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LIVE REPORT

Japanese

チェコノーリパブリック

Skream! マガジン 2016年12月号掲載

2016.11.12 @Zepp DiverCity TOKYO

Writer 石角 友香

ナチュラルに作って"キラキラしてる"、"夏っぽい"と言われるのなら、それがバンドの個性なんだろう――武井優心(Vo/Ba/Syn)が前向きにリスナーの印象を受け入れたことで、曲の強度やサウンドスケープにより注力できたことが、ニュー・アルバム『DREAMS』の突き抜けた完成度の高さに繋がった。メンバーも大いに自信を持ったこの作品を携えたキャリア最長のワンマン・ツアーでは、さらに細部を詰めた演奏や演出と同時に、細かさを飛び越える勢いでそのことを体現してくれたのだ。

"Hotel Flamingo"のネオン管、ヤシの木、プールサイド・チェアにストリート・ネームプレートなどの小道具とフロアに張り出した左右の花道に心の中で"おっ!"と小さく感嘆していると、勢いよく登場したメンバーはまさにパレード風アレンジで「Amazing Parade」のオープニングを演奏し、冒頭から100パーセントの熱量でクラップを生み出すと、間髪いれず「ネバーランド」、そして新作のオープニング・ナンバー「Dream Beach Sunset」へ突入。パーカッションのシーケンスが一瞬でこの場を真夏に変えていく。サビではすっかり定着したフラミンゴ・ダンスが自然に巻き起こる。あっという間の3曲。テンポが速いというより、1曲1曲に必要なフックが凝縮されているからだろう。

"外はもう冬になってしまいましたが、当ホテルは年中常夏なんで"と、武井も長いツアーを経て、ライヴの流れを掌握している感じだ。その熱さをキープしたまま「Forever Dreaming」へ。アルバム制作中に、アニメ"ドラゴンボール超"のエンディング・テーマでもあるこのシングル表題曲に吐き出されたこれまでにない素直な思い――"まだ終わりたくない やり遂げたいよ"が、武井自らの大いなる気づきとなり、そして今、目の前では大きな共感になり、それが凄まじく大きなシンガロングを生んでいる。苦悩や逡巡を歌詞には投影してこなかった武井が、そんなに大げさにシフト・チェンジすることなく"いつまでも夢見る"ことをメロディで描いたからこそ本人もバンドも、そしてファンも一歩踏み込んでチェコノーリパブリック(以下:チェコ)という存在に愛情を持って今に至る、そんな印象を持った演奏だった。個人的には、そこから繋がるこのバンドの音楽観をさりげなく示唆する「MUSIC」までの流れには琴線に触れるものがあった。この曲で歌われる、音楽で街に人が集い、魔法より確かに音楽が人々の表情を明るく変えていく情景こそ、「Forever Dreaming」で夢見ている情景なんじゃないか。しかもそれを今、バンドは目にしているのだ。メンバーにどんどん栄養が行き渡っていくのが感じ取れた。

『DREAMS』は武井とタカハシマイ(Cho/Syn/Per/Vo)が各々フルで歌う形態が際立っていて、ライヴでもタカハシのメイン・ヴォーカル曲が増えたことも大きな見どころ。お立ち台で堂々と歌った「ゴッホとジョン」は、八木 類(Gt/Cho/Syn/Vo)のとぼけた、彼らしい英国マナーな"ハイパー牧歌"とも言うべき世界をバンドで見事に表現していたのも楽しいし、武井と砂川一黄(Gt/Cho)がキャップを被って(それラッパーってことですか? というツッコミを禁じ得ないが)、武井のトーキング調"ぼやき"もライヴで形になったところに直面すると、彼らの音楽的な幅にすっかり乗せられていることに気づく。フロアもいわゆるヒップホップ・トラックへのリアクションっぽくなり、しかも全員が同じことをしているわけでもないのがまた自由で心地よい。

さらに夏を感じる曲をというニュアンスで、今回の流れならではの「P.I.C グアム」へ。この曲からパーカッションでテスラは泣かない。の實吉祐一も加わり、全員がすぐ落ちるソンブレロを維持しながら演奏しているのが不思議と真面目に見えて、リラックス・ムードのパートに人柄が滲むのがおかしかった。また、スイートな少年性と叙情性を感じる「Blue Holiday」は八木のシンセ・ベースと山崎正太郎(Dr/Cho)のデッドな鳴りのドラム、そして實吉のパーカッションが80年代のUKバンド、FUN BOY THREEにも似たトロピカルなムードを出していて、なかなかの好演。とにかく曲ごと、楽器ごとの音に説得力が増している。そしてタカハシの作詞作曲ナンバー「Shiny Girl」。高音が続くサビと言葉数の多さを感じさせないスムーズさ、"それじゃlet it go楽しんでみよう"というフレーズが、物理的には柔らかいのにとてもとても力強い。チェコは華のあるバンドだけど、今、メンバーで一番かっこいいのは彼女かもしれない。

まとまったMCはほぼなく曲を高い解像度で演奏してきて、後半戦に差し掛かったころ、いつもの"砂川さんいじり"的なMCがスタートしたのだが、今回は武井がツアーに先駆け、意を決してメンバーで飲みに行くことを決意&提案、そして存外すんなり実現した経緯が面白おかしく話される。毒舌家でありつつ、誰よりバンドのことを思い、メイン・ソングライターであり、バンドの方向性を決める武井が珍しくある種の団結を求めようとしたことをメンバーも当然、わかっている。ただそこはチェコのユニークでかっこいいところなのだが、そのコミュニケーションは個人の内にフィードバックされる。つまり表向きはドライなのだ(砂川は熱い人キャラだけども)。

笑いを交ぜてはいたけれど、ツアーに懸ける思いを話してしまったせいか、武井を始め、後半戦は演奏の詰めのシビアさはもちろん、回転数を増したエンジンに熱量がぶっ込まれていくようなテンションに。再び八木の役者っぷりが発揮されるスラップスティックな「JOB!」。途中にレゲエ、いや明確にBob Marleyの「Everything's Gonna Be Alright」のコーラスを挟んだコール&レスポンスが意外だったが、曲自体のパンキッシュなこれまたスラップスティックぶりと好対照を描いていたという意味で、こんな展開をチェコがやるんだ? という度量の大きさに驚いた「パニック」も痛快。「JOB!」と繋げた意味も大きい。

さらに、マイナー・メロディを奏でるシンセのイントロから躍動するビートで一気にフロアが弾け、この日一番の大きなバウンドが生まれた「Firework」。求心力のあるサビ、上昇していくエンディングに重なる花火の映像とSEに大きく湧くオーディエンス。シンセの音なんて追求しても届かないのでは......と、前作リリース後に若干モチベーションをなくしていた武井はこの景色をどう見たのだろうか。

そして"このアルバムの鍵になる曲があって、その曲が入ったアルバムを持って回るツアーは楽しいだろうな"と想像していたという、まさにその曲「Electric Girl」が研ぎ澄まされたシンセ、ギターの単音の響きにタカハシの透明なヴォーカルが語り掛けるように重なる。伸びやかな彼女の声にコーラスをつける男性陣も素晴らしい。なんだか未来的なFAIRGROUND ATTRACTIONとかTHE LUMINEERSを見ているような、音楽集団としての変幻自在さが頼もしくてしょうがない。5人5様のキャラクターが立ちつつ、それは曲が求めている必然によって成り立っていて、どんな進化も自然に受け入れられる。ラストは「Oh Yeah!!!!!!!」。シンセ・ポップに舵を切った曲とも言えるし、この日はこのバンドがどんな状況でも"YES"と答える強い意思表明をする曲として受け止めた。それぐらい、意味合いが強い曲へといつの間にか育っていたのだ。

フィジカル的にも演奏力的にもグッとスケールアップとブラッシュ・アップを成し遂げた本編が終了して感じたのは、しかしそれ以上にチェコは大人でもあるけれど、あえてずっと恐るべき子供たちであってほしいと感じた。でもまぁメッセージで共闘するなんて野暮なことはせず、曲の良さでファンひとりひとりの心の中に熱い火を灯せばいいということを知っているのは本人たちだ。アンコールでは久々に生のアンサンブルの楽しさを満喫させてくれる新曲も披露。しかもツアーが楽しすぎたので、年内に1本、完全リクエスト・スタイルのワンマン・ライヴを行うことも発表した。『DREAMS』の世界観の再現を完遂したツアーで、また見えてきた今やりたいことがもう溢れている。代替不可能なバンドへの道がさらに拓けた痛快なツアー・ファイナルだった。

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