Japanese
植田真梨恵
Skream! マガジン 2015年09月号掲載
2015.08.06 @品川クラブ eX
Writer 石角 友香
1年前のこの日、シングル『彼に守ってほしい10のこと』でメジャ--・デビューした植田真梨恵。彼女がその1周年ライヴに掲げたテーマは、まず弾き語りであること、そして、インディーズ時代も含めたレパートリーの中からリクエスト上位10曲をセットリストの中心に据えることだった。華々しいお祝いというより、歌を歌うとはどういうことか?自らを問うようなスタンスが結果的に植田真梨恵というアーティストの本質を見ることになったと思う。
猛暑日が続く外の世界から、すっと異次元に入るような錯覚が起こる洗練されたホールは、小規模ながらセンター・ステージでオペラハウスのようなバルコニー席もあるユニークな空間。ステージ上にはアコギとマイク2本、そして小学校時代に彼女がモノづくりに目覚めたきっかけであり、今回の"たったひとりのワンマンライブ"のトレードマークでもある"コッペリア=クマのぬいぐるみ"とミネラルウォーターとタオルが置かれた台だけがセッティングされている。往年の映画音楽のサントラやスタンダードなジャズが流れる中、場内が暗転し、一瞬部屋着か?と思うほどカジュアルな白い上下の衣装で登場した植田。素足かと思った足元はヌード・カラーのフラットシューズだ。花道をスタスタ走り、360°のお客さんに手を振ったあとは、"こんばんわ、植田真梨恵です。今日は楽しんでいってください"と、即座に本編に突入。力強いコード・カッティングにラップ調のヴォーカルが鋭い「ハイリゲンシュタットの遺書」でスタート。アコギをかき鳴らす姿もオーディエンスに立ち向かう姿も、内側から溢れ出る熱量を映し出していて、そのへんのロック・バンドのギタリストよりかっこいい。全身を使ってリズムを取り、時に頭を振りまくり、囁きから叫びまで自在に発信する......バカ丸出しな表現だが、かっこいいとしか表現できない何かを彼女は持っている。
一転、おとぎ話の語り手のような歌唱に変化した「a girl」の歌い出しの繊細さなど、歌い手として表現力に驚く。この日の主旨を話したあとは彼女が音楽を作り始めるきっかけになったアーティストのひとりであるaikoの「花火」を歌い、自然に手拍子が起こる。しかも円形ステージは超スローに回転し始めた! 渾身のパワーでリフレインを歌いきった瞬間、大きな拍手が会場を包む。そのあとのブロックはこの日のテーマであるリクエストのベスト3を残して4位からカウントアップするスタイルで披露していくのだが、彼女曰く"ピアノ発想で作った曲も多く選ばれているので、正直不安しかない"と気持ちを吐露したうえで、まず最初にやる曲もそうだと述べて「サファイア!」を披露。ギターのコードに変換するとかなりの荒業になるのもむしろダイナミズムを生んでいて、聴いているだけでこちらの心拍が上がる。熱演の末にスパッと"次!"と自身に発破をかけるように「センチメンタリズム」を披露。高音の迫力は壁がビリビリ振動するほどの破壊力を放ち、また柔らかい声からドスの効いた声までひとりで情景を塗り替えていくパワーがすごい。そして深く内面に降りていくような「ザクロの実」では前列の女性ファンが歌の世界に入り込んでいるのがわかるほど、切ないという言葉ではとても足りない何か真意のようなものがメロディとともに伝播する。植田曰く"自身の中でもダーク・サイドの楽曲"がベスト10に入ってくるのが、ファンにとって他の誰でもない植田真梨恵というSSWの存在の大切さなのだ。
中盤には1年前のデビュー時に渋谷で『彼に守ってほしい10のこと』の大きなビルボードを発見するも実感がなく、むしろその写真を一生懸命に撮るマネージャーの姿にリアリティを感じたと語り、そのデビュー曲を力強く歌った。カウントアップ、そして第3位からはカウントダウン・スタイルでリクエストを披露してきた、そのナンバーワンを演奏する前に、"インディーズから曲はたくさんあるのに、この曲が1位ってことは、みんな私にギャーギャー言ってて欲しいってことなのかな"と、笑いも起こしながら、「心と体」をダイナミックに、弾き語りとは思えないほどの"ひとりアンサンブル"、それは彼女の歌の変幻自在さによるところが大きいのだけれど......で、一筋縄ではいかない女性の心理を"植田真梨恵・最新版"で表現しきってくれた。愛という感情、好きという感情は自分自身が最も把握しがたいやっかいな感情であることを彼女はうやむやにしない。前向きというよりは、少し勇敢になれる歌だ。彼女の歌はすべからくそうかもしれないが。
リクエストのトップ10をすべて披露したあとは、その場でギターのボディを叩く音やアルペジオ、声をループして音を構築していった「旋回呪文」。良くない思考のループにハマっている歌詞の内容にリンクしていて、試みの面白さなど軽く越えて、ひとつの作品として成立していたのも興味深かった。ラスト・ナンバーの前には改めて"メジャー・デビュー1年後のこの日、みなさんの顔を見ながら、心の真ん中にあるものを歌にして届けられて嬉しいです。これからも死ぬまで何回も何回も歌を通じて、伝えていきたいと思います"と述べ、刹那と永遠が溶け合うような「ダラダラ」を届け、本編終了。アンコールも含めると約2時間のひとり舞台。シンプルなスタイルだからこそ、植田真梨恵の尽きることのないエモーションや人柄に触れられた濃い空間になっていた。
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