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LIVE REPORT

Japanese

KANA-BOON

2015.03.31 @日本武道館

Writer 石角 友香

今、この状況が気に入らないんだったら自分の手で変えてやる。親しみやすいキャラクターとキャッチーな楽曲を持つ(それもその強かな意思に内蔵されているのだが)KANA-BOONが、結成当初の高校時代からずっと感じていたであろう、現状突破のエネルギーを遂に日本武道館という場所で炸裂させた、そんな熱く清々しいライヴだった。

今年1月にリリースしたニュー・アルバム『TIME』を携えた全国ツアー"KANA-BOONのとぅるとぅるかむとぅるーTOUR 2015"の前哨戦となるアリーナ公演が去る3月23日の大阪城ホールと、この日の武道館で開催された"~夢のアリーナ編~"。会場に足を踏み入れると天井に近いスタンド席上方まで満員のファンのざわめきがすごい。そして会場SEはDREAMS COME TRUEの名曲が延々流されている。そんな20代バンド、いやどんな世代でもそんなバンドいるか?と心のなかでツッコミを入れていると、暗転と同時に凄まじい歓声が上がり、ステージを囲む紗幕に時計の映像が映され、これから始まるライヴに向けて全員がカウントダウン。と、同時にアルバム同様、「タイムアウト」で勢いよくスタート。いや、もうなんか音の分離はいいわ、こんなに力強かったっけ?と思うほど飯田のベースのフレーズは太いわ、古賀のフレージングやリフの切れ味は鋭いわ、小泉のドラミングの正確さとタイミングの良さに唸るわ、谷口の歌の明瞭さに改めて驚くわ......この規模感になんら遜色のない演奏と、それを支えるチームKANA-BOONの意思共有に唸ってしまった。

そのままアルバムの曲順通りに「LOL」になだれ込む。後ろにいるファンの"ヤバイ!気持ちよすぎる!"という素直な叫びに、こちらも巻き込まれる。彼らの言葉通り、熱量と確実さのバランスが絶妙な演奏そのものであの広いスペースにグルーヴがすでに生まれているのだ。疾走感のあるナンバーを立て続けに4曲披露した4人。MCになるといきなり"緊張しすぎて寝られへんかった"という飯田、"普段の倍寝て、今、腰が痛い"という古賀など、いつも通りのユルさで笑わせる。続くブロックは一瞬それがインディーズ時代からなじみの「ワールド」や「MUSiC」なのに、今のバンドの力量でアレンジされて、新曲に聴こえるほどタフさを増していたし、リリースこそ最近になってからだが、やはりインディーズ時代からのレパートリーである「結晶星」では、"未来をどうにか変えていこう 僕らの何かの結晶で"という一節に、変わらないこのバンドの根幹を聴きとって、印象深い流れとして心に刻まれた。ニュー・アルバムを軸にしたセットリストだが、それ以外の楽曲の置きどころもツボを得ている。

念願の武道館のステージに立った4人、しかし4人それぞれが叶えたい夢があるという谷口のMCに"何が始まるんだ?"と思っていたら、まずは谷口"鮪"にちなんだ"鮪の解体ショー"がステージ上で景気よく開始。その行程をヴィジョンに映し出して、会場みんなで驚いたり拍手が起こったり......最終的には谷口が中落ちを食べて、そのコーナーは終了したのだが、先ほどから飯田の姿がステージにない(古賀なんて正座して解体ショーを凝視してたというのに)、と思ったら、アリーナにセグウェイで登場して、ぎこちないコール&レスポンスを展開し、通路が狭いのか操作が下手なのか"どうしたらいいのー?"(飯田)という訴えに"一生乗っとけボケ!"と一喝する谷口に場内、爆笑。自身のライヴを実現するまで他のアーティストの武道館公演をまったく観なかったという彼ららしい(いや、そのせいか?)サプライズに結果的になったんじゃないかと思う。

"ライヴとの切り替えが難しいですよね"と本音を漏らすのもまた彼ららしいところだが、強烈なクラクションのSEで再びストイックかつ豊かにビートを叩き出し、「ロックンロールスター」と続けて大きなアリーナをダンス・フロアに変貌させていく。そしてコードをひとつ鳴らしただけで"おっ?"とリアクションが起こる「ないものねだり」のイントロでの"ワン・ツー!"の爆発力。"ゆらゆらゆらゆら~"のコール&レスポンスを上気した笑顔で楽しむファンを見つめる谷口の眼差しは、どこか喜びとともに、さらにその先を見据えるような鋭さがあった(気がするのだが)。

各々の夢を叶えるコーナー、3番手は小泉の鎖に縛られた状態での"箱詰めイリュージョン"。"だんだんやることがエスカレートしてないか?"と思いながらも、真剣に見せてしまうのはKANA-BOONの人たらしなキャラクターゆえか。またそこから落差のある選曲で「生きてゆく」のプリズムのような古賀のギターとリンクするような輝度の高いライティングが美しい。このブロックがまた秀逸で、アルバムの中でもリスナーひとりひとりの心象風景に沿うような聴かせる「スコールスコール」「愛にまみれて」という、バンドの進化を感じさせる2曲への流れがいい。聴かせる楽曲だけではないのだが、谷口の突破力と伸びやかさが同居する声質そのものが、何か全然タイプは違うのだが、例えば小田和正に替わりがいないのと同様に、恐ろしくシンプルなことを歌っても残る種類のものなんだと、この日確信してしまった。褒めすぎとかそういうことではなく、その人だけが持つ"声"の力。恐らくフェスに足を運んだことがない、彼らのファンも多いだろう。"谷口鮪という人の声で今度はどんな歌が歌われるんだろう?"、そうしたベクトルでKANA-BOONを聴いている人も相当数いることをアリーナ・ライヴは教えてくれる。

さて、袖に下がった古賀がなんと白シャツで再登場。谷口以外は(!)身体を張ってきた夢への挑戦の究極(?)形として、なんとワイヤーに吊られて空中へ! しかもギターを提げたまま。もうその状況自体がシュールなのだが、そのまま「盛者必衰の理、お断り」のリフで曲がスタート。地に足の着かない状態でソロを決める古賀。そしてエフェクターを踏むタイミングでちゃんと降下する演出はすごすぎて個人的に1番やられてしまった。しかも白シャツから元の黒シャツに素早く戻っての「フルドライブ」に沸きに沸く会場。笑いと興奮がごちゃ混ぜになってスタンドも揺れている。そして同じ温度感を保ちつつ、切なくも清冽な「スノーグローブ」へ。人工の綿雪はどこか桜の花びらのようにも見えて、丁寧な演奏を途切れさせることなく貫いたバンドに温かな拍手が送られた。"次の曲で最後です"と切り出した谷口はこう続けた。"この曲で、大事にしたいものを持って大人になる、って歌ってるんですけど。僕らの恩師や、ライヴハウスのころから見てくれてる人たち、ここにいる人たちや、今日、学校やバイトで来られなかった人たちも含めてずっと見てくれていた人といたいな、そんな気持ちで一生懸命、歌います"と、再度、気持ちを引き締めるようにソリッドなイントロから、柔らかな地メロへ連なる「シルエット」へ。いいことも、嫌なことも、もう忘れてしまったことも、今とこれからの自分を歩ませてくれる――スモークでまさしくメンバーがシルエット状態になる演出も相まって、物理的な迫力よりも、ファンひとりひとりの心にある"シルエット"がリンクするようなエンディングだった。

さらに本編が終了するやいなや、ヴィジョンにこの日のリハーサル前後と思しきメンバーが客席に登場した映像が流れ、会場の椅子にプレゼントを貼り付けたことを発表。各所で悲鳴と歓声が上がり、なんとも言えないハッピー(この言葉しか出てこない)な気持ちになってしまった。会場が盛り上がる中、再登場した4人。飯田デザインのTシャツをけなす谷口などなどMCは相変わらずのテンションだ。だが、アンコール1発目に"アネッサ"CMソングのために書き下ろした新曲「なんでもねだり」の新しい曲調で軽く驚かせ、そのままの勢いで「1.2. step to you」で再び武道館を揺らす。

息を整えた谷口は会場全体を見渡し"改めて見てみると武道館のステージに立ってるんですね。夢もたくさん叶ったけど、嫌なこともたくさんあったけど、ただここまで来れたのは、夢があったから......夢がどうたらこうたらうるさいバンドですけど、なんで夢が夢がってうるさいのかと言うと(笑)、夢や信念があるとこんな楽しい思いができるんですね。バンドでも、スポーツ選手でも、あの人の奥さんになりたいでも何でもいいと思うんです。心の中にひとつあると頑張れるというか。こんな浪人生崩れみたいなバンドでもここまでこれたから『俺もやってやろう』でもいいし。ほんとに僕らをここに連れてきてくれてありがとうございます。これからもずっとそばにいてください。最後はこの日のために作った歌"と言い終えて、まさにリアル・ストーリーであり、今日ここからまたスタートすることを予見して書いたとしか言いようのない「パレード」が、すべての人を照らすように堂々と鳴らされた。まったく、何が浪人生崩れだと? こんな立派な態度で武道館のステージに立ってるヤツはあまり見たことがない。

夢という言葉に集約されているけれど、それはやはり目の前の現実を変えていく、変えていきたいという思いの強さなのだと心底、実感した。正直、悔しいぐらい4人は今を生きている。

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