Japanese
植田真梨恵
Skream! マガジン 2019年04月号掲載
2019.03.17 @日本橋三井ホール
Writer 石角 友香
春の走りは寒暖差も大きく、心身ともに揺らぎがちな季節だ。が、生きものとしてその揺らぎを感じる季節に、研ぎ澄まされた表現に対峙すると、演者の魂に触れられる気がする。
毎年恒例となった、植田真梨恵の歌とアコギ、そして西村広文のグランドピアノのみで展開する"Lazward Piano"。長崎からスタートし、この日が2本目となった東京公演の会場は、東京でも古の都会感が残る日本橋のモダン且つ瀟洒なムードを湛えるホールでの公演だ。
場内が暗転し、西村のピアノが夜にこぼれ出す星の光のように鳴り始めると、1曲目はマイクの前に立ち尽くしての「さよならのかわりに記憶を消した」。いい緊張感に包まれ、以降、アコギを携えて「白い月」、「変革の気、蜂蜜の夕陽」と、アコギとピアノと歌のシンプルなアンサンブルだからこそ、ロード・ムービーのような心象が浮かび上がる。歌とギターのストロークが連動して生まれるプリミティヴなグルーヴは、植田真梨恵というアーティストがジャンル云々を超えて、360°全身音楽家であることを改めて認識させる。「未完成品」でのふたりのセッションはさながら真剣白刃取り的な緊張感を増幅し、一気に6曲を歌いきった。
ソリッドにリフを刻みモノローグ的に歌い始める「スペクタクル」では、歌い出しの続きをやり直すなど緊張感が緩む場面もあり、そのことでよりフロアとの親密な空気が醸成されたりもしたのだが、一瞬にして風を孕むようなスケールを作り出し、まだ見ぬ世界へ帆を揚げて進む船のようなピークを作り出したのは見事だった。「スペクタクル」が海を行くようなら、「夢のパレード」は全力で羽ばたきながら滑空するような演奏。現実には鳴っていないオーケストラが想像の力で聴こえてきそうなスケールだった。
終盤に近づくと、昨年来から育んできた今期の彼女を代表する「勿忘にくちづけ」が意外なことに音源以上にJ-POPスタンダードな響きですでに強力なライヴ定番曲になっていて、間奏までピアノが入らないことで曲の骨子がより明確になり、高音からファルセットに移行する歌唱もはっきりと受け止められた。前半の切迫した緊張感も今の彼女であることは違いないが、自然体で歌うと心地よい歌唱や、エモーションの表現の柔らかさという意味で、そこに存在する植田真梨恵を感じることができる。
終盤はハンドマイクでステージを自在に移動しながらの「メリーゴーランド」、「スメル」で怒濤のように感情を溢れ出させ、ある種の巫女体質というか、歌の強弱や表情を通じて非日常的な情動を発揮。一曲一曲が渾身の舞台であるような集中力でエンディングで息を呑んだファンが、0.01秒後に割れんばかりの拍手で讃える。ステージ上と客席の集中力の高さもこの日のライヴを作り上げる大事な要素なのだ。本編ラストは聴き手の毎日の中に実はある宝石に気づかせるような「サファイア!」が、この場にいる人々の生命力も吸い上げて力強い演奏へ昇華。ストイックにピアノに向かう西村と、必要最低限の言葉しか発しない植田。潔くステージを去るふたりはまさに表現における盟友だ。アンコールではアルバム『W.A.H.』から西村の瑞々しいピアニズムが映える「長い夜」、そして最新型の植田の世界が表現された最新曲「Bloomin'」を披露。フルセットを歌いきり、むしろより自由に声を発しているように感じられた。時代という衣装やアレンジに縛られず、曲の本質を今の解釈で届ける"Lazward Piano"。弾き語り以上の緊張感と演者としての凄みに没入できた2時間だった。
■Setlist
1. さよならのかわりに記憶を消した
2. 白い月
3. 変革の気、蜂蜜の夕陽
4. 心と体
5. 未完成品
6. JOURNEY
7. プリーズプリーズ
8. 流れ星
9. スペクタクル
10. 夢のパレード
11. 愛おしい今日
12. softly
13. 勿忘にくちづけ
14. FAR
15. メリーゴーランド
16. スメル
17. よるのさんぽ
18. サファイア!
en1. 長い夜
en2. Bloomin'
en3. 光蜜
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