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LIVE REPORT

Japanese

cinema staff

Skream! マガジン 2016年01月号掲載

2015.12.02 @豊島公会堂

Writer 沖 さやこ

cinema staffのライヴを観ていると、ステージに立っている4人の姿に、過去の彼らの姿が重なって見えることが多い。それは彼らがこれまで積み上げてきた歴史や経験、その時々で感じてきた喜怒哀楽を常に背負って、それをすべてステージに出しているからだと思う。だがこの日、その"過去の姿"が見える瞬間がほとんどなかった。自分たちはこれからどうしていくべきか、初のホール・ワンマンという環境でどれだけ自分たちが楽しみ、観客を楽しませることができるか――4人の意識は確実にそこへ照準が定まっていたと思う。彼らは2014年1月のSHIBUYA-AX単独公演や、今年6月のZepp DiverCity TOKYO単独公演などの2,000人近い規模の会場でも、これまで培ってきたライヴハウスでのアプローチで勝負をし、圧勝してきた。だが今回の初のホール・ワンマンはセットリストや映像効果を含め"ホール・ライヴである意味"を追求した挑戦だった。
 
三島想平(Ba)が制作した穏やかで美しいインスト・トラックとともにオープニング映像が流れ、その終盤にメンバーが登場する。1曲目は「salvage me」。辻 友貴(Gt)もコーラスに参加し、飯田瑞規(Vo/Gt)、三島とともに三声のコーラスが映える楽曲である。飯田の歌声はいつも以上に力みが少なく伸びやか。これも江口亮のプロデュースで得た方法論の影響かもしれない。cinema staffはシャープな音像も魅力だが、美しい個性的なメロディも同様だ。あの難解で品のあるメロディを歌いこなすヴォーカリストがいるというのは、バンドの大きな強みである。その歌をよりドラマティックに響かせるのが久野洋平(Dr)のドラムス。彼は音の強弱やフレーズで、楽曲に効果的な背景をつける。ホールならではの音響で、すべてがやわらかく大きく響いていく。
 
「theme of us」で"俺たちが岐阜県から来ましたcinema staffです!"と三島が叫ぶとバックドロップが登場、客席は一気にクラップと歓声で華やいだ。普段ライヴハウスで聴きなれているアッパーな曲も、ホールでは鳥が翼を羽ばたかせて大空に飛んでいくように優雅に放たれる。辻はラストにスライディングで決め、暴れまわりながらも繊細な音を鳴らしていくのは通常営業だ。飯田が"今日は過去最多の曲数をじっくりたっぷりやりますので最後までお楽しみください"と言い「ニトロ」。その"じっくり"という言葉に象徴されるように、この日は曲前にタイトルを言ってから演奏されることが多かった。セットリストの展開も含め、1曲1曲をしっかり聴かせる手法は彼らにとって新しい。すでにライヴハウスでの演奏は最高水準に達しているcinema staffにとって、必要な進化の過程だ。
 
飯田が"ホールはステージから見える景色もライヴハウスとは違って。映画館みたいで落ち着きますね。なんだか開演前の放送もいつもと違って運動会みたいでしたよね? 赤組頑張れ、白組負けるな、みたいな......"と謎の(?)発言。その様子からも、やはり初のホール・ワンマンに高揚や緊張を感じているようだった。そして「世紀の発見」、「小さな食卓」、「実験室」と、バンドにとっては苦悩の時期に生まれていた楽曲が並ぶ。だが不思議と、その当時の感傷に浸ることはなかった。ホールで鳴らされた彼らの地に足のついた音には、明るい未来を切り拓く力と光しか存在していなかったのだ。ゆえに私も自ずと導かれるように、これからのcinema staffに必要なことはああいうことやこういうことだな、それができればもっとこうなるな、cinema staffはもっと広い場所へ行くためにまだまだやるべきことがあるし、まだまだやれるバンドだな......と、過去曲を演奏する現在の彼らを見ながら未来のことを考える。ただ「君になりたい」のときだけは、ホールで撮影された同曲のMVの映像が呼び起こり"このバンドは自分たちの力で来るべき場所に来れたのだ"と感慨に耽った。

続いてアコースティック・セットでミディアム・テンポの「unsung」、「発端」を披露する。指先まで尋常ではない集中力が通った丁寧な演奏は、自分たちの持っているものの中から新たなものを生み出しているようにも見えた。そして辻のギターの残響から「いらないもの」。彼らの音楽に対する誠実さが如実に出た音で、4人の心の奥に触れるような感覚が心地いい。そして12月16日リリースの『SOLUTION E.P.』から「切り札」を投下。ホールで聴く同曲はとても清涼感や爽快感があり、今後さらに多くの人々を巻き込むほどに育つ予感がした。「deadman」はひりついた空気と憂いがほどよく混合し、切なさがポジティヴに響く。cinema staffの醍醐味とも言うべき音像だった。
 
飯田が"踊ったりタオルを振ったりするのもいいと思うけど、僕らは(観客に)そういうのは全然望んでなくて。じっくり聴いてくれるのが嬉しい。ライヴを観ていて(自分たちと)心が混ざっていってくれれば、気持ちがステージに前に向いてくれればいい"と語ると、「シャドウ」、「great escape(alternate ver.)」、「exp」と今年のライヴの定番曲を畳みかける。cinema staffは色で例えるなら"青"で、これまでも様々な青を作り出してきたと思うのだが、これまで積み上げた演奏力の成熟と初めてのホール・ワンマンに対する初々しさが同居するステージングに、新しい"青"が見えた。それは彼らのインディーズ・デビュー時に見えた、大いなる可能性を秘めた青とよく似ているが、そのときよりもさらに力強く輝かしいものである。まだまだcinema staffは着実に進んでいく――「KARAKURI in the skywalkers」を聴きながらそんな期待に胸が震えた。本編ラストの「YOUR SONG」は江口亮がゲスト・キーボーディストとして参加。飯田は"この曲は少しずつでも進んでいこうよ、という前向きな気持ちを込めた曲"と語った。その言葉は彼らの歩んできた道程と重なる。ギターを背中に回し、スタンドに立ったマイクを両手で握りしめて歌う飯田の姿は、非常に燦たるものだった。
 
アンコールではチェリストの高橋淳子を招き「望郷」と「溶けない氷」を演奏する。特に感傷的でエモーショナルな「溶けない氷」はこの日のクライマックスだった。飯田と三島が歌う、その間で辻が感情に任せて全身でギターを弾き、久野は後ろからすべての音を飛ばす。その様子がcinema staffでしか存在し得ない画で、逆光によるシルエットも鮮烈だった。終盤、地面に倒れ込んだ辻はステージから落下。5人の音はさらに溶け合う。その光景に、音に、ただただ見入ることしかできなかった。
 
ダブル・アンコールのMCで、三島は"周りの人が助けてくれるおかげで新しいことができるし、原点に戻って考えることができたと思っている"と語った。"2016年はすべてが前向きに行くようにしたい"と続けた彼は"期待してていいんで。2016年もよろしくお願いします"と言った。これまでもがきながら前進していた彼から、すっきりとした前向きで力強い言葉を聞けたことは大きな喜びだった。"最後は4人だけで。魂が入る曲です" この日を締めくくったのは「GATE」。やはりcinema staffの演奏に激情は不可欠であり、それを体現する姿が最も魅力的だとも思った。エンディング・ムービーのラストに"Our Story Still Continues"という言葉が映し出された。私が知る限り、cinema staffの歩んできたドラマは、映画で描かれるシンデレラ・ストーリーではない。だがその一歩一歩前進していくリアルな姿は、泥くさくもとても気高く、美しい。現在のメンバーになり10周年を迎える2016年目前、2015年12月2日。cinema staffの第2章が始まった――。

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