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LIVE REPORT

Japanese

KANA-BOON

Skream! マガジン 2017年11月号掲載

2017.10.20 @Zepp Tokyo

Writer 石角 友香

ニュー・アルバム『NAMiDA』のレコーディングの集中力、音の奥行きの突き詰め方はこれまでの比じゃなかったと、インタビューでメンバーは話してくれたが、そのモードとテンションを一回性で替えの利かないライヴの現場でも実証してくれた。というのも、10月14日、15日の大阪2デイズを皮切りにした、まだツアー4本目とは思えない密度だったのだから。例えば初の武道館公演の、初見のファンを多く含む、期待値が膨張しきった時点での盛り上がりとはまた別種の、KANA-BOONを愛してやまないファンにとっての、彼らが代替不可能な存在であることの意志表示と、バンドにとっての、まず自分たちが驚き、楽しみ、そのうえでファンと共有できるアルバムを作るという目標が、こんなに響き合う場面はなかなか遭遇できるものじゃないと思えたのだ。

ツアー序盤につき詳述は避けるが、まずロック・バンドの迫力ある音像、そしてどんなに厚い音像でもそれを突き抜けて聴こえてくる谷口 鮪(Vo/Gt)の歌の強さを再認識させたのが冒頭のブロックだ。アルバム同様、「ディストラクションビートミュージック」で幕を開けたが、小泉貴裕(Dr)のタイトさと重量感を兼ね備えたリズムを筆頭に、何か大きな波に飲み込まれるような凄まじい体感を得た。それはもしかしたらバンドの演奏だけでなく、出音一発、メンバーの意志に歓喜したファンのエモーションも含まれていたかもしれない。そのまま緊張感を保ち、『NAMiDA』の曲順どおりに「人間砂漠」、「Fighter」と、ハードで戦う気持ちを鼓舞する演奏が続いたことで一気に現在のバンドのモードに没入させてくれた。息もできないような、同時に痛快すぎて笑ってしまうような幕開けだったのだ。これがまだ突き詰められていくと思うといい意味で恐ろしい。ひとつ、前回のツアーでも使用していた鮪のセミアコのギターがハードで分厚い演奏に貢献しているのも聴きどころだ。

すべての曲がアルバムを象徴するほどの強度を持つ新作の中でも、特に印象的だったのが「涙」だ。成長に伴う痛みを表現して、リアルな感情を湧き起こさせるような歌詞を鮮烈に響かせ、ファンの耳も気持ちも捉えていた。簡単に白黒つかない日々のなか、それでも何かを選んで別の道を歩んでいく、その想い――それはまさにファンである若いリスナーの現実を音楽で支えていることを目の当たりにさせてくれたし、同じく新曲である「一番星」もそうだった。そこに必然的に紐づいてくるこれまでの楽曲がなんなのかは、今後のライヴで確認してほしいのだが、各ブロックごとの選曲はひとつの感情に基づくテーマを持っていて、そこにこれまで積み重ねてきたKANA-BOONの一貫したバンド像を見ることができるはずだ。

また、彼らなりにファンク・テイストを消化した「Ride on Natsu」は、まだはっちゃける域には少々時間はかかりそうだが、古賀隼斗(Gt/Cho)のシャープなコード・カッティングや、ギターで作り上げるオーケストレーション的なエフェクトなど、見どころ聴きどころの多い演奏になっているし、テクニカルじゃないけれど、曲の印象とグルーヴを明確にする飯田祐馬(Ba/Cho)のフレージングもビビッドに聴き取れる。要はどのタイプの楽曲も、音選びとアンサンブルを徹底して追求しているということで、それ以外のことに甘えないスタンスはストイックにすら映った。でも、そもそもKANA-BOONはそういうバンドだし、その具体的な手法を手探りで掴みながら、血肉にしてきたのだ。そのことに終始揺り動かされるライヴだった。

どの曲もエンディングの1音まで集中し、潔いアレンジで次々に曲を繰り出していく小気味良さも相まって、とにかく時間が進む体感が早い。鮪は"ほんとは40曲、50曲、60曲やりたいけど、みんなのタクシー代を払えないので"と、充実感を笑いに転化して、"これまで「シルエット」が持ってた役割をこの曲に託せると思う"と、「バトンロード」のタイトルコール。それに応えるフロアの納得を含む歓声。ラストのサビに向かうバースの上昇感と、さらに気持ちを飛翔させる古賀のギター・ソロも曲を大きく立体的なものとして丸ごと体感させてくれた。今、全力で生きることでしか繋がってはいかない未来。それをむしろ楽しいこととして伝えることができるようになったのが現在のKANA-BOONだ。1本1本のライヴに集中している今の4人がファイナルで見せる景色はいったいどこまで磨かれるのか。そして年末に地元堺で開催するライヴではまた違う表情が見られるのか、いずれにしても2017年のKANA-BOONは大きな転換点にいる。

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