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Japanese

cinema staff

Skream! マガジン 2016年07月号掲載

2016.06.18 @Zepp DiverCity

Writer 沖 さやこ

全国ツアーで小さめのライヴハウスを細かく回ることが多い彼らだが、『eve』のリリース・ツアーは各地、普段よりもキャパシティを大きくし、7本と数を絞って行われた。ファイナルは3年連続のZepp DiverCity TOKYO。彼らは初のホール・ライヴとなった昨年12月の豊島公会堂公演で"ホールだからできること"という新たなライヴの方法論を得る。その経験を活かしたのが豊島公会堂の追加公演として行われた2月の赤坂BLITZワンマン。曲を聴かすための手法が取られ、美しい演奏を味わうことができた。
だがこの2公演、何かが足りなかった。それはcinema staffの持ち味のひとつである、聴くものの胸を掻き毟る、喜怒哀楽の入り混じったエモーショナルな演奏。だが5thフル・アルバム『eve』を聴いたとき、間違いなくこのツアー・ファイナルで新しいcinema staffがこれまでのcinema staffを追い抜くであろうと確信した。そしてそれが的中したのだ。この日Zepp DiverCityで鳴っていたのは、焦燥感が巻き起こした感情の渦ではなく、愛から生まれる花吹雪のように華やかで熱気が迸る音だった。

1曲目は「希望の残骸」。出音からさっぱりとした瑞々しさがあった。演奏を終えるや否や、三島想平(Ba)の掛け声とともに4人で一斉に爆音を鳴らす。ここまで呼吸が揃っている4人を体感したのは初めてかもしれない。「theme of us」の開放感は格別で、爆発力は増していて演奏は美しい。三島のベースが炸裂する「切り札」は、これまでにないくらい彼が暴れまくっていて胸がすく。辻 友貴(Gt)の奏でるギターもひとつひとつの音に説得性が増していた。衝動に任せて暴れ回りながらギターを弾くのは元来彼のスタイルだが、この日彼はドラム台やアンプの上に乗るなど、広く見渡すように外へ向けてギターを弾くアプローチも多かった。
辻だけでなく、4人全員からこれまで以上に"聴き手に音を届ける"という意志が明確に伝わってきた。いつもはドラムを見つめ真剣な表情で黙々と叩く久野洋平(Dr)も前を向いて笑顔を浮かべるシーンが多く、飯田瑞規(Vo/Gt)の歌声も海の上を飛ぶカモメのように伸びやかだ。音の緩急や無音轟音のコントロールもグレード・アップ。必死すぎて切羽詰まっている様子はない。余裕や冷静さを持つがゆえに、自分たちの気持ちをこれまで以上に素直に解放できているようだ。

「lost/stand/alone」は粗さも持った双子のような飯田と辻のギターの音色と、リズム隊の音の重みで魅せる。大人の成熟と無垢な少年性という相反するものが同居していた。ルートで弾くベースの説得力も格別である。ツアー・ファイナルというよりは、4人全員が"足りない足りない!"、"もっともっと!"と叫んでいるようだ。だからこそすごくフレッシュで、「世紀の発見」、「ニトロ」といった過去曲も今まで以上に色味と熱を帯びていた。
続いては"横ノリでフェス受けする曲が欲しい"というファンの意見をもとに作ったという「person on the planet」。曲中でこれだけ肩の力が抜けてる彼らを見られるというのは非常に感慨深い。これまでやってこなかったタイプの楽曲も、自分たちが納得できる方法を見つけて、自分たちに似合う音楽でアウトプットできるようになっていた。歌詞に救急車が登場する「crysis maniac」は三島が口上で"ベースの魔力で世田谷区から救急車を呼びたいと思います"と笑わせ、辻がパトライトのついたヘルメットを被ってステージ上を縦横無尽に動き回る。サイレンのドップラー効果もギターで見事に再現した。

そこからセンチメンタルな激情を放つ初期曲「第12感」へ。そのあと彼らは「エイプリルフール」、「somehow」とソフトな楽曲を続けて届けた。この流れは"cinema staffの成長"という点でとてもシンボリックだったと思う。今年29歳になる彼らは、「エイプリルフール」や「somehow」のようなタイプの楽曲でも自分たちの意志や感情をしっかりと提示することができるようになった。それはたくさんの経験を重ねたから、様々な気持ちを抱いたから、そして大人になったからだ。少年と大人をどちらも経験した彼らは、どちらも武器として使えるようになったのだろう。
4人のスイッチがしっかり入ったのが、高校時代に作ったという「AIMAI VISION」。まさしく"曖昧だった僕のヴィジョンが鮮明に"なるというイメージ。音から閃光が発せられるようだ。そのあとは「想像力」、「deadman」、「西南西の虹」で緊張感を保ったまま身体の中身を空っぽにするほどにエネルギーを放出し、名曲「GATE」へと繋げた。愛でるように演奏された「GATE」は、飯田の歌声もとても美しく響き、cinema staffだけでなく彼らを愛するすべての人の曲になったことを実感する。

本編終盤で、三島が口を開いた。『eve』はより多くのチャレンジとこれからどういう表現をしたいか、人生を歩みたいのかまでも話し合って作った生き様の結晶だと話す。彼は"ちょっと恥ずかしいことを言いますけど"と言いながら、"我々のような衣食住ではない仕事には何が大切かと言うと、全部愛なんですよ"と言い切った。"愛を持って接してくださるみなさんに、これからも音楽を通じてフィードバックできる仕事だと思いますし、愛こそすべてなんじゃないかと思う仕事なんです"、"これからも僕たちは愛を込めて音を鳴らしていきたいと思っています"と語った彼は、強い眼差しで"愛がない奴には絶対に負けないですよ"と告げた。
この日の彼らの感情の根源が"愛"であると考えて、すべてが腑に落ちた。もちろん彼らは今までも人の誠意や気持ちを大切にする熱い若者たちである。だが今回『eve』という挑戦とも言える作品で確かな手応えを感じることができ、加えてこれまで自分たちのことを愛していた人々が、『eve』という第2章の大きなステップを受け入れてくれた。悩みは尽きないかもしれないが、そのふたつの事実が彼らの心を晴らせ、強くさせたのかもしれない。バンド・アレンジの「YOUR SONG」は格別で、cinema staffがこれまで受け取ってきた愛も、cinema staffが今持っている愛も、涙も、すべてが詰め込まれていた。"YOUR SONG"というよりは"OUR SONG"。2年前の『Drums,Bass,2(to) Guitars』でも開けたと思ったが、彼らは2年の歳月をかけてそのときに開いた扉のもっともっと奥へと進むことができたのだ。本編ラストの「overground」は笑顔で未来へと駆け出す4人の姿が眩しかった。

アンコールで「AMK HOLLIC」と「優しくしないで」を届けるも、ダブル・アンコールを求める拍手が鳴り止まない。すると三島がひとりでステージに登場。"皆様に愛を込めて"と言い、辻のギターを手に取って『eve』の1曲目に収録されている「eve」のギターを爪弾いた。"すごく久しぶりに弾いた"という言葉のとおり少々たどたどしい場面も多かった。このときふと湧き上がった気持ちでこの曲を弾こうと思ったのだろう。ぬくもりのある、彼をとても近くに感じられる音色に酔いしれた。三島が"生きて返さない気持ちでやらせていただきますがいいですか?"と言い、最後は「Poltergeist」。三島のシャウトも絶好調、飯田がハンドマイクで歌ったり、半裸になった辻は結果的にパンイチになるなど、最後の最後まで痛快だった。赤坂BLITZから4ヶ月弱、まさかここまでのものを見せてくれるとは。だがこれは彼らいわく"eve(=前夜)"。本当のお楽しみはまだまだこれからなのだ。

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