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オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第14回】

2013年09月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第14回】

来ている。どうも来ているらしい。
秋でも、台風でも、腹痛でもないぞ。
何がって、諸星大二郎が来ているのだ。
いつだったかこの『漫読家』でも紹介した、日本の誇る至宝漫画家の諸星大二郎が、かなり注目されている気がするのだ、ここ最近。
『壁男』『夢みる機械』などオワリカラの曲タイトルにも使わせてもらうくらいに僕は大ファンなのだが、どうやら来ているようなのだ。
気のせいなのでしょうか?
いやいや、なんといっても、『妖怪ハンター』や『栞と紙魚子』など、これまでのカラー原画を集めたキャリア史上初の画集が堂々の発売、しかも京都マンガミュージアムではこの夏に原画展が開催されている、などにわかに諸星大二郎周辺(ってあるのかわからんけど)が盛り上がっている感じがするのだ。
これを来ていると言わずして、何を来ていると言うのか。
来ている!

それだけじゃない、この数年。
本屋を歩けば、諸星大二郎を筆頭に、高橋葉介(代表作『夢幻紳士』)、吾妻ひでお(代表作?『失踪日記』)、萩尾望都(代表作『ポーの一族』『トーマの心臓』)など、僕が大好きで愛してやまない漫画家たちの書籍やムックが、かつてからは考えられないようなスピードで増えていっている。
どうも、来ているのだ。
自分の好きなものが注目されているらしい。こんな嬉しいことはない。しかもどれも漫画家に対する愛とこだわりが溢れていて、クオリティも高い。一読者として単純に読んでいて楽しい。
こんなに立て続けにストライクゾーンをぶち抜く本がリリースされると「も・・・もしかして時代と僕の趣味がガッチリ噛み合っちゃったんじゃないかしら」とか思って、意味も無く本屋の片隅でドキドキしたりしていた。

そんな中、あるときに諸星大二郎の画集『不熟』が素晴らしかったので感想のようなものをツイッターでつぶやいたら、見知らぬアカウントの方にリツイートされた。
諸星大二郎フリークの人なのかな、と思いアカウントを見ると、どうやら書籍編集者の方のようだ。

そして、表示されたその方(Aさんとしておきましょう)のプロフィール欄を見て、即座に腰を抜かした(比喩表現なので心配はしないよーに)。

Aさんは、その諸星大二郎の画集『不熟』を編集した張本人の方だったのだ。

それだけじゃない。他にもさまざまな漫画家の関連書籍を企画、編集しているらしい。
そこに並んでいる書籍のタイトルの数々。
僕はあわてて本棚にある最近買ったマンガ関係の本の奥付を見ていった。
『文藝別冊・高橋葉介』『吾妻ひでお選集』『文藝別冊・萩尾望都』『萩尾望都対談集』・・・・
これも!これも!これも!
これも!?
そこにあった本の奥付、「編集」のところには、ほとんどすべてにわたってAさんの名前が刻印されていたのである。

いや、そんなことってあるんだね。
僕が知らずに手に取っていた本が、1人の編集者の手がけた物だったのだ。
最近で最大の衝撃。

そして衝撃と同時に、妙に嬉しさのあるものだった。
目には見えない、編集者のこだわりや、情念みたいな物が届いて来たからこそ、僕は無意識にそれらの本を手に取ったんだろう。
一人の「好き」という感情が、すべての始まりで、時に多くの人や物を巻き込んでいく。
たぶんそういうものに支えられて「文化」というヤツは、息づいて来たと想像できたからだ。
いや、想像じゃないな。
自分で物を作り続ける身として、一人の一念がエネルギーとして循環する世界を知っている。
だからこそ勝手ながら、僕はAさんの丁寧な仕事に、そういう突破口の息吹を感じて、ツイッターを通してAさんのファンだと告げた。
これからも書籍を楽しみにしていると。
ありがたいことにツイッターでお返事をいただいて、それからしばらくして一つのお知らせをもらった。
この知らせが、二度目の衝撃であった。

諸星大二郎&吾妻ひでお、史上最大の原画展が東京で開催される知らせである。
京都マンガミュージアムで行われている諸星大二郎原画展の、さらに巨大なものが開催されることが決定されたのだ。
しかも同じ規模で吾妻ひでおの原画展も!
この企画にAさんが関わっていて、実現にこぎ着けたのだ。
はっきり言って、こりゃ快挙だ。
これもまた1人の「好き」という一念が具現化した形だ。

11/15~25まで西武池袋本店にて。前期が諸星大二郎、後期が吾妻ひでお。
昨年は特撮博物館で度肝を抜かれたが、今年はこの原画展だ。
興味がある方は是非。
こういう熱量を、逃してはいけないと思うんだ。

僕は、何度もいくぞ。

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