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オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第21回】

2014年11月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第21回】

昔、途中まで読んだけど、なんか理由も無く読むのをやめてラストがどうなったのか気になるマンガってありません?

ぼくはそれ『あずみ』というマンガで、読み出したのは高校生くらいの頃。30巻くらいまで読んだんだけど、なんか同じような展開ばかりになってきて、ふと飽きてしまった。それで読むのをやめてたんだけど、ちょくちょく風のうわさで『あずみ』が完結したこと、『AZUMI』として新作がスタートしてそっちも完結したってことなんかは小耳にはさんで、改めて最後まで読むことにした。全48巻。『デビルマン』の約10倍だ(なんでもデビルマンで計る)。なかなか長い道のりです。

小山ゆう作『あずみ』は、徳川が天下をとった江戸幕府初期、泰平の世を長続きさせるため戦争を企てる者たちを暗殺する刺客・あずみの活躍を描いた時代劇マンガ。このあずみっていうのが尋常じゃなく強いんだけど、見た目や心は美しい少女という、ちょっと言い方は悪いが「ありがち」な設定を丁寧に「なんでこんなに面白くできるの?」というくらい描きあげる。読み返してみてまずは『あずみ』の前半は本当に面白いなぁと感動の嵐。登場する仲間、ライバル、悪役まで粒ぞろいの名キャラばかりで、最強の刺客でありながら世の中の事を知らないあずみと、戦国の世が終わりうまく生きていくことの出来ない武人たちとの組み合わせ方が絶妙なのだ。最初から最後までいとも簡単に人が死ぬ作風なので、油断すると片っ端から死にまくる。お気に入りのキャラでもいようものなら、いつ非業の死を遂げてしまうのか・・・はたまた奇跡が起きてコイツだけ生き残ってくれるか・・・と常にハラハラしながら読まなければならない。心臓に悪い。

もう1つ『あずみ』のキモは歴史上の人物が登場するところで、『お~い竜馬』で史実とフィクションをうまくブレンドした小山ゆうらしく、実在の人物(天海、徳川家康、伊達政宗、宮本武蔵・・・など)とあずみをはじめとする架空のキャラクターが出会って意外な展開になっていく。これがまた面白い。面白いと同時に「最上美女丸って本当に実在したんですか?」とかヤフー知恵袋で質問してしまうような人が現れてしまう問題もあるのだが。あんな派手なオカマ剣士が実在するわけなかろう。美女丸って。

そんなわけで大いに名作マンガなのだけど、読み進めていくと「ん?」という空気が漂ってきた。それは最初は些細な違和感なんだけど、次第に色濃くなっていき、やっぱり高校時代に1度読むのをやめたあたりでまた読む手が止まりそうになってしまった。簡単に言うと作者があずみのこと好きすぎるんじゃないか?ということなのだ。いや、自分の生み出した作品に惚れ込む姿はすばらしいのだけど、あまりにもあずみが強く崇高になりすぎる。時代という大きなうねりがあって、そこに抗い苦悩するあずみの姿に心打たれたはずだった。だけど次第に時代も他の登場人物も舞台装置の「書き割り」(舞台に立ってる木とかのアレ)のようになっていく。あずみを苦しめあずみを高めるためにすべてが回り始めるのだ。それを小山ゆうはもはや「変態」のようにじっくりと描くようになり、やがて「信仰」のようになっていく。あずみ以外の登場人物は死に、あずみには傷ひとつつけられない。物語として破綻してんじゃないかいコレ、と別の意味でハラハラしてくる。心臓に悪い。いうなれば飲み会の席で娘の写真を見せられながら、さまざまな娘エピソードをとくとくと聞かされているような感じだろうか。しかもさぞや幸せそうな顔で話しているだろうな、と相手の顔を見ると目が笑っていない。飲み屋の薄暗い間接照明で照らされた血走った目で、楽しいエピソードもつらいエピソードも聞かされ続けるような。違うか。

そんな空気を打ち破ったキャラクターが現れるのは後半になってからだった。昔に読むのをやめたところから少し先に進んだら現れたのだ、稀代の名キャラクターが。そいつは千代蔵。顔がひん曲がっていて、ビジュアル的にはかなり強烈だ。口を利くことも言葉を理解することもできず1人では生きられないが、剣の腕は超一流。姉の言うことだけを理解し戦う、敵サイドの男として登場した。この千代蔵が本当にすばらしかった。千代蔵はあずみには心を開いて、2人で使命を果たす旅に出ることになるのだが、この二人旅の間は今までに『あずみ』を読んでいて感じることのなかった心が満たされているような時間が流れていた。あずみは世間を知らないがために純粋だが、千代蔵も同じくらい純粋だ。世のために己を犠牲にして戦う覚悟をしていくあずみ、あずみのためだけに命を懸ける千代蔵。はじめてあずみと同じ地平に立つキャラクターだと思った。千代蔵の登場で停滞していた空気も動き出したような気がする。ここまで読み進めて、千代蔵というキャラクターに出会えて良かった。やっぱりすごいマンガだったな。皆さんも、読むのやめてたマンガを読んでみると、良い出会いがあるかもしれないよ。

完読して、興奮さめやらぬので『あずみTHE MOVIE』を見る。あずみ役は上戸彩。監督は北村龍平。『ゴジラファイナルウォーズ』を見に行った際、怪獣の活躍を求めていたのにジャニーズによるワイヤーアクションを見せつけられて以来、苦手な監督の筆頭になった北村龍平だが、『あずみ』は『ゴジラ』よりかは若干向いている題材だった様子。原作ファンにはすこぶる不評のこの映画だけど、結構面白いところもあると思う。オダギリジョーの美女丸なんかイメージどおり。しかし、それにしても登場人物がビュンビュンと数十メートル飛ぶのはどうなのか。ドラゴンボールじゃないんだから。どれだけワイヤーアクションが好きなんだ。

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