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Japanese

"RUSH BALL 2025" -DAY1-

Skream! マガジン 2025年10月号掲載

2025.08.30 @泉大津フェニックス

Writer : マーガレット安井 Photographer:RUSH BALL OFFICIAL、瀧本JON...行秀、河上良、田浦ボン

"よほど悔しかったのだろう"

それが"RUSH BALL 2025"のタイムテーブルを初めて見たときの感想だった。WEBサイトにもあるように、今年のテーマは"2年越しのリベンジとチャレンジ"。2023年は雷雨で1日目が途中中止、2024年は台風接近で開催自体が中止となった。台風やコロナで中止の危機はあったものの、対策を講じて開催にこぎつけてきた"RUSH BALL"にとって、2年連続の中止は苦渋の決断だったに違いない。

そうした経緯もあり、今回の出演者は昨年をそのまま引き継いだかのような顔ぶれが並んだ。とりわけ1日目は、2023年に豪雨で演奏できなかったKANA-BOON、クリープハイプ、[Alexandros]が同じ順で登場。サブステージである"ATMC"も、ほぼ全メンバーが昨年と同じ時間帯に配置された。さらに雨で出演機会を失ったシンガーズハイは、初日のトップバッター(O.A.を除く)に抜擢。ここまで揃うと、昨年の中止直後からブッキングが始まっていたのでは、と想像してしまう程だ。

迎えた8月30日、会場の泉大津フェニックスには雲一つない青空が広がっていた。その空の下、主催者の思いに呼応するかのように、各アーティストが渾身の演奏を披露する。圧巻のマイクパフォーマンスで観客を虜にした梅田サイファー。4人体制での関西での演奏が最後となるなか、悔いを残さず全力で観客と対峙したシンガーズハイ。「マジック」や「アメイジングレース」等をメドレーでやるという力技を見せて、観客を熱狂させたgo!go!vanillas。そして「HE IS MINE」で3年分の思いをぶちまけたクリープハイプ。

一方、"ATMC"も負けてはいない。トップバッターとして力強い歌声と確かなサウンドで会場を掌握した(夜と)SAMPO。あけすけなサウンドとオニザワマシロの捨て身のパフォーマンスで観客を沸かせた、超☆社会的サンダル。力強くも愛らしい歌声と、トリッキーさとポップネスを併せ持つサウンドで魅了したチョーキューメイ。清々しいインディー・ポップを夜の"RUSH BALL"に届けたLaura day romance等、数々のアーティストが1日目を彩った。

そんなアクトの中でも、特に印象に残ったのがSaucy Dogだ。「シンデレラボーイ」ではゆったりとしながらも力強いサウンドが会場を包み、「真昼の月」ではリズミカルなビートと爽やかなハーモニーが澄んだ空に響き渡る。さらに、せとゆいか(Dr/Cho)のビートに乗せて、石原慎也(Vo/Gt)が"お手を拝借"と告げて始まった「優しさに溢れた世界で」では、"一緒に歌おう!"の声に会場全体から大合唱が起こる。その光景は、このイベント2日間の中でも特に美しい瞬間の1つだった。

まるでワンマン・ライヴのように観客との関係を築き上げていくSaucy Dog。そのスタイルは、心の奥に潜む共感や風景を掬い取り、音楽に変えて届けるこのバンドだからこそ成し得るものだ。終盤では日常の小さな幸せを歌った新曲「スパイス」を披露し、ラストは「いつか」。めいっぱいの思いを込めたサウンドが、泉大津フェニックスを多幸感で満たしていった。

Saucy Dogは2017年の初出演以来、7回"RUSH BALL"の舞台に立ち続けている。彼等だけでなく、若手時代からこのイベントに出演し、その後大きく羽ばたいたバンドも少なくない。そう考えると、"RUSH BALL"はまさに"成長の場"と呼ぶに相応しい。そんなイベントの申し子的な存在が2組いる。KANA-BOONと[Alexandros]だ。

夕暮れの空の下、ステージに姿を現したKANA-BOON。2013年に"ATMC"のクロージング・アクトを務め、翌2014年には"RUSH BALL"前夜に泉大津フェニックスでワンマン・ライヴを開催。以降も出演を重ね、このイベントに欠かせない存在となっている。開幕早々「シルエット」で会場のボルテージを一気に上げると、続けて「ないものねだり」を披露。"そんなもんかよ「RUSH BALL」"と谷口 鮪(Vo/Gt)が煽り、さらに会場の熱を高めていく。

会場の光景を見れば、観客がどれ程彼等を待ち望んでいたかは明らかだ。だが、この日を待ちわびていたのは観客だけではない。谷口はMCで"仕方ないこと、くだらないこと、いろいろ経験したけど、またバンドをイチからスタートしました。新生KANA-BOONを舐めないでください"と宣言。その言葉には、苦難を受け入れ、再びバンドとして力を示そうとする強い意志が込められていた。思えば彼等は2022年の出演時にも、若手バンドが次々と台頭するシーンに向けて"ここを譲る気は一つもない。俺たちの世代、舐めるなよ!"と語っていた。誰にも負けない自信、それは体制が変わろうとも揺るぎはしない。

様々な変化に左右されず、自分たちの"かっこいい"を貫き続けるKANA-BOON。"またここでワンマンできるように頑張ります"と語り、最後に披露したのは「生きてゆく」。2014年の野外ワンマン直前にリリースされたこの曲は憧れや後悔を抱えながらも、それを糧にして生きてゆく歌だ。あの日から11年、この地で再び響いた「生きてゆく」は、観客のためでなく、今の自分たちへも向けられているように聞こえた。

そして"RUSH BALL 2025"の、いや3年分のトリを務めたのは[Alexandros]だった。彼等もまた、KANA-BOONと同様に"RUSH BALL"と共に成長してきたバンドだ。川上洋平(Vo/Gt)が"大阪!"と叫び始まった「Adventure」では会場から大きなシンガロングが湧き起こり、無数の拳が突き上がる。スケールの大きなロック・サウンドが会場を飲み込むと、続く「Starrrrrrr」では火花が舞い上がるなかで圧巻のパフォーマンスを披露。彼等の一挙手一投足に観客も目が釘付けの状態だ。

"RUSH BALL"に対して"腐れ縁だと思います。出なかったときは次の年必ず出ます"と語った川上。思い返せば、[Champagne]から改名した2014年、彼等は初めてこのイベントのメイン・ステージでトリを務めた。この当時、私も彼等のステージを会場で目の当たりにしたが、臆することなく堂々と演奏した姿は今も鮮烈に頭の中に残っている。以降、主催であるGREENSの創立25年目にあたる2015年やコロナ禍での開催となった2020年等、ここぞというときにはトリとして出演。もはや"RUSH BALL"と[Alexandros]は切っても切れない関係だと言っても過言ではない。

ライヴも終盤では「閃光」を披露。力強いビートとアグレッシヴなギター・リフ、そして川上の伸びやかな歌声が会場全体をシンガロングへと導く。"めちゃくちゃデカイ声を届けてくれてありがとう"、"いつまでも一緒に遊ぼうぜ!"と川上が叫び、ラストを飾ったのは「ワタリドリ」。会場中に無数の拳が上がり、この日何度目かのハイライトを迎えた。

ライヴ終了後、余韻冷めやらぬなかで、夜空には1日目の成功を祝うように花火がいくつも打ち上がる。それと共に、"ATMC"ではにしなが「若者のすべて」(フジファブリック)を演奏。"最後の花火に今年もなったな"というフレーズは、会場を後にする観客の心にいつまでも響いていたに違いない。"RUSH BALL"と共に成長した者たちが彩ったこの日は、見事に2年分のリベンジを果たした一日であった。

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