オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第6回】

2012年03月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」

この原稿を書いている現在は2月14日。街もざわめくバレンタインデーである。日本では意中の相手やお世話になっている人にチョコを渡すという奇習に日になっているが、「もらえるものならもらいたい、虫歯になるほど。」というのが全ての男性少年たちの本音だろう。そんなわけで本日、僕が思うマンガの世界の憧れの格好良い男性を紹介したいと思う。彼を参考にすれば、きっと魅力的な男性になれるだろう。

その憧れキャラは、さくらももこ『ちびまるこちゃん』に登場する花輪くんだ。初登場したときは、ものすごい変な髪形の、キザな変人だったのに、次第に親しみやすくなり、きづけばジェントルな魅力がある人気キャラになった。この花輪くん、ただのキザな金持ち坊ちゃんかと思いきや、よく読むと本当にすごいヤツだ。15歳ほど年下だが、ふつうに尊敬してしまう。作者のさくらももこも「結婚するなら花輪くん」と言っている。

▲さくらももこ『ちびまる子ちゃん』

大金持ちで、多趣味多芸、成績オール５のスーパー花輪くんだが、人間性も素敵だ。たとえばある話で、まるこたち一同が怪しい洋館に侵入し、命からがら逃げ出した時。疲れきって怯えてる一同に、「ヘーイ、気をとりなおして遊ぼうよ。僕がジュースをおごるよ。」という感じで、みんなにジュースをおごって元気付けてアフターケアをするのだ。優しくて気が利く。こんなセリフをさりげなく言ってサラリとやってのける花輪くんの格好の良さは異常だ。

実は武闘派な一面もある。花輪くん、なんと空手の実力者。しかも黒帯で、無茶苦茶つよいのだ。アニメでは、まるこたち女子を守って上級生三人を華麗に倒すシーンもある。しかもただ強いだけではない。花輪くんがヒデじいの運転する車で公園の前にさしかかった時、まるこや永沢が他校の上級生にからまれている場面に遭遇する話がある。ヒデ爺に「ちょっとかたづけてくるよ」と言ってさらりと戦いに行こうとする花輪くん。これだけでも惚れてしまう格好よさだが、その時公園に大野くんと杉山くんがまるこたちを助けに颯爽と現れる。すると花輪くんは「フッ、僕の出番はなさそうだ」と言ってスッと身を引くのだ。真の強者は、不必要な暴力はふるわない。大野杉山に見せ場もちゃんと用意してあげるあたり、並みの男じゃない。

そんな花輪くんだが、実はちょっと寂しい境遇でもある。両親は仕事で海外にいるため、ほとんど会えないのだ。いくらパーフェクトな花輪くんでも、まだ小学生だから母親は恋しい。たまにお母さんが日本に帰ってきた日には、「ママ、一緒に寝ても良いかい？」なんていじらしいことも言う。そんなお母さんが海外に旅立ってしまう日、まるこたちクラスメイトと花輪くんは空港まで見送りに行く。ママとの別れ際、旅立つママを見つめる花輪くんの目に涙がこぼれるのを、まるこだけはひそかに見てしまう。しかし次の瞬間、みんなの方を振り返った花輪くんは、いつものキザな微笑みをキラキラさせている。弱い自分を見せず、みんなの前ではいつもの花輪くんとして明るくふるまう姿に、まるこは「えらいよ」と感動するのだ。本当に素敵なヤツである。

そんな花輪くんだから当然モテる。まるこたちが中学生になったスピンオフ作品「永沢君」では、学校のマドンナ堀こずえに想いを寄せられているが、恋愛には特に興味が無い様子。この永沢君では、永沢、藤木のコンビに加えて、堀こずえが後に藤木を好きになったり、城ヶ崎さんが永沢君を好きになったり、永沢が野口さんが気になったり、野口さんが不良の平井が気になったりと、複雑な恋愛模様が描かれるが、花輪くんだけはその様子を外から見て「フッ、失恋か・・・」と自由人っぷりを発揮する。そんな自由人なところも魅力だ。しかも、この頃花輪くんはポール・マッカートニーのブートレグを聴いているらしく、ポップミュージックへの造詣も相当なもんだ。

以上のように、あげればキリがないが、いかに花輪くんが表面だけでなく、内面的にも偉大な人なのかは理解してもらえたと思う。人として、こんな器の大きい存在になりたいものである。僕が、歌の中でヘーイ、とかベイビーというのを多用してしまうのも、少しでも花輪くんに近づきたいという憧れがそうさせているのかもしれない。花輪和彦、本当に格好良い男である。

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