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LIVE REPORT

Japanese

ヒトリエ

2026.02.23 @LINE CUBE SHIBUYA

Writer : 石角 友香 Photographer:西槇太一

何かすごく圧縮された空気の中、去年6月の"ヒトリエ Freaky Friendship Tour 2025"ファイナル東京公演のアンコールで初ホール・ワンマンの告知を見た記憶がある。曲中にレーザーで記され、一言も発さずに開催を告げられたあの日から約8ヶ月。LINE CUBE SHIBUYAは見事ソールド・アウトし、3階の客席まで満員だ。昨年のライヴハウス・ツアーではバンド史を一望するようなセットリストが組まれ、今回もある程度その予感のもとにファンは足を運んだと思うが、相当なコアファンですらその予想を覆されたんじゃないだろうか。もともと、wowaka(Vo/Gt)の作った楽曲を他の誰にもできない強度と解像度で表現してきた3人。3人になって以降も様々な試行を展開し、昨年はオルタナティヴ色の濃いアルバム『Friend Chord』をリリース。今のヒトリエが、wowakaを"ここに連れてきてあげたよ"的なマインドでバンドをやっているとは思わない。じゃあ何をやるのか。広いステージのセンターにギュッとセットされた機材を見つめながら、開演を待つ。

暗転と同時に起きた悲鳴にも似た歓声の大きさにファンの期待度の高さを実感しつつ、新しいSEと共に登場したゆーまお(Dr)、イガラシ(Ba)、少し遅れて現れたシノダ(Vo/Gt)。全員がステージ前方に出てファイティングポーズを取る。シノダの歌い出しにどよめきが起きた1曲目は、3人体制での披露は初めてとなる「GO BACK TO VENUSFORT」。ひたすらタイトに連打するゆーまおの精緻すぎるドラムも相まって、重いマシンガンのような体感だ。エンディングと共に聞こえた歓声のデカさも巻き込んで、一気に最近のモードである「ジャガーノート」へ。シノダのヴォーカルの引き出しの多さを思い知る。速さから重さへ。イガラシのスラップは2階席にいても内臓を揺らす程だ。そのまま「オン・ザ・フロントライン」に音を繋ぎ、もはや短くないキャリアのどの時期も並置しうる消化力を見せる。それにしても、シノダのヴォーカルはどんどん進化していないか? 長い拍手がホールの空間を埋め尽くしていく。おかしいのは、シノダが掲げたピースサインで拍手が止んだこと。ちょっと味をしめた感じに見えた。

"「HITORI-ESCAPE IN THE CUBE」へようこそ。僕等がインターネットからやってきましたヒトリエと申します。初のホール・ワンマン、いい感じです"と、いつもの挨拶に平常心(?)も加えたシノダの一言。まだまだ序盤だとイガラシが弾く太いルートのフレーズが頼もしく語るような「ネバーアンダースタンド」では、3ピースの醍醐味を音の良さが増幅する。再びイントロで悲鳴を誘った「日常と地球の額縁」。ギター弦の鉄っぽい鋭角をしっかり感じるリフと言葉数の多いメロディを両立するシノダ。ギタリスト、ヴォーカリストとしてのテクニックが優れているのはもとより、ヒューマニティから遠くそれでもポップなwowakaのアレンジは発明だなと思う。その発明に連なりつつ、ダンス・ミュージックのグルーヴも持つイガラシ作曲の「Selfy charm」へと、時期を跨いで組まれたセットリストに感心する。

その後、間髪入れずに「RIVER FOG, CHOCOLATE BUTTERFLY」を披露。ハンドマイクで予想不可能な動きを見せながら歌のクオリティを決して下げないシノダ。打ち込みメインのオリジナルは隙間が多いが、ライヴでは仄暗くフェティッシュなムードをイガラシのフレーズが作っている。前半のアーバン・ファンクなニュアンスから一転、ギターを手にしたシノダが身体ごと放つノイズ、そのままふらつきステージ上に倒れ仰向けになる。歌詞の"空っぽになった身体を/また引き摺り回した"そのままだ。そこまでやった上で涙が出る程綺麗なアルペジオで閉じるこのバンドの美学よ。シノダは後でホールだとステージに寝転んでるのも見えていいでしょう? と笑わせていたが、それも含めて美学だと思う。

自分たちが最初に作った曲が大きい空間でどう響くのかやってみたかったと鳴らされたのは「カラノワレモノ」で、プリミティヴなビートが際立つライヴ・アレンジだ。大量のスモークに映るレーザーが生身の人間を映像のように見せる。さらにヒトリエのシグネイチャー的なピーキーなギター・サウンドが耳を刺す、こちらも3人体制では初披露の「なぜなぜ」、そしてピアノ・リフのSEと歌メロがユニゾンする「フユノ」と続く。速くて鋭いだけがヒトリエじゃないのは当然として、アルペジオとリフがループを作り出す世界観はボカロとロック・バンド以外に、ハウスやテクノ等ダンス・ミュージックも包摂していることを改めて証明していた。ヒトリエの多面性を凝縮したセットリストの中でも、シノダがこの会場が決まった際に絶対やろうと決めていたのが「プリズムキューブ」なのはまんまと言えばまんまである。歌詞の世界を拡張する少年っぽい素直なヴォーカルだった。

"いろんな状況でライヴをしてきました"と話すシノダの言葉の意味は、ヒトリエ独自の道のりでもあり、バンドがこれから辿る道のりも含むのだろう。その結果の一つが今日で、だがいろんな状況下でも続いていく、それがヒトリエのライヴだ。そう今と未来を見据えた言葉がこの日を象徴していた。

再びハンドマイクを持ち、今度は「SLEEPWALK」でホールをダンスフロアに変貌させる。ライヴ・アレンジのそれは身体を直撃する太いグルーヴを携えていた。ドラム台からジャンプしたあたりから増幅したシノダのエネルギーは、ギアアップしたフロアにも火をつけた感じで「ハイゲイン」のシンガロングのヴォリュームのデカさと比例する。"どんどんいきますよ~"と、完全に肩の力が抜けたハイテンションで最新ナンバー「みにくいかたち」になだれ込む。変拍子のドラム・イントロが巨大な建造物が崩壊するかのような体感を与え、珍しくポストロック的な構築感もあるこの曲がライヴで生むスリルに身を任せることになる。そして"今、たった「3分29秒」が必要なんです!"とシノダが叫ぶと、ホールが揺れるような歓声。特徴的な歌メロと鋭い切り返しのギター・リフとリズムからスパッと情景とテンポを変える構成はジェットコースター級だ。聴きたい曲や意外な曲が、想像を上回りつつもしっかり流れを保ちながら展開してきたここまでの15曲に、指定席とは思えない熱量でファンも応えていた。

"会場がデカくなる程大きく響く曲があるよな? デカい声お願いしてもいいかな?"とシノダが投げ掛けたのはもちろん「アンノウン・マザーグース」だ。全員が拳を上げているんじゃないか? と思う程の壮観さに"オーオーオオオオ"のシンガロングが響き渡る。大活躍のレーザーもこの曲では鳥籠を想起させる格子を作り出していたのも繊細な効果を上げていた。

ラストを前に"俺たちこの曲とLINE CUBE SHIBUYAに来たよ"と、まるで曲にこの景色を見せるようなシノダの口ぶりにwowakaの存在を感じずにいられないのだが、その言葉の真意は、本編最終曲がwowakaのボカロ・ナンバー「ラインアート」だったことが答えだろう。バンド・アレンジのそれは"ザ・オルタナティヴ"、ロング・トーンのメロディでシンプルに大切なことが綴られていることもあり、無意識に涙が流れていた程だ。感動というのともまた違う不思議な感覚にとらわれていると、シノダの絶叫に合わせて白いライトが高い位置で1つに交わっていた。その交点は、wowakaなんだと思う。

アンコールでは相変わらず楽屋トークっぽいムードの3人。シノダは一瞬、次回ツアーのことを思い出したように"ツアーがある!"とだけ告げた。演奏すると終わっちゃうんだよなと、本編が相当楽しかった様子だが、「ポラリス」、そして「ステレオジュブナイル」の最後にはキャノン砲からテープが放たれ、華やかに幕を閉じたのだった。フィードバック・ノイズを撒き散らしつつ自分でアンプの電源を切っていたシノダに、またしても美学を見た思いだ。

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