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LIVE REPORT

Japanese

植田真梨恵

Skream! マガジン 2019年12月号掲載

2019.11.01 @Zepp DiverCity(TOKYO)

Writer 石角 友香 Photo by 山口渚、小杉歩

"突破"というワードが鮮烈に残る、メジャー・デビュー5周年のグランド・フィナーレに相応しいライヴだった。個人的には、生の緊張感で言えばピアノと植田の真剣勝負"Lazward Piano"、音源での新しいアプローチを体現するにはバンド・セットが適していると思うが、この日のライヴは、その両方の感覚が得られるような(この日はバンド・セットではあったが)、全方位の植田真梨恵がそこにいた。

3年前に開催した"PALPABLE! BUBBLE! LIVE!"の際は、箱に入っての登場だったということで、怪しげな作業員に扮したメンバーが運ぶ箱から植田が登場するのでは? とワクワクしながら、ステージ両サイドに置かれたオブジェも気になる。ステージに彼女が不在のまま歌声だけが聴こえるオープナー「旋回呪文」の最中に、客席から向かって右のオブジェの中から植田が登場。あとから知ったが、このライヴのテーマは変化/変身で、オブジェは繭を象ったものであり、ライヴ・スタートで彼女は"生まれた"という設定なのだった。

それにしても序盤の選曲のエクストリームなこと。バンド・メンバーのKEIと岩井勇一郎のクランチなギターをはじめとする音の壁に9mm Parabellum Bulletか? と圧倒された「壊して」、16ビートだがフラメンコ・ダンサーのように扇情する「RRRRR」や「泣いてない」での迫真のアクションに目を見張る。さらにグランジ・テイストのギターが響き渡る「ミルキー」など、一曲一曲の主人公になりきる植田と、いわゆる女性シンガー・ソングライターの楽曲としてソフトなアレンジを施さないバンド・アンサンブルが時に対峙し、時に溶け合う様は正直、凄まじい。「心と体」のサビでの絶叫、直立して声を絞り出す「kitsch」まで、主にインディーズ時代の楽曲で進んできたステージは、ピン・ヴォーカルでパフォーマーに徹し、ことに本能的な女性(女でもあり少女でもある)=生き物としての彼女のプリミティヴな要素を全力で出し切った印象だった。冒頭から派手なレーザーや、生々しさもあるリキッド・アートがある種の禍々しさをさらに盛り上げていたが、何よりもバンドと一体となった歌と演奏の畳み掛けるような迫力そのものに瞠目した。メジャー・デビュー前の10代の頃の激情を今の彼女の表現力で歌うと自然と更新されるという事実が、ただただそこにあったのだ。

しかし、それ以上に心を揺さぶられたのは、激しいナンバーのあと、今の彼女を代表する「FAR」が歌われたこと。西村広文(Key)の弾くコロコロと丸いフレーズや、淡々と刻まれるビートが前半の怒濤の展開を俯瞰するようだ。勢いだけでは進めないし、大切な思いや人も増えた。失ったものと得たもの。でも必要以上にセンチメンタルにはならない、そんな意志が今の植田真梨恵と重なって、この曲の本質的な意味を知ったように思う。思い出に手を振り、新しい季節を迎えるように「Bloomin'」で、西村を中心に印象的な和のエレクトロを表現し、植田がいったんステージをはけている間はバンドによるインスト・セッション。衣装替えをして戻ってきた彼女は前半の大人の女っぽい黒の衣装から、白いニットのセットアップにツインテール。実際の年齢と披露される楽曲がパラレルワールドを描いているようで面白い。

未発表の新曲「WHAT's」はEDM的なシークエンスや、音数を絞り込んだトラック風な音像が現行のR&Bとも符丁してとても新鮮だ。ディスコ・ビートな「REVOLVER」、スカ・テイストもある「S・O・S」と、多彩なビートで楽しませるブロックも盛り込むあたりはとても意欲的だ。それ以降は鉄板ナンバーの連続で、「わかんないのはいやだ」、"行くよ!"と勢いよくフロアを盛り上げた「ふれたら消えてしまう」。さらにアンセム連投と言った感じで披露した「夢のパレード」の高音のサビの熱唱は、もう声がなくなってしまうのではないか? というぐらい渾身の歌唱だった。いつまでも追い掛けているけれど、実は運命はいつでもそばにあって、必然的なものなのだとこの曲の歌詞を解釈しているのだけれど、この日の彼女の歌は祈りにも似た強度で、最後には声を枯らしていたほどなのだが(歌いながら"ごめんなさい"と謝ってもいた)、その本気度と歌詞の"これはいつも / そこにいつも / そばにあること"がリンクして、思わず落涙していた。これまで様々な"すごい"を見せてくれた彼女だが、曲の世界を演じるでもなく気持ちや気合がそのまま放出された瞬間。これまで積み重ねてきたことが、未知の世界へ届くような感覚を持った瞬間だった。それこそがまさに、冒頭に書いた"突破"の正体だと思う。

本編ラストはメジャー・デビュー曲「彼に守ってほしい10のこと」を賑々しく会場全体で共有して、短いようで超濃厚な1時間40分が終了。バンド・メンバー含め、余力を残さず緻密だったり、豪快だったり、ひと筋縄ではいかない植田真梨恵の変化/変身を立体的に表現してくれたのだった。

アンコールで印象的だったのが、植田の歌と西村のピアノだけで届けた「僕の夢」。歌手になるという願望は実際に叶えられたのかもしれない。だけど、"飛び立てるって僕の張った虚勢を/君がいつも覚えている限り"というフレーズが比喩するのは終わりのない夢だろう。変わっていく気持ちと変わらない気持ちの両方を見つめながら、表現者として何にダイヴしていくのか。これまで以上にワクワクさせられる節目の日になったことは間違いない。


[Setlist]
1. 旋回呪文
2. 流れ星
3. 壊して
4. RRRRR
5. 泣いてない
6. ミルキー
7. ナビゲーション
8. メリーゴーランド
9. 心と体
10. kitsch
11. FAR
12. Bloomin'
13. Stranger
14. WHAT's
15. REVOLVER
16. S・O・S
17. わかんないのはいやだ
18. ふれたら消えてしまう
19. 夢のパレード
20. I JUST WANNA BE A STAR
21. 彼に守ってほしい10のこと
EN1. 中華街へ行きましょう
EN2. 僕の夢
EN3. 変革の気、蜂蜜の夕陽

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