Japanese
ハルカトミユキ
Skream! マガジン 2017年10月号掲載
2017.09.02 @日比谷野外大音楽堂
Writer 金子 厚武
今年で3年連続となるハルカトミユキの日比谷野音公演。極限状態だった2015年のフリー・ライヴ、『LOVELESS/ARTLESS』を完成させ、ひと回りたくましくなった姿を見せた2016年の47都道府県ツアー・ファイナルを経て、"怒り"をテーマに掲げたある種の原点回帰作『溜息の断面図』を発表したふたりは、デビュー5周年記念ライヴでもあるこの日、果たしてどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか?
昨年同様「世界」で軽やかに幕を開けると、序盤は「DRAG & HUG」、「伝言ゲーム」と、旧作からのナンバーを続けていく。明るい時間帯に始まり、徐々に夕暮れを迎え、やがて夜の闇に包まれる野音という会場の特性ゆえに、最初からトップ・ギアというわけではなく、余裕を持ってスタートさせるあたりは、さすが3年目の貫録といったところ。
さらに、これまでと違うのは、ハルカが積極的にステージ前方まで出ていって、(決して大げさにではないが)オーディエンスを煽っていたということ。これは本人がインタビューで語っていたように、自信作を完成させたことによって、自らに課していた縛りから解放されたことを意味していて、その最たる例と言えたのが4曲目に披露された「インスタントラブ」。この80年代風のポップ・ナンバーで、ハルカはキュートな振り付けを披露したのだ。かつてミユキが「Hate you」でダンスを披露したことはあったが、ハルカがステージ上でこうしたパフォーマンスを見せるのは非常に新鮮。"怒り"というテーマで隠れがちだった彼女たちのポップ・ポテンシャルを感じさせる意味でも、印象的なシーンだった。
前半戦を「ドライアイス」で締めくくると、ハルカトミユキのふたりがステージに残って、アコースティック・セットへ。個人的には、このパートがこの日のハイライト。デビュー作のレコーディング中に3.11の震災が起こり、混乱のなかで書き上げたという「絶望ごっこ」に続いて演奏されたのは、ふたりが初めて作った曲だという「夏のうた」。この曲の歌詞の中にも"絶望"というワードが使われていて、絶望から希望を見いだそうとする彼女たちの表現が、最初期からぶれていなかったことを証明していた。
そして、『溜息の断面図』の中でもキー・トラックのひとつと言うべき「宝物」。"大人になること"を受け入れきれない葛藤に苦しめられた末、"青いままの春/今も続いてる"と歌ったこの曲は、まさにデビューからの5年を、もっと言えば、結成からここまでに至る道のりを総括した1曲でもある。「夏のうた」と「宝物」を続けて演奏することによる、"変わっていくこと、変わらないこと"への想いは、胸をギュッと締めつけるものがあった。
ステージ中央に置かれたスタンドライトの下、実際に手紙を読むように歌われた新曲「手紙」、そのまま"大切な人"へ向けての手紙を読んだうえで披露された「夜明けの月」という演劇的な要素を含んだパートを経て、ここからは『溜息の断面図』の真骨頂と言うべき曲を連発。アルバムの1曲目を飾った「わらべうた」に続いて、「近眼のゾンビ」ではハルカが拡声器とサイレンを手に、ミユキはギターを弾きながら、ステージ上を縦横無尽に駆け回る。野音のシチュエーションとも相まって、何やら怪しげな集会所に紛れ込んだかのようだ。
さらに「終わりの始まり」ではスクリーンに歌詞が映し出され、インパクトの強い言葉をオーディエンスの脳裏に焼きつける。この高いテンションのままライヴは終盤戦に突入し、「振り出しに戻る」や「ニュートンの林檎」といった初期からの人気曲を続け、オーディエンスの盛り上がりが最高潮を迎えると、ラストは野音公演のテーマ・ソングとも言うべき「LIFE 2」で本編が締めくくられた。
アンコール1曲目で披露されたのは、未来へ向けて"種を蒔く"ことの重要性を歌った「種を蒔く人」。未来で花が咲くかどうかは誰にもわからないが、誰かのために"種を蒔く"という行為そのものの尊さを歌った、アルバム随一の希望の歌である。言うまでもないことだが、ハルカトミユキの楽曲というのは決して楽観的ではなく、堂々巡りの歌も多い。新作の収録曲で言えば、「終わりの始まり」や「LIFE 2」(※初回盤にのみ収録)がそうで、楽曲の中での思索を経て、最後にもう一度出だしと同じフレーズが歌われる。しかし、音楽というのは不思議なもので、同じフレーズを同じように歌っても、数分の時間を経たことで、その意味合いや感じ方は大きく変わることがある。それと同様に、たとえ未来で花が咲かなかったとしても、"種を蒔く"というプロセスが重要であることを、今のハルカトミユキは力強く断言できる。
"何を追いかけて部屋を出て/また戻って繰り返している?"。ラストに披露された初期の代表曲「Vanilla」のこの歌詞にしても、たとえそれが繰り返しだったとしても、何かを追い掛けて部屋を出る、それ自体には必ず意味がある。デビューからの5年を常に動態で駆け抜けたハルカトミユキは、それを身をもって示してきたのだ。
[Setlist]
1. 世界
2. DRAG & HUG
3. 伝言ゲーム
4. インスタントラブ
5. Sunny, Cloudy
6. Pain
7. ドライアイス
8. 絶望ごっこ
9. 夏のうた
10. 宝物
11. 手紙
12. 夜明けの月
13. わらべうた
14. 近眼のゾンビ
15. 終わりの始まり
16. Stand Up, Baby
17. 振り出しに戻る
18. バッドエンドの続きを
19. ニュートンの林檎
20. LIFE2
en1. 種を蒔く人
en2. Vanilla
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