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INTERVIEW

Japanese

SHE'S

2020年06月号掲載

SHE'S

メンバー:井上 竜馬(Key/Gt/Vo) 服部 栞汰(Gt) 広瀬 臣吾(Ba) 木村 雅人(Dr)

インタビュアー:沖 さやこ

制作に期限のない環境で、バンドのソングライターでありフロントマンの井上竜馬が今、心から書きたいと思うもの、濃度の高い音楽になるテーマとは"心"だった。悲喜劇という意味を持つ言葉をタイトルに冠した4thアルバム『Tragicomedy』は、井上のパーソナルな想いや、気づきや決意のなかで生まれた人生哲学、バンドの知的好奇心に溢れたピュアな音楽欲求が凝縮された意欲作だ。喜怒哀楽をクリアに落とし込むだけでなく、ユーモアに富んだアプローチは、彼らの人間性とも密接な関係にある。より自由度を増していくSHE'Sの、さらなる快進撃を予感させる作品が完成した。

-今作『Tragicomedy』は、去年の4月に開催されたZepp Tokyoでのツアー・ファイナルの頃にはもうバンドの中で始まっていたんですよね。あのときに井上さんが"今年は心について考え直そうと思っている。そんなアルバムを作りたい"とおっしゃって、収録曲の「Be Here」を初披露なさって。

井上:うん、そうですね。もうあのときにはアルバムのテーマも決めてたし、4、5曲くらい作ってる段階ではありました。

『Now & Then』(2019年リリースの3rdアルバム)を作り終えたタイミングで、"心"というテーマが浮かんできたということですか?

井上:それくらいの頃に、身近な人が心の病にかかってしまって。自分はその人とどう直面していったらいいんやろ? "心"という漠然としたものを、どうやって自分の中で消化していったらいいんやろ? と自分なりに考え直したかったし、その結果を伝えられたら――というところから、このアルバムを書こうと思いました。

-その精神性はメジャー2ndシングル曲の「Tonight」(2016年リリース)と繋がるものがありますね。

井上:あぁ、そうかもしれないですね。「Tonight」は友達に宛てた曲やけど、作っていた時期に熊本の震災もあったので、会えなくても音楽で繋がっていると伝えたい気持ちと、イヤホン越しにでも不安を解消できたらなという気持ちも大きかったんです。でも『Tragicomedy』の曲たちはほんまにひとりの人に向かって書いている。パーソナルでしかない。そこが大きな違いかな。身近な人がそういう大きなものを抱えている状況に直面したことで、作る曲も自然とそうなっていきました。

-ちょうどディレクターさんからも"次は自由に曲作りをしてみてよ"と言ってもらっていたとのことですが。

井上:"竜馬がほんまに心から書きたい! と思う濃いものを出してくれ"とディレクターから言ってもらえて。おまけに締め切りなしで、"1年後くらいにアルバム出せたらいいよね、くらいの気分で書いていこう"と言ってもらえたのはすごく嬉しかったし、今ほんまに書きたいことはこれしかなかった。フィクションも一切ないものになりました。

-ということは、ディレクターさんは井上さんにとってそういう制作が必要だと思った、ということでしょうか?

井上:うーん、なんでそう言うてくれたんやろ? 真相はわからないですけど、『Now & Then』の「Dance With Me」とかは"行けるところまでポップに突き抜けたらどうなんねやろ"という好奇心と挑戦で書いた曲やから、そういうのをディレクターも肌で感じてたのかもしれない。僕のことをすごくわかってくれてる人なんで、そういう想いもあったんかなー......。あと、チャレンジで生まれた曲ではなく、直感で書いたものを聴きたいと思ってくれたんかな。今回は音楽を作り始めたときの気持ちにも戻れたし、ピュアな気分で作曲ができました。

-特にメジャーではなかなか珍しいですよね。期間を決めずに制作をするって。

井上:基本的に締め切りはあったほうがいいですよ。決められないとやらないから(笑)。

-去年の5月の頭の時点で4~5曲書いてる人が言っても説得力ないですよ(笑)。

井上:(笑)アルバムの曲が全部揃うまではずっと制作期間やと思って、がしがし書いてましたね。書きたい曲を書きたいタイミングで書いていく。

服部:縛られずに自由に書いているぶん、曲の幅も広くなって。"竜馬がこういう方向性の曲を書くんやな"と知ったうえでデモを待つのではなく、"竜馬が今書きたいものを書いた曲がいつ届くかわからない"という今までとは違う楽しみもありましたし、こっちも構えて待っていないぶん、一曲一曲のインパクトも強かったですね。

広瀬:メジャーは決まったリリース日を目指して制作していくことがほとんどなので、久しぶりに1年後とかそれ以上みたいに先を見た制作をして。さっき竜馬が言ったように、バンドを結成した直後に曲を作っていたときの感覚に近くて。フレッシュな活動ができましたね。"この日までに間に合わせないと"というプレッシャーがないぶん、今回の制作は楽しくできました。

木村:最初聴いたとき、歌詞がすごくリアルやなと思ったんです。竜馬のパーソナルな部分を描いたものやけど、僕らも共感するところがすごく多かったから、すぐ曲に入っていけて。

-木村さんはこういうとき、まず歌詞について話してくださいますよね。

井上:キム(木村)はいつもそうなんですよね。"歌詞染みたわー......"とかめっちゃ褒めてくれる(笑)。

木村:今回の歌詞は言葉の意味がわからない瞬間がなくて、シンプルでわかりやすくて。パーソナルな部分が出てるのにみんなが共感できるって、すごく理想的やと思うんです。......なんか審査してるみたいなこと言うてるけど(笑)。

-木村さんのおっしゃるとおり、今作の歌詞はメッセージが明確で。何よりソリッドだと思いました。特にここまで"怒り"が出た曲は、井上さんには珍しい気がして。

井上:今まではソリッドになりすぎないように意識してたところがあったので、それを意識しないように意識しました(笑)。寄り添いたい気持ちを書くとしても、回り道をしないように、言葉がまっすぐ伝わるようにもして。曲によっては攻撃的なものもあったりするんですけど、最近は怒りの感情も大事にしたいなと思うようになりました。大らかなほうがかっこいい部分もあるけど、自分の中にある牙みたいなものは絶対なくしたらあかんなと思い始めましたね。納得いかないものを許さない感覚は大事にしたい。

-それは"守りたい"という想いの強さから来るもの?

井上:そこは意識してなかったけど、自然とそういう気持ちが強くなっていったのかもしれない。心について考えていくなかで喜怒哀楽すべてを受け入れていきたいと思ったし、怒っている人に"怒るなよ"と言うだけではなく、一緒に怒れるような人間でもいたいし。怒りを書きたかったというよりは、心を描きたかったから怒りを書くことになったんやと思います。

-余裕が生まれたからできたことなのでしょうか。

井上:いや、そんなふうに思ったことは全然なくて。ずっと抗ってきたけど、受け入れな前に進まれへんなと感じるようになったから、そういうスタンスを取るようになったんやと思います。一度受け入れてみないとわからないことってあると思うんです。その段階に足を踏み入れたって気がします。そういうなかで感じたことが曲になってるというか。

-『Tragicomedy』は井上さんの芯の部分が出たというよりは、"今正しいと思うこと"なのでしょうか?

井上:そうですね。自分の芯も移り変わるものなんかなー......って思ってて。やっぱり心境は常に変化するものやと思うし。常に考え方は変わってきてる気がします。正しいか正しくないかはわからへんけど、今の自分が"正しい"と思うことは選べてると感じるので。

-なるほど。最初に「Tonight」の話をしましたが、『Tragicomedy』にはインディーズ3部作で音楽にしていたことも、これまでのフル・アルバムで表現していたことも、全部エッセンスとして詰まっている気がしたんですよね。だからSHE'Sや井上さんの根本をおさらいする作品なのかなとも思って。"変わっていく"という精神は『Wandering』(2017年リリースの2ndアルバム)に通じますし。

井上:あははは(笑)。長い間見てきてくださってるからそう感じていただけてるんかな。ありがたいです。変化するって、当たり前のことやと思うんですよ。変わっていくことに後ろめたさもなんもない。昔の曲と言っていることが違いますね、と言われても、そりゃあそうでしょうと思う。好きな音楽も変わっていくし――そのなかでも一貫した想いや感覚があるのはいいことやと思います。

-毎回、大胆な音楽性をちゃんとSHE'Sとして着地させられるの、本当に感心します。

井上:サウンド面はいろんな挑戦をしてきてるけど、今正しいと思うことを歌詞にしてるのは変わってないからかな? いつもノンフィクションで、思ったことを書いてる。あと、自分の音楽の興味に忠実なところかな。今回めちゃくちゃコーラスワークを重ねたのもマイブームやし。

服部:僕ら楽器隊も竜馬のイメージに寄り添ってアプローチをしていくなかで、今まで培ってきたものをより良く音にできている感覚もあるし。それを楽しめているところも大きいですね。好きにやれてます。

広瀬:もともと飽き性なので、同じとこにじっとしていられなくて。今回はシンセ・ベースを何曲か使ってます。いい音楽であればなんでもいいと思っているので、曲が良くなるならそれでOK。新鮮なものがあればあるほど楽しいです。だから制作も音楽してるなーって感じがして、今までで一番楽しかったんですよね。

木村:ルーツになっている曲を聴かせてもらって、そのうえでアプローチを考えるので、毎曲毎曲成長できてる感覚があります。今回は特に幅が広いので、いろいろ聴き漁りましたね。