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LIVE REPORT

Japanese

SHE'S

Skream! マガジン 2023年04月号掲載

2023.03.21 @LINE CUBE SHIBUYA

Writer : 稲垣 遥 Photographer:MASANORI FUJIKAWA

SHE'Sが管弦楽団を従えて贈る特別なホール公演[Sinfonia "Chronicle"](通称:シンクロ)。2019年12月以来約3年ぶりとなる本公演、そのファイナルとなるLINE CUBE SHIBUYA公演は2デイズで行われた。その2日目の模様をレポートする。

ソールド・アウトとなった会場に、オーケストラのチューニング音から、バンドと管弦楽団による特別なオープニング・テーマが響き渡ると、同時に紗幕を張ったステージの後ろにバンド・メンバーとロゴが浮かび上がる。そうして1曲目「Blue Thermal」の始まりと同時に紗幕が下り、ステージの全貌が露になった。向かって左側にはトロンボーン、トランペット、サックスの管楽器隊3人、右側にはヴァイオリンふたりとヴィオラ、チェロの弦楽四重奏が並び、中央のSHE'Sを両側からハの字型に囲んでいる。そこから「Higher」へと続き、11人の演奏ならではのスケール感を最大限に押し出した音像が押し寄せた。そのなかで服部栞汰が前に出てきてギター・ソロを炸裂させ、ラストのサビでは井上竜馬(Vo/Key)もハンドマイクで前方へ出て飛び跳ねて、スペシャルなホール公演でありながら厳かなムード0で、いい意味でいつものライヴ同様にオーディエンスを取り込んでいく。そんな空気感もあり、早々に手拍子が湧きスタートした「追い風」。管楽器がいったん捌け弦楽団とバンドだけになったのもあるのか一転して緊迫感が出た感覚で、そのぶんパッと開けるサビでの推進力もあった。この冒頭3曲もそうだが、前回の東京公演とセットリストを見比べて驚くのは、そのほとんどが入れ替わっていること。この3年間で生まれた曲たちはもちろん、過去のナンバーも新たに11人編成でのアレンジでアップデートして楽しませてくれたのだ。

赤いスポットを浴びた木村雅人(Dr)のドラムからバンドインした「Masquerade」ではオリエンタルな雰囲気に。序盤から多彩なサウンドを聴かせる。11人のメンバーを紹介し、"本日は11名でSHE'Sでやっていきますんでよろしくお願いします!"と井上が挨拶すると、久しぶりにやると言う「C.K.C.S.」からはメジャー・デビュー直後のナンバーが続いた。手拍子と歌でコール&レスポンスも行い、オルタナティヴな「Clock」では時計の針の音と針が止まったり動いたりする映像演出も音と連動し、静と動、また"時を止めて 君と二人/このままなら過去にならない"と歌うほど恋に落ちる危うさも表現する。

中盤ではメンバー4人だけでのアコースティック・セットも。その転換中には"楽しいです"と口々に話す4人。前日とこの日が好天に恵まれたことについて、11人いるのに自分が晴れ男だからと言い張る井上に笑いが起きつつ、そんな青い空をイメージして書いたと「Beautiful Bird」を披露した。アコギ2本でのカントリーテイストなサウンドスケープは、先ほどまでの壮大さがあったからこそより際立ち、グッと近い距離間で届く。さらに服部がギターを爪弾き、井上が"It's like a miracle and wonder"と英詞を乗せて始めた「Not Enough」。次第に指を鳴らす音と、トロンボーン、トランペットの2名が加わり、温もりの溢れる時間となった。

そして再び弦楽四重奏を迎え、繊細なキーボードの調べから「Letter」へ。井上の歌声も優しさを帯びて曲の世界観を最大限に表現する。「Chained」では木村が一音一音に力も想いも込めた大きなドラムが迫力を持ってホールを揺らし、最後の井上のロング・トーンまで見事で、このライヴで楽曲が完成されたように思うほど、貫禄のようなものも感じさせた。
また、ゆくゆくはいろんなところでこの"シンクロ"をやりたい、そのために自分たちがもっと大きくならなければいけない、と井上が今後の目標も話したあとに披露した、意外な選曲となったのが「Raided」だった。こういった攻撃的なナンバーも、生のストリングスがよりソリッドに彩り、ステージ上の複数のヴィジョンにはリリックが演奏に合わせスピーディに投影されることで、現代を切る皮肉めいた新たなSHE'Sの姿を強調していた。

いよいよ終盤。大きな手拍子が湧いた「Un-science」から、井上が気持ち良さそうにキーボードを奏でながら弾き語りの形で伸びやかな歌声を響かせ、シームレスに「Grow Old With Me」へと繋ぐ。ホーンズが高らかに鳴り、洒脱でジャジーな音がフロアを包んで、"Life is so beautiful, life is so beautiful"と歌う人生賛歌はなんとも晴れやかでフィナーレにぴったり。さらに圧巻だったのは「Dance With Me」。井上のカウントからフロアが一斉にジャンプすると、筆者のいた2階席まで(おそらく3階席も)揺れた。「Grow Old With Me」に続き広瀬臣吾のベースが効いていてかなりグルーヴィで、カラフルなライトも盛り上げるなか、井上はなんとステージを降りて客席の通路を走りながら歌い、さらに会場全体を躍動させていった。歌い終えて"ほんま、生き返るわぁ~"と漏れるように言うと、井上はこうして観客の顔を見ながら歌える喜びを噛み締め、"改めて、当たり前じゃないなって思う。出会ってくれてありがとうございます"と感謝を伝えた。"悲しいとき、ムカつくとき、幸せなとき、いろんなときにあなたの隣で音楽が鳴り響きますように。祈りを込めて。SHE'Sでした"。そう挨拶して本編最後に奏でたのは「Amulet」だ。夕暮れ時の水面の様子を映したヴィジョンをバックに、真摯に届けたバンドからのメッセージ。映像の最後にはエンドロールが流れ、まるで1本の映画のようにドラマチックな演奏で駆け抜けた一夜を締めくくった。

鳴り止まない拍手に再び登場したSHE'Sは、5月24日にリリースするニュー・アルバム『Shepherd』の詳細が後ほどサイトにアップされることと、同作を引っ提げて夏にツアーに出ることを、この日集まったファンへひと足先に発表。またそのニュー・アルバムから新曲「Happy Ending」を披露した。シンプルで落ち着いた空気感のラヴ・ソング。井上による手書きの歌詞も映し出され、じっくりと聴き入っていた観客の姿が印象的だった。そうして2時間にわたった公演の最後の最後は「Over You」。はじけるドラムのなか、ギターを手に歌い始めた井上は、ハンドマイクでのヴォーカル、キーボードを弾きながらの歌唱と1曲の中で様々なアプローチで魅せ、服部が"最後みんなで歌おうやー!"と声を掛けると、フロアから"ウォーオオオー"のコーラスがこの日一番大きく轟く。大好きな音楽を共に鳴らし、共有して楽しむという純粋な喜びに満ちた空間。この声が出せなかった3年間を経ての待望の開催となった"シンクロ"の幕を美しく閉じた、幸福感に満ちた大団円だった。


[Setlist]
1. Blue Thermal
2. Higher
3. 追い風
4. Masquerade
5. C.K.C.S.
6. 日曜日の観覧車
7. 海岸の煌めき
8. Set a Fire
9. Clock
10. Beautiful Bird
11. Not Enough
12. Letter
13. Be Here
14. Chained
15. Raided
16. Un-science
17. Grow Old With Me
18. Dance With Me
19. Amulet
En1. Happy Ending
En2. Over You

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