オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第3回】
2011年09月号掲載
僕の部屋には一冊だけ、ビニールの封を開けてないマンガが本棚に並んでいます。
時間が無くて読めなかった?気に入らなくて読む気にならなかった?いいえ、どちらも違います。僕は、ある人と別れたくなかったから、自分の意志でずっと、このマンガの封を開けていないのです。今回は、そんなマンガの話をしましょう。
僕がそのマンガに出会ったのは、15歳の時でした。家のそばに、深夜までやっている古本屋があったので、夜中にウロウロと街を徘徊しつつその古本屋で何か安い本を買って帰って、朝まで本を読む不健康な行事が休日の楽しみでした(その古本屋は数年前になくなってしまったのですが。)。
ある日の夜中、何かマンガを読みたくなって一直線にその店へ辿りつき、店内を徘徊していると、知った名前のマンガの全巻セットが置いてあるのがふと目に入りました。近づいてよく見てみると、どうやら状態がかなり悪いらしく、並んだ背表紙は汚れていてボロボロです。でもそのぶん値段も激安で、一冊二束三文って感じでした。僕は何気なくそのマンガの束を棚から取りました。表紙に描かれているのは、いろいろなところで何度も見たことのある少年、機関車、そして何よりも有名な黒い服の女性。宇宙に浮かんだそれらの肖像は、松本零士の独特のタッチで流麗に描かれていました。
「有名なマンガだし、読んでみようかな。」となんとなく思い、その夜はそのマンガを買って家に帰りました。それは、『銀河鉄道999』という作品です。 
 ↓ ↓

僕が買ったのは、全18巻の少年画報社版でした。以降も続編が描かれている『999』の、一番最初の連載時に発売されたコミックスです。1977年から「少年キング」に連載されて松本零士ブームを巻き起こした代表作で、ファンの間では後の続編『エターナル編』に対して『アンドロメダ編』と呼ばれています。
早速読み出した『999』に僕はハマりました。
アホで間抜けでラーメンとビフテキばっか食べてる、でも最後には勇気を忘れず、宇宙の戦士として成長していく主人公の鉄郎。ユーモラスで軽妙な存在感と、人間じゃないらしい...という謎も魅力の、999の車掌さん。そして鉄郎が出会う、幾多の宇宙の戦士たち旅人たち、停車駅の惑星で生きている人たち。そして何よりも僕を夢中にさせた、いや、このマンガを読んだすべての少年の心を掴んだのが、"謎の美女"メーテルです。
メーテルは、少年たちの前に現れて、彼らを終着駅『機械の体をくれる星』への旅へと誘っていく謎の美女です。母親を殺され泣くだけだった少年は、彼女との旅を通してさまざまな出会い、そして別れと戦いを繰り返し、銃を携えた宇宙の戦士へと成長していきます。メーテルは少年の宇宙の旅を、ときにやさしく、ときに厳しく、ときに強く見守ります。物語の核心に触れてしまうのであまり詳しく言えませんが、メーテルはそうしてたくさんの少年たちを終着駅へと送り込んできた存在なのです。ある意味、少年にとってメーテルとは、大人へと変わり、男として外の世界へと旅立っていく瞬間に出会う女性性の象徴、アニマなのです。それこそが彼女が"青春の幻影"と呼ばれる理由です。
僕にとって毎日少しずつ読みすすめる『999』の世界がすごく心地良い物になっていき、いつしか鉄郎に感情移入し、メーテルへの思い入れもどんどん強くなっていきました。そうして単行本を読みすすめて、いよいよ最後の18巻がやってきました。
しかし、僕はそれをすぐに読んで999の世界を終わらせてしまうのが惜しくて、ちょうど借りてあった映画版の『999』を先に見たのです。なんとなく本当の完結を先延ばしにしたかった。そして、その映画のラストシーン。旅が終わり、鉄郎とメーテルの別れがやってきます。お互いに違う列車で新しい旅へと出る二人。二度と会うことはない。その別れ際、メーテルは鉄郎にキスをします。「私は、あなたの少年の日の心の中にいた青春の幻影。」そして、列車が動き出す。お互いの名前を呼び合う二人。空に消えるメーテルを乗せた999。そして999を見送った鉄郎が顔を上げる。その瞳は、いつの間にか見違えるほど凛々しく成長した男の光をたたえています。「さらばメーテル。さらば銀河鉄道999。さらば少年の日よ。」のナレーション、そして響き出すゴダイゴの主題歌(本当に歌詞を全部引用したいくらい最高の主題歌なんです。僕はこれ以上作品にマッチした主題歌を知らない。)。
僕はこのラストシーンで、最高にボロ泣きして、身がよじれるほど切ない気持ちになりました。そしてその後、最後の一冊のコミックスの封を開けることができなくなってしまったのです。これを読んだら、あの映画でのあのメーテルとの別れが本当に訪れて、二人の旅が本当に終わってしまう。もう二度とメーテルには会えない。僕はそれを開く気にならず、ビニールをまとったままのコミックスを本棚にしまいました。
それからずいぶん経ちました。最初にお話したように、その一冊はずっとそのままです。だから僕の本棚の中では、いまだに999は旅の途中、終着駅についていません。今でもふと思い出して、二人にちょっと悪いなと思ったりもします。とっくに僕も世間で言うとかなり大人な年齢になったのですが、いまだにあのラストシーンの鉄郎のような瞳にはこれっぽっちもなっていないと思います。でもいつの日か、少しでも立派な旅人になれたとき、自分なりの終着駅に着いたと、そう思えたとき、僕は本棚の『999』の18巻の封を開けるでしょう。そして鉄郎の旅に決着をつけ、メーテルに別れを告げて、さらなる旅へ出るのです。それまでもう少し、待っていてください。 
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