オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第27回】
2015年11月号掲載
この世の中には、この道は危険だけどどうしても行かなければならない、という時がある。それは未知への好奇心なのか、人間の本能なのか。たとえそれが1%でも、望みがあればそれに賭けてしまう......人間とは不思議な物だ、とそんなことを考えながら、映画館への未知、もとい道を歩いたのは、ちょうど今日。そう、ちょうど今日、見てきたところなのだ。
映画『サイボーグ009VSデビルマン』を。あのデビルマンと009が戦う!日本の少年マンガに革命を起こしたキャラクターが激突する! この映画が解禁されたとき、「なんだそりゃ!どこのどいつだそんな最高なこと考えたやつはーー!」という熱い思いと「これ面白いわけねーー!」という寒い思いが交錯した。そうなのだ。企画自体は予想のはるか頭上をいく魅力的なスーパー企画なのだが、どう考えても「がっかり映画」の予感がムンムンとする。「サイボーグ009とデビルマンがどちらも損してガックシと肩を落としている」という見たくもない姿が脳裏に浮かぶ。居酒屋で愚痴るトホホな2人だ。不思議なもので、カレーとラーメンは単品では美味しくても、混ぜると美味しくない。ごちそうも、混ぜるな危険、混ぜれば残飯だ。映画やマンガでも、これとこれを混ぜたら絶対すごいだろ!という意図で作られた物は、どっちも描ききれずに微妙な感じになることが多い。まして『009』と『デビルマン』といえば、半世紀近い歴史を持ち、熱狂的なファンも多い、圧倒的な世界観を持った少年マンガの金字塔だ。「つぶしあってしまうのでは」「どっちも描ききれずよくわかんないものになってしまうのでは」という不安は仕方の無いことなのだよ。それでも見に行かないわけにはいかなかった。それが人間だから......。せめて原作好きとして「たとえどんな結果が目の前に飛んできても、落ち込まないぞ!」という謎に気合いの入った心構えで映画館の席についた。
しかし映画が始まると、「おや、これはもしや......」という嬉しい裏切りの予感が映画から漂ってきた。映画はそれぞれの原作の名シーンから始まる。これがすごい。マンガのイメージそのままに、セリフまで完璧に再現したこの冒頭部分で、原作ファンはがっちり掴まれてしまうだろう。サイボーグ009は名台詞と名高い「あとは...勇気だけだ!」が出るアポロン戦のシーンを、そしてデビルマンはマンガ史上屈指のトラウマシーンとして有名なデーモン族・ジンメンとの戦いを映像化している。どっちも超名シーンだから、「そりゃずるいよ!」とも言えるけど、ここの再現度や演出は「どうもありがとうございます!」「ごちそうさまです!」というレベルなのだ。特にジンメン戦は、べた塗りで真っ黒なデビルマンの原作を忠実に再現していて、真っ黒な画面に真っ赤な血しぶきが吹き荒れる。「これを作った人は相当な原作リスペクトだ!」というのがこの2シーンを見ただけでもわかる。そしていよいよ本編が始まると、デビルマンと009たちが遭遇するわけだが、このへんも丁寧で違和感ないのがすごい。コナンとルパンが合体した時は「そもそも絵柄も時代も全然ちがうじゃん!こいつら!」という違和感まであったが、この作品にはそういう違和感が無い。2作品にまたがってるぶん、必然的にたくさん登場するキャラクターたちも描ききれているのもすごい!特に限られた時間の中でサイボーグたちが全員しっかりと活躍するのには感動した。さすがTVアニメ版009の監督でもある川越監督。大体こういう時にハブられるのが008というキャラなのだ。飛んだり火を吹いたり手からマシンガンが出る他のサイボーグに比べて、「水中での戦闘と運転が得意です」という地味な設定の008。数年前に公開されたリメイク映画「009 Re:CYBORG」では、一度も戦わず、本当に歩いてるだけというモブキャラ並の扱いで多くの009ファンの涙をさそったが、今回はばっちり戦ってくれる。まーとにかく、「2作品を過不足なく融合して、それぞれのファンの期待にもこたえつつ、一本の作品としても破綻しない」という実にウルトラCな離れ業を見せてくれた。職人技に拍手だ。
この2作品に共通するのは、日本が生んだ悲哀を抱えたダークヒーローの元祖だということだ。どちらも望まぬ力を手にして人間ではなくなってしまった。しかし人間の心を失わず、敵に裏切り者として追われながら闇にまぎれて人間のために戦った。時系列的にはちょうどこの映画のあと、それぞれの原作ではデビルマンも009も最後の戦いへと向かって行く。監督はあえてこの時期を選んだんだろう。その戦いは決してハッピーエンドな戦いではない。しかしその哀しみに満ちた戦いの中、デビルマンの心の中には009が、009の心の中にはデビルマンが、同じ悲哀を抱えた戦士として息づいていたのかもな、という想像を許させてくれる良い作品だった。
こういう死屍累々の難しいコラボでも、愛と技術があればちゃんと作り上げられるんだ。地雷原を抜けたらオアシスにたどり着いた、そんな気持ちになる映画でした。
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