫だった。

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