ハルカトミユキの「伝言ゲーム」【第18回】

COLUMN

アコギを背負って駅まで小走り、ホームへ駆け上がって電車がまだ来てないことを確認、ホッと歩幅を狭めると、背中が汗でじんわり濡れた。
いつの間にそんな季節になった。
ハルカです。
　
新緑とかプールの塩素とかミントソーダとか、そういうまぶしい匂いは遥か昔、人生のどこかに置いてきてしまった気がするけど、次のアルバムはきっと初夏の匂いがする。
桜どころか梅も開かない頃に始まったアルバム制作は、あっという間に夏へ差し掛かろうとしている。
曲たちが揃いはじめ、並べて眺める。それぞれの名前を考える。
この瞬間は何にも代え難い、最高の瞬間なのです。曲を眺めながら一晩中酒が飲める（例えがよろしくない）。
完成したとき、どんな匂いが閉じ込められているだろう。
CDを買ってぜひ嗅いでいただきたい。（耳でね）
もうすぐできるよ。

　
今回の制作において、今までと何もかも違ったことが一つ。
アルバム制作と並行して舞台に挑戦したこと。
別の人間を演じることで（もちろんそんなこと人生で一度もない。小学校の学芸会ぐらい。）、書く物にどんな風に影響するか、楽しみでもあり怖くもあった。
　
稽古と曲制作が縫い合わさって一枚の布になってしまったかのような4月、5月だったけれど、一度飛び込んでみれば、頭で考えるより速く細胞がざわざわと動いて、書く、歌う、演じる、読む、それらすべてが血と肉となって私の体へ入り込んだ気がした。
それからはもう、自分に身を任せるしかなくて、自分に身を任せるなんて表現は変だけれど本当にその言い回しがぴったりで、ハルカとしてだの福島遥としてだの楓（劇中の役名）としてだの、そんなのはどうでもいいんだ、そもそもそれを操作しようとする事自体ナンセンスだと、そういうところに行き着いた。

　
そのさなかで出来てきた曲たちだから、いい具合に私の意識を離れているし、曲というのは本来そうあるべきものだと思っているし、らしさなんていう曖昧なものは頭で考えてもわからない、ただただ自分に身を任せて感覚に従ってこだわり抜いて作った、まぎれもないハルカトミユキの作品。
そんな感じです。
どこかで楽しみに待ってくれている誰かと同じように、私もずっと待っている。
このアルバムを開ける日を、胸をときめかせて待っています。

　
ミュージシャンになるための、役者になるための、脚本家になるための、その方法は一つ。
なること。
　
見る前に跳べ。

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