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オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第4回】

2011年11月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第4回】

日野日出志という漫画家がいる。1967年のデビュー以来、怪奇でグロテスク、しかしなんか牧歌的な画風と、どこか切なさの残る独特の作風で知られるホラー漫画の第一人者だ。
日野日出志の作品群の中には、異形の者に対する慈愛の念が満ちている。
日野日出志はそんな彼らにものすごい投げやりな、しかし壮大な救済を与える。
そして毎回大体おんなじ感じのラストを迎えることで有名だ。
代表作の一つ『蔵六の奇病』を筆頭に何度も繰り返される、死によって初めて救われるフリークスの悲劇だ。
そして今回取り上げる、この笑って良いのか泣けば良いのかって感じの表紙の『怪奇死人少女』も一連のフリークス救済の精神に満ちた日野マンガの極北に数えられる。
この作品こそ数少ない悟り系哲学ロマンホラーマンガなのだ!
 ↓ ↓

普通の中学生、百合ちゃんは、食欲の出ない体で学校の健康診断に臨んでいた。百合の番が来て、医師が聴診するとそこで大変な異常が発覚する。

「こ・・・これは、いったい」

狼狽する医師。何事だ!?
なんと百合の心臓は止まっていたのだ!
そりゃあ医師も驚くね!

「心配ないからね。」

と言いながら、静かに百合を隔離する看護婦がリアル。このいきなりの怒涛の展開まで全体の3%ぐらい。さすがの三谷幸喜にも思いつかない超展開の導入部である。

心電図も反応しないが、どう見てもピンピンに生きている百合。
で、病院で精密検査をすると百合は医学的にはすでに体も脳も死んでいることが明らかになる。

「百合さんは死人です!しかし、なぜあのように生きているのか・・・」

と医師も禅問答のようなことを言い出す。

「百合が死人!」

とお母さんもさすがに驚きを隠せない様子。
そりゃそうですよね。
しかしセリフは、「百合が万引き!」くらいのノリだ。

ちなみに、なぜ百合が死人少女(ホントすごいネーミング)になったのかの理由は最後まで一切明かされない。この辺のなげやり感も日野マンガのロマンである。
治療法もわからず日に日に体だけが腐敗していき苦しむ百合。腐敗を防ぐため防腐剤を注射する事しか家族にはできなかった。
苦しみと恐怖で見る見る疲弊(っていうか腐敗)していく百合。

家族はもはや全身腐乱している百合のために生活を捨てて山奥に引っ越す。
時がたつにつれ、次第に百合は目も見えなくなり、耳も聞こえなくなってくる。
それとともに少しずつ苦しみも感じなくなっていく百合。
次第に穏やかな境地に達する。苦しみぬいたフリークスに救いの影が現れる。

そして冬、百合はしゃべることもできなくなり、ほとんど骨だけになってしまう。
やがて長い冬が終わり、桜が咲き、虫が舞う春が来る。

すると!

骨だけになった百合の死体から七色の花が次々と咲き乱れる!
そして怒涛のラストシーンへ!

「まばゆく七色の光・・・このやさしさ・・・このぬくもり・・・
この静けさ・・・あぁ・・・!」

あぁ・・・!じゃないだろう。
百合はめくるめくトリップ世界であの世の桃源郷のイメージを見つけ出す。
やがて家族の見守る中、百合の身体は光の粉になって窓の外に流れていく。

「きれい!本当にきれい!」

とわれを忘れて絶賛の家族が少し怖い。降り注ぐ百合の光の粉。

「そうだ!死んでいない!空の中にも土の中にもどこにでもいるんだ!」

「そうよ、きっとそうなのよ!そしてわたしたちを見守ってくれるんだわ!」

と、傍観者がガンガン悟りを開きだす始末。
すると突然百合の声が空から響いてくる。

「私は死んではいない・・・」

となぜか突然口調が偉そうになった百合の登場。

「私はあらゆるものの中にいる・・・!」
「あぁ・・・・!!宇宙の万物の中にわたしがいる・・・・!!
私は宇宙・・・・!
宇宙は私・・・!」

こうして衝撃的なラストを迎えた死人少女。
最後は母親に新しい命が宿り、百合の輪廻転生を示唆して笑顔で終わる。


始まりの無理やりすぎるB級テイストから万物に訴えかける悟りの境地へ一切説明なし、最短距離のショートカットで到達する、日野マンガの醍醐味が爆発の本作。いかがだっただろうか。
他にも「地獄少女」、「腐乱少女」など「ほとんど同じじゃん!」という作品がたくさんある。
中でも虫が大好きないじめられっこが、最後には死んで蝶の大群になり、みんなが「わぁ、きれい」とかいう傑作の「いも虫」も良い。
是非、いくつか読んでみることをオススメする!ほとんど同じラストの繰り返しに、デジャビューを通り越した独特のグルーヴが生まれてくることを保証しよう!

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