オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第10回】
2013年がやってきた。今年もよろしくおねがいします。さて新年、何をしていたのかというと、オワリカラの活動の合間を縫ってソロのアルバムを作ったりしていた。この原稿がみんなの目にふれる頃には、もう出てるかもしれない。いや、出てないかもしれない。そのへんはっきりとしないソロアルバムの中に『古本屋へいこう』という曲が入っている。「本屋で本を買う」という行為自体への愛情のようなものを歌にした。そんな曲を作りつつ、思えばこのコーナーでは今まで好きなマンガ一つ一つについて話をしてきたけど、マンガ全体の、いうなればちょっと大きめな話をしたことがなかったなぁと。大きな話っていうのは難しくて、時に味気なかったりするのだけれど、しかしせっかくの2013年最初の漫読家、今回は一冊のマンガの話ではなく大きめのテーマで行ってみたい。新たな挑戦だ。「マンガを買う」ということ。今回のテーマは、「マンガ買いの作法」だ。夢にまで見た漫読家を目指しマンガをいそいそコツコツと買う習慣もずいぶん続いてきた。もう部屋の容量的にも限界が来ている(マジに)。そんな中で、自分なりのマンガ買いの作法というのが確かに生まれてきている。今回はそれをみんなに話してみようと思う。
さてさて、作法の一つ。まずは、どんなことにも「世界」があるということを理解することだろう。いきなり何の話?と思うかもしれないけれど、まぁしばらく聞いて欲しい。たとえばザリガニにはザリガニの、ホットケーキにはホットケーキの、君には君の世界がある。それと同じように、もちろんマンガにはマンガの世界があるんだ。それらは隣り合っていても、その間に境界線が存在する。まずはそれを認識する。そして自分が他の世界に関わっていくのなら、境界線をまたいで自ら別の世界へと足を踏み入れていく必要があることを知るんだ。別の世界へ入っていくには、どうしたら良いんだろうか?たぶん、それは求めているということを伝えることだ。これは人間関係だって、きっと同じだね。「マンガの世界」に立ち入っていくことは、僕たちが「マンガを求めてる」ことを伝えることから始まる。これをもっと具体的に言うと、一つの作法になると思う。君がもしいくつかの本屋を回って、両手一杯の惹かれるマンガに出会いたいなら、まずは最初に入った店で一冊でも良いから手にとってレジに持っていくんだ。前から気になっていたもの、何か直感的にひかれたもの、集めてるマンガの最新刊、無難なものでも意外なものでも、極端に言えば無理やりでも何でも良いから一冊買う。105円でも良いよ。これが「マンガ」の世界に立ち入っていくための一種の儀式なんだ。これは、「自分はこれからあなたの世界へ入って、たくさんの面白いマンガに出会いたい。それを求めているんだ。」と「マンガの世界」へと伝えることだ。この一冊のマンガが、言ってみれば人間の世界からマンガの世界への通行手形のようなものなんだな。この求める気持ちが向こうに伝われば、不思議とたくさんのマンガに出会えるようになるだろう。たとえば、こんな経験はないだろうか。吸い寄せられてくるように、気になるマンガが視界に飛び込んでくる。これが、言ってみればマンガたちに彼らの世界の客人に認められたということだ。「こいつは突然何を言ってるんだろう?」とお思いの皆さん、その気持ちも重々承知です。だけど、こういう作法というのはたしかに存在していると思う。結構多くの「本の虫」たちがこれに近いことを書き残してたりもする。古書店めぐりのゴッドファーザー植草甚一もそんなようなことを書いていて、なるほどみんな感じているんだな、と思ったこともあるんだ。
おや、そこで仏頂面のリアリストなあなたへ。これ、もう少し現実的に言っても、本を買う側にとっては結構重要なんじゃないかと思うんだ。つまり。人間は、初手っていうのはガチガチになってるもんだ。本屋に入って「何かを買う」か「何も買わない」かを左右する初手の一冊。これを選ぶときというのは、無意識に緊張している。逆にたくさん物を買った後に、もう一つ増やそうかな、なんていうのはかなり「なめらか」に出来る。勢いがつくと「これもこれも」と散財ルートにまっしぐら、ということもあるくらいだ。つまり何事も、最初の一回というのはハードルが高くなってる。「付き合うまではこうじゃなきゃヤダ!と理想が高かったけど、いざ付き合ってみたら色々どうでもよくなった。」なんていう声が周りから聞こえてこないか?こういう人間の心理が生むハードルの高さを、まず一冊無理やりにでも手に取ることでぶっ壊すことが出来るんじゃないかな。それでより柔軟に、なめらかにマンガを吟味することが出来る。この作法には、そんな側面もあると思う。うーん、予告どおり味気ない話になったな。
まぁとにかくこんな具合に、マンガの方から寄ってくるのか、自分の間口が広がるのかはともかく(好きな理論を選ぼう!)、より多くのマンガと出会うのならこの作法を気にしてみて損はない。「本屋をめぐるなら、まずは最初の店で最初の1冊を買う!」、これが僕のマンガ買いの作法その1だ。さてその2は…と思いきや字数が尽きた。そう、初の「次回へつづく」だ。これもまた新たな挑戦。次回へつづく!
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