Japanese
ハルカトミユキ / 植田真梨恵
Skream! マガジン 2016年05月号掲載
2016.04.07 @下北沢LIVEHOLIC
Writer 石角 友香
少し前、2年前なら今回のイベント・タイトルは月がハルカトミユキで、太陽が植田真梨恵だと受け止めたかもしれない。しかし、人間は各々多様であり、一見対照的に見える両者もまた単純にポジティヴ/ネガティヴ、明るい/暗いでは括れない、表現者として生きていくうえで必要不可欠な力強さを獲得していっている渦中なのだ。根っこのところで非常に近い。
先手で登場したのはハルカトミユキ。目下、47都道府県ツアー"LIFE"の序盤で全国を巡っているふたりにとっては、この日も旅の途中といったところだろうか。黒いTシャツとパンツというシンプルな出で立ちでアコギを抱えたハルカとキーボードのミユキは、そこがどこでも一瞬にしていい緊張感を自ずと作り上げる人間力を増したように見える。ふたりだけのシンプルなアンサンブルで聴く"狂ってしまえない/どんなに寂しくても"と歌う「Vanilla」でスタートしたのだが、今聴くこの曲は、前を向いてタフになりつつある今の彼女の中でもゼロ地点にある曲なのだなと感じた。ザクザク刻まれるギターと生音に近いエレピに人の体温を感じる「世界」、バンド・アレンジでなくても重さを感じさせた「バッドエンドの続きを」と、ふたりだけの演奏が歌の芯にあるものを浮き彫りにしていく。
中盤には新曲も2曲披露してくれたのだが、1曲目を歌う前にハルカは"覚悟して変わろうと思っても変われなくて、そこまでして変わらないといけないのか?"という思いを持ちながらも、"気がついたらいつか雨は止んでいた、そんな気持ちの曲を初めてやります"と、歌も曲のスタイルも、より自由奔放なイメージの新曲をダイナミックに聴かせてくれた。もう1曲の新曲のタイトルは「you」。音源ではどんなアレンジになるのか? そもそも音源になるのかもわからないが、ミユキの浮遊感のあるオルガン・サウンドも相まってあたたかなニュアンスが残った。
ハルカがハンドマイクで歌い、印象的なシーケンスが重なる「春の雨」での女優的な表現力、さらに全身で言霊を放つ「ドライアイス」で、彼女のアーティストとしての"体幹"が格段に強化されたことを知る。リアルな世界を生きて、人の思いに触れ、でも角は取れない。"あとで真梨恵ちゃんが太陽として登場してくれるから、私たちはどっぷり暗く"なんてMCをしていたけれど、今のハルカトミユキの表現の動力はネガティヴィティではない。ラストはエレクトリック・バンド・スタイルの冷ややかなムードをミユキのシンセで表現したのだろうか。ライヴでは定番の「青い夜更け」。"怖さを感じる=生きている証明"でもあるというハルカトミユキならではの表現の原点が投げかけられた。フロアとの近すぎる距離感もふたりだけという最小編成もむしろ強みに変えうる現在進行形のハルカトミユキを見ることができたことは幸運だった。
そして静かに植田真梨恵の登場を待つファンの間を通って彼女がステージに上がる。紗幕の向こうでセッティング完了し、手を挙げBGMが止まると、歌始まりで寂れた遊園地で展開する寓話のような「a girl」が、弾き語りとは思えない膨らみをもって届けられる。続けて音源とはガラリとイメージを変え、どこかGIPSY KINGSめいたダイナミズムすらある「ペースト」、タイトルどおり遠くへ連れ去ってくれるような「最果てへ」と、彼女の身体リズムが奏でる変幻自在な3曲を一挙に披露してくれた。
この日のチケットが即時完売したことへのお礼と、LINE LIVE CASTを行っている旨を伝えて、この場に来られなかった人へも気持ちを伝える彼女。"ラ~ララ~"のシンガロングもばっちり決まった「カーテンの刺繍」、音源では超アッパーなロック・チューンである「センチメンタリズム」を、ザクザク刻むパーカッシヴなアコギと、何よりジェットコースター級の彼女のヴォーカリゼーションによって、凄まじい熱量を放っていく様はジャンルがロックだとかポップだとかを超えた人間力で圧倒する。やれ"会いたい"、"会えない"、"切ない"を連発する数多のラヴ・ソング風の歌に対する違和感を変にシニカルになることなく、返す刀で自らが傷ついても歌う、そこが植田真梨恵の真骨頂なのだと思った。一転、気だるさと初夏の夜更けの湿度と温度や匂いまで起ち上がりそうなリアルなリリシズムをもって「ダラダラ」がフロアを満たしていく。アレンジされたバンド・サウンドもいいけれど、彼女の本質は彼女の声ひとつでいかようにも変わる。ギターのフレーズも感情の温度をすっと差す程度で、どんどん表現と一体化していると感じられた。
テンポよく、自分のペースでライヴを進めていく彼女。歌で始まる「わかんないのはいやだ」では、どんどん展開するアッパーな曲にファンのクラップがついて行けたり行けなかったりするも、お互いにエネルギーの交換をしつつ、さらに場をあたためていくのが楽しい。続いてアッパーでありつつ、弾き語りであることで曲の心臓部である"守れない約束なら くだらない"というフレーズが突き刺さった「彼に守ってほしい10のこと」。ポップな装いをしていても彼女の歌の根本には"この思いは永遠なのか?"、"誰かを、何かを信じることはできるのだろうか?"という問いが常に横たわっている。上手く歌を歌うためだったり、そのことで承認欲求を満たす歌では断固ない。その純度と見せ方のカジュアルさのバランスが磨かれていっているように感じられた。
ラスト2曲の前には、今年25歳になり、長らく歌手活動をしているけれども、様々な問題にさらっと対応できない自分がいることを吐露。そのことに対する意思表示のように現在の最新曲「スペクタクル」を力強く演奏。間奏でギターをかき鳴らす姿はちょっとKurt Cobainのようだった。"絶望の中にも届く光はある"と、いつか彼女はブログに綴っていたけれど、そうなのだ。そこまで追い込まれて自分で掴む強さを植田真梨恵は祝福してくれる。ラストはブルージーな響きと執念さえ感じるAメロの腰のある歌いっぷりにヤラれつつ、後半ではコミカルな印象さえあるカズーを吹いたり、すぐ歌に戻ったりと忙しい「よるのさんぽ」で締めくくった。繰り返しになるが、明るいとか暗いとか、割り切れないからこそ歌にして聴き手それぞれが自分の中で響かせる。ハルカトミユキも植田真梨恵もそんなお題を出し続けてくれるアーティストであり、何より本人がその中で格闘し続けるアーティストであることがよくわかった。本質的な顔合わせだったと思う。
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