ハルカトミユキの「伝言ゲーム」【第26回】

COLUMN

ハルカトミユキの「伝言ゲーム」【第26回】

2017年10月号掲載

ハルカトミユキ

ハルカです
　

9月の野音が終わり
寒暖差にやられまくっていた或る秋の日
人生で初めて花を育てようと思いつき
種を買いにでかける
なにしろ小学生のときにやらされて以来のこと
土に種を蒔いて水をあげていれば芽がでるのだろう
という安易な算段
（ところで小学生はなぜ
朝顔とヒヤシンスを育てさせられるのだろう）
それはどうでもいいとして、はやくも困ったことに直面
花屋に種がない
駅の花屋にあるのは満開の状態でブツ切られた花々と
すでに葉が開いた鉢植えばかり
もしやホームセンターの園芸コーナーとやらに行かなければ
種は手に入らないのだろうか
軽いノリで思いついたことを少し後悔、
休憩がてらコーヒーを啜りながらグーグル先生に助けを求める
「花一人暮らし」

先生の答え
【殺風景な一人暮らしに潤いを】
【風水で恋愛運が上がるポイント！】
【単身女子の毎日が変わる一輪の花】

先生なんかちがいます、こっちでした
「花ベランダ種から」

先生の答え
【初心者でも簡単！】
【ベランダガーデニングのすすめ】
【種から育てたい、ガーデニング基礎知識】

そうそうこれこれ
それっぽいリンクを選んでは流し読み
発芽、植え替え、肥料、プランター
この時点ですでに日和り始める
私は種が欲しいだけなんです
種を蒔いて水をあげたいだけなんです
なんだか大変なことに軽い気持ちで首を突っ込んですいません
心の中でどこかのだれかに謝る
とにかく種を蒔くには種と土以外に色々必要らしい
こういうときは100円均一に限る
最寄りの100均の園芸コーナーがやたらと充実していて
いつも不思議に思っていたのだが
それに助けられる日がくるとは夢にも思わなんだ
そしてそこで一番探し求めていたものと遭遇することになる
植木鉢やら腐葉土やらスコップやらの隅
申し訳なさそうに並べられていた
種。

100均に種あった......
必要な道具に気を取られてもはや忘れかけていた
しかもいろんな種類の種
種にはそれぞれ蒔くべき季節があるらしい
（当たり前か）
9月だったので蒔き時期が8月下旬～10月と表記のある一つを手に取る
パンジー。
秋の終わりに蕾をつけ、冬の寒さに耐え抜き
春には愛らしい花を咲かせてくれる
とある
なんて健気な花なのだろう
そしてもう一つ
「パンジーは花の模様が人の顔に似て、
深く思想に耽るように前に傾くことから、
フランス語のパンセ（思想）にちなんで名付けられました」

この子を育てよう
他人事とは思えない
と咄嗟に思ったのでした

しかしそこで種を買って帰ることはせず
もう一度ちゃんと調べることにする
この半日のできごとで花一つ咲かせることがどれだけ大変か初めて知ったのであった
花に命と言うけれど
花束しか見たことのない人には種がなんだかわからない
成虫の蝶しか見たことのない人には幼虫がなんだかわからない
私はどうだろう。

さてどうして種を蒔こうと思ったかと言えば
なぜ苗からではだめだったのかと言えば
次のツアータイトルが「種を蒔く」だからである
元を辿れば『溜息の断面図』というアルバムに入れたラストナンバー「種を蒔く人」からきている
種を蒔く人、というのはつまり生きている全員のことを言いたかった
何のために過ごしたかわからない一日も種を蒔いたのだと思えばすこしだけ報われると
そこで種を蒔くことさえやめてしまったら決して花は咲かないのだと

種を蒔くという言葉が今私が言える最大限の希望のような気がした
だからこの秋から来年冬にかけて、全国ツアー「種を蒔く」を開催します
アコースティックは"種"
バンドは"花"
それぞれできること見せられることが違うと思う
どちらも私たちに欠かせない表現として
アルバムを中心に精一杯届けられたらと思う
秋から冬に種を蒔く、なんて、なんかいいね
やっぱりどうしてもそういうのが好きなんだな

種を見て種だとわかる人間でいたい
枯れた花から種を拾える人間でいたい
花が咲いたことを当たり前だと思わない人間でいたい

ツアーで会いましょう
それまで種を蒔いて生きます。

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