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オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第28回】

2016年01月号掲載

オワリカラ : タカハシヒョウリの「火星から来た漫読家」【第28回】

たとえば「この世に同じ人間は2人といないんだよ」とか「人間はそれぞれ世界に1つだけの花なんだ」とか「人を一緒くたにしちゃいけないよ」とか言われたら君はどう思うだろうか。「まあ、そりゃそうだけ......」という、えも言われぬ気持ちにならないだろうか。わかるけど、そんな正論を普通に言われてもー......みたいな腑に落ちなさが湧いてこないだろうか。
しかしこれが強烈な眼力で「"雑草"などという草は無い!!」と怒鳴られたら、「うわわ、その通りです!」とならないだろうか。うん。なるよね。そうなのだ、何を言っているかではなく、誰がどれだけの気合いで、どれだけ自分の言葉で語っているかの方が大事なことっていうのは確かにある。
 
「雑草ひとつひとつにも名前があり、必死で生きていこうとする生命がある」という意味を見事に込めた「雑草などという草はない」というセリフは、山口貴由が1994年から2年間連載した少年マンガ『覚悟のススメ』に出てくる名台詞中の名台詞だ。とにかく山口マンガはどこから見ても独特なんだけど、その魅力の一端は、なんといっても「覚悟完了!」「当方に迎撃の準備あり!」などの独特すぎるセリフ、「葉隠覚悟」「強化外骨格・零」、そして「大義」「因果」(これ必殺技の名前)などの無骨なネーミングなど、他には見れない異端な言葉のチョイスにある。そこに、武士道精神に貫かれたストイックすぎる作風、極端に残酷な描写、そして謎のタイミングで発揮されるギャグセンス(これが最高)が融合し、おぉ、なんだこれは。こんなマンガ読んだ事ない......となる。山口貴由、異形のマンガ家だ。しかし、なぜだろう。どこか王道を匂わせてやまない。「自ら進む異端の道を、"王道"に変えるマンガ家」と呼びたい。
 
そんな山口の最新作は『衛府の七忍』という変身忍者マンガ。名台詞&残酷描写&謎ギャグたっぷりのこの最新活劇は、代表作の1つである『覚悟のススメ』のスピンオフであった前作『エクゾスカル零』に続いて連載開始された、「待望の時代劇」マンガとなった。なぜ「待望」かといえば、山口マンガのもう1つの代表作『シグルイ』が時代劇マンガの金字塔だからだ。とにかく『シグルイ』の時の山口先生は、何かに操られていたのではないかと思うほどキレッキレだ。隻腕の剣士・藤木源之助と盲目の美剣士・伊良子清玄を筆頭に、魔神・岩本虎眼、牛鬼・牛股権左衛門、それを取り巻く女たち、あらゆるキャラクターが鬼気迫るオーラをビンビンに放ちまくり、いろいろ飛んだりブチまけたりする恐るべき破壊描写で様々なパーツが乱舞し、狂気的としか言えない残酷絵巻を作り出した。つまり「なぜそんなことが思いつくの!?」ということのオンパレード。「これほどの(イカれた)時代劇マンガはもうでてこないんじゃないか」という気持ちになってしまうほどの、唯一無二そのものの時代劇マンガだ。絶対オススメの不朽の名作です。
 
そして新作『衛府の七忍』は『覚悟のススメ』の王道感やギャグに、『シグルイ』の残酷描写や狂気が融合されていて、すでにめっちゃ面白く、今後どうなっていくのか今一番楽しみなマンガだ。侍が「テヘペロでやんす」とか言って、徳川家康が10メートルあるロボットみたいな鎧を着てる時点でヤバい。
 
人は他人にはなれない。お固い言い方だけど、誰だって多かれ少なかれ「我が道」を歩んでいかないといけないんだろう。でもブレる。もちろんそうだ、どんどんブレる。どんどんブレブレ。今歩いてる道が自分の道かどうかなんて、わからなくなる。そんな時は、山口マンガを読む。「この道をただ行くのだ。淡々と踏み固めて。そうして、自分の道にしていけば良い。」、そんな気持ちになれる数少ない極北のマンガ、それが山口貴由マンガです。
 
「山がなぜ美しいかわかるか? 高いから!おおきいから!動かぬからだ。流れる雲に惑わされることなく山は頑として不動の姿勢! そこに山の美しさがあるのだ! お前たちも遥かな山のように、世の中がどのように移り変わろうと流されることなく、侍の意気地を貫く人になれ!」(覚悟のススメより)
はい!山口先生!

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