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INTERVIEW

Japanese

ヒトリエ

2021年06月号掲載

ヒトリエ

Member:シノダ(Vo/Gt) イガラシ(Ba) ゆーまお(Dr)

Interviewer:秦 理絵

今回のレコーディングはメンバーが手応えを感じて、喜んでる様子を見られて、僕は嬉しかったです


-シノダさん主導で進めていく初めての曲作りのほうはどうでしたか? 最初に気ままに弾いていたときとは変わっていったんですか?

イガラシ:自分の中でこの曲は、進むにつれて派手になるように弾いてたんですよ。でも、(シノダに)ワンコーラス目が地味だから、そこにも派手なのを入れてほしい、みたいに言われて。全部派手になりました。

シノダ:イガラシがすごいのは、"派手なベースを弾いてくれ"って言ったら、サクッと派手なベースを弾いてくれる。その瞬発力ですね。あ、言ったら、やってくれるんだなって。それが早い段階でわかったのはデカかったです。

イガラシ:あと、これは『REAMP』も終わった今だから思ってることですけど、リズムに対する細かいニュアンスって、シノダは主にドラムに求めてるんだなって。だから、ドラムに対するオーダーのほうが細かい。決め打ちというか、正解がある感じがしてて。俺とゆーまおが受けてるディレクションの方向が違うなっていうのは感じますね。

-そのあたりは作り手によって分かれますよね。逆にベースにこだわるタイプもいますし。

イガラシ:どっちかって言うと、wowaka(Vo/Gt)はニュアンスの面はベースに求めてたような気がしてるんですけどね。

-3人になったことで、ギターの置きどころはどう考えていますか? 「3分29秒」でも何本か重ねてますけど、そうなると、ライヴでの再現は難しいですよね?

シノダ:ある程度、作曲の段階で、3人で演奏することを想定してますね。まず、3ピース・フォーマットでやってもかっこいい状態を形成して、そこに足りない要素はギター以外の音で埋める、みたいなことを考えるようにしてます。だから「3分29秒」もギターはダビングされてるんですけど。実際にライヴだったらなくてもいいかなっていうもの。音源用の味つけですね。僕の好きな3ピース・バンドって、わりとそういうことをやってるから。そのへんを基準にアレンジを考えてるところはありますね。

-なるほど。歌詞に関して、アニメからインスパイアを受けた部分はありますか?

シノダ:めちゃくちゃあります。この"86―エイティシックス―"っていう作品の主人公たちが置かれてる状況がマジで絶望的なので。"どうやったら覆るんだ? こんな状況"っていうものなんです。"どうやったら覆るんだ? この状況"っていうのは、わりと身に覚えがあると言いますか。俺らも覆らない状況になってしまったけど、やっていくしかないよな。そういうニュアンスをシンクロしながら書いたので。筆の進みは早かったですね。

-その"やっていくしかないよな"の部分が、"安心しなよ、/僕達みんな終わるまで/やることは同じさ"というフレーズに出てますよね。

シノダ:これもアニメからですね。戦場を舞台にした話なんですけど。差別されている人種と、指揮官として差別している人種がいるんですよ。で、被差別側の人種っていうのは、結局ずっと戦うことしかできない。変えられないんですよね。っていうところは俺らも一緒かなって。これからも曲を書いて、レコーディングをして、ライヴをやっていく。ずっと同じことをやっていくしかないっていうことですね。

-では、カップリングの「Milk Tablet」についても聞かせてください。

ゆーまお:これは一番最近の曲なんですよ。そこがめっちゃ面白くて。

シノダ:そうだね。「3分29秒」と「Milk Tablet」の2曲のあいだに1枚アルバムを挟んでる。新体制の始まりと最新系が入ってるんです。

-「Milk Tablet」はヴェイパーウェイヴっぽいですよね。

シノダ:あぁ、うんうん。

-ザクザクと切り込んだ音がコラージュされてて、ダンス・ミュージックっぽくもあり、ロック・バンドっぽくもあって。

シノダ:ごった煮ですよね。『REAMP』を作るまでに聴いてきた音楽、ネットで流行してる音楽だとか、チルビート、ヴェイパーウェイヴもそうだし、フューチャー・ファンク、そういうのを経たうえで、それをバンド・フォーマットに落とし込んだらどうなるんだろうっていうことですね。その実験の第1弾が『REAMP』の「bouquet」だったんですけど。第2弾っていう感じです。「bouquet」を踏まえたうえでの作り方だったので。

-最初のデモの段階から、完成形に近いものだったんですか?

イガラシ:全然違いましたね。もっとすっきりしたポップな曲というか。シンプルにキックとコードが鳴って、メロディがあって。すごくメロがいい曲だったから、シノダがギター1本の弾き語りでやっても良かったと思うんですけど。レコーディングするにあたっては、逆にシノダがそれをリミックスしたみたいな印象になってもいいから、好きなふうに切り刻んでやってみたら? っていうことで作っていったんです。

シノダ:最初に作ったデモだと、純粋なクラブ・ミュージックみたいな感じで、ゴリゴリに仕上げていくことも可能だったんですよ。でも、それをどうバンド・フォーマットたらしめてるかって言ったら、やっぱりふたりの演奏なんですよね。ヒトリエのアイデンティティはそういうところに出てる。だから、ふたりの演奏に関しては、全然エディットしてないんですよ。自分の声とかギターをエディットしてるだけで。

-この曲こそ、イガラシさんのベースが終盤にかけて派手になっていきますね。「3分29秒」でやろうとしたことがこっちで実現してる。

イガラシ:たしかに。これは最後のほうでどんどん足してくれって言われてましたね。あとは『REAMP』でもやってなかったような新しい奏法を勝手に試したりして。ピックを持ったままスラップするっていうことを編み出してるんです。

-そうすると、聴こえ方はどう変わるんですか?

イガラシ:あんまりやってる人がいないから、フレーズの組み合わせがあんまり聴いたことない感じになるんですよ。それができて嬉しいっていう。

シノダ:この曲は特別イガラシのベースがデカい気がする。相対的にデカくない?

イガラシ:あ、でもそうかも。聴きやすくて助かる。

-ゆーまおさんのドラムは、生だけど、打ち込みっぽく聴こえました。

イガラシ:これは皮が良かったよね。

ゆーまお:カンガルーの皮を張ってるんですよ。オーストラリアのメーカーのものがあって。それを使ったら、今までとは違う音が出るんです。普通バストラって、ドンッとかドカンッていう音じゃないですか。これはブゥ~ンって感じなんですよね。

-深い響きになる?

ゆーまお:深いっていうか......。

シノダ:やわらかい感じじゃない?

ゆーまお:うん、やわらかいし、長い。あと、バスドラより音像が高いんです。それをバスドラとして、ちゃんとハメこめてるので本当に満足してます。

シノダ:不思議な四つ打ち感があるよね。

イガラシ:うん。今回のレコーディングは、メンバーがそうやって手応えを感じて、喜んでる様子を見られて、僕は嬉しかったです。

シノダ:どういうこと(笑)!?

イガラシ:いや、いいレコーディングだったなと思って。

-あぁ、今日はその言葉を聞けて良かったです。『REAMP』で探り探りだったことに確信を持てたからこそ、さらにバンドが進化していく可能性が広がった感じがするし。

シノダ:うん。だから『REAMP』の向こう側ですよね。「Milk Tablet」ができたことで、これだけのことを俺らはできるんだなっていうのがまた1個わかった気がします。

-それにしても、「Milk Tablet」の歌詞は救いがないですよね。

イガラシ:これはシノダさんの日常って感じですよ。

シノダ:ふっ......(笑)。

-言わなきゃいけないことがあるけど、いやだなぁって言ってるだけっていう。

シノダ:基本的に俺はこういうマインドなんですよ。

ゆーまお:そうなんだ(笑)。

シノダ:どうせ俺なんか理解してくれないだろうなって。理解してもらおうとして、理解してもらえなかったときのショックたるや半端じゃない。日記みたいな曲ですよね。

-どうしてこういうことを書こうと思ったんですか?

シノダ:ずっとこういうことを考えてるからですよ(笑)。たぶんみんなキツいですからね。こういうことを考えてる人って、きっと俺以外にもいっぱいいるんじゃないかなと思ってて。そういう人たちが"しんどいな"っていうときに、"俺もこういうことを考えてるよ"って思い出してくれたらいいなって思うんです。