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LIVE REPORT

Japanese

植田真梨恵

Skream! マガジン 2016年09月号掲載

2016.07.23 @赤坂BLITZ

Writer 蜂須賀 ちなみ

5thシングル『ふれたら消えてしまう』をリリースした植田真梨恵が、赤坂BLITZにてワンマン・ライヴを開催した。開演を待つオーディエンスの手には手作りのフラッグが。ツアーなどではなく、一夜限りのスペシャル・ライヴということもあり、集まった人々の期待値も高いようだ。
 
開演予定時刻を少し過ぎたころ、場内には不穏な雰囲気のSEが流れ、ガスマスク&つなぎ姿の男たちが姿を見せる。この4人、実はサポート・バンドのメンバーの鶴澤夢人(Gt)、麻井寛史(Ba)、車谷啓介(Dr)、西村広文(Key)である。4人がかりで大きな箱を持ち運びながらステージ上を徘徊したあと、その箱をステージ上に置いてから、それぞれの立ち位置にスタンバイする。真っ赤な照明でステージが染まる中、セッションがスタート。そのままなんと、植田不在の状態で1曲目「旋回呪文」が始まってしまった。あまりにも鮮烈なオープニング・シーンに半ば呆気にとられていると、やがて箱の中から這い出るようにマイクを手にした植田が登場。そのまま「ハルシネーション」、「メリーゴーランド」、「G」と、ダークな空気感と、それを引き立てるような歌謡テイストのメロディが特徴的な楽曲が続いていく。ここで一度目のMC。"たった一夜しかない熱帯夜を。一緒に素敵な夢を見ましょう"と、濃密な夜への招待を約束した。
 
そのあとは、場内の温度と湿度を上げるかのように「スメル」、「きえるみたい」、「壊して」と疾走感のあるロック・チューンを連発。こうして聴くと改めて感じるのだが、彼女の歌にはどの曲にも"ひねり"や"ねじれ"が存在している。そしてそれらを歌う彼女自身は、まるで音楽そのものに没入しているかのよう。憑依型のシンガーだからこそ"今"しか生まれない表現が続々と生まれていくのだ。それにしても、なぜこんなにも"今"への執着が強いのだろうか。と思っていたら、MCでこんなことを語り始める植田。"楽しいとき、心が躍るとき、いろいろな気持ちが私たちの身体の中にありますが、だいたいいつも実感の方が遅くて。書いたときの気持ちとかを憶えていない曲もあるんです"。つまり、頭の中で"楽しい"という感情を認知するより先に、本能的に歌に楽しさが出てしまっている。だから後々脳内に記憶として残ることが少ない、ということだろう。ステージに立つ彼女も制作時と同じように、何かを媒介せずに"今"を抱く感情をそのまま音楽として発露させているし、変わり続け巡っていくものこそが自分の居場所だと歌う「まわりくるもの」を弾き語りで披露する前に、"大切な場所の歌を歌います"と紹介していたとおり、植田自身、そういうシンガーとしての性(さが)にかなり自覚的だと思われる。同様に、彼女が発する息遣いのひとつひとつさえも逃さないよう、演奏に聴き入るオーディエンスもその姿こそが彼女の魅力であることをわかっているようだ。
 
とはいえ、植田の音楽は決して閉じられた内省的な世界ではない。インディーズ期の楽曲を中心に演奏した前半戦を終え、10曲目「hanamoge」が始まったときのパッと花が開くような鮮やかさはポップそのものだったし、「わかんないのはいやだ」ではハンドマイクをフロアに向かって掲げながらサビをオーディエンスに歌わせる場面もあった。"こんなに来てくれたんですね! ここに立ってみなさんの顔を見て、ライヴをしながら準備は準備にすぎないなと。今夜私のすべてを出し切らないと「PALPABLE! BUBBLE! LIVE!」は完成しないんだなって思います"と表情を明るくさせた姿には、人対人の関わり合いで以って変化するライヴという場所を心から楽しんでいることが伝わってきた。感傷を蹴散らすような爆発力で「センチメンタリズム」を走らせながら、炭酸ガスのキャノン砲を噴射させたところで本編は終了。"アンコール......やらんくてもいいか!"、"お願いしまーす!"、"どうしよっかな~(笑)"なんて楽しげなやりとりをオーディエンスとしたあとには、サポート・メンバーの紹介もあった「サファイア!」、この秋リリースされる「夢のパレード」、そして最新シングル表題曲「ふれたら消えてしまう」を演奏した。アンコールまで含めると全24曲。それらを約2時間で一気に披露した濃密なライヴ。歌い手、植田真梨恵の"今"の充実感をあらゆる角度から伝えた一夜のラスト、"あっという間ですね。こういうことですよ! わかってる?"と、彼女は爽やかな笑顔を見せたのだった。

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