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INTERVIEW

Japanese

SHE'S

2022年03月号掲載

SHE'S

Member:井上 竜馬(Vo/Key) 服部 栞汰(Gt) 広瀬 臣吾(Ba) 木村 雅人(Dr)

Interviewer:秦 理絵

バンド結成10年の集大成として初の武道館ワンマンを終えたばかりのSHE'Sが、3月2日に通算7枚目のシングル『Blue Thermal』をリリースする。大学の航空部をテーマにしたアニメーション映画"ブルーサーマル"の主題歌「Blue Thermal」と、挿入歌「Beautiful Bird」は、バンド初の映画への書き下ろし。上昇気流を探し、仲間との絆を繋ぎながら夢を掴む。そんなアニメとバンドに多くの共通項を見いだしながら制作されたという今作は、SHE'Sというバンドが"10年間、何を大切に歩んできたか"がくっきりと浮き彫りになる2曲になった。以下のインタビューからは、幸福なタイアップとの出会いが生んだ今作が、SHE'Sの11周年の第1歩に相応しい1枚であることが伝わればと思う。

-前作シングルが"追い風"(2021年2月リリース)で、今回のシングルが"Blue Thermal(上昇気流)"で。最近のSHE'Sは風にまつわる曲が続いていますね。

服部:あぁ、たしかに。

井上:どちらもタイアップへの書き下ろしなので。応援歌っぽいものを要求されるから、自然とそういうふうになっちゃいますよね(笑)。

-今回のシングル『Blue Thermal』は、アニメーション映画"ブルーサーマル"の、主題歌と挿入歌という2曲の書き下ろし楽曲を収録する作品になりますね。

服部:やったことがないことなので話を聞いたときは嬉しかったです。昔から竜馬は"挿入歌をやりたい"って言ってたんですよ。映画音楽が好きだし。

井上:そう、劇伴をやりたいっていう夢があるんです。でも、挿入歌は"歌"やからセリフの邪魔にならへんかが大事になるので。そのへんはアニメの音楽プロデューサーとか監督さんとコミュニケーションをとりながらやりましたね。

-"ブルーサーマル"は、大学の航空部がテーマという珍しい題材の作品だと思いますが、どんなふうに作っていったんですか?

井上:お話をいただいてから原作のマンガと台本を読ませていただいて。そこから制作を開始しました。読みながら、グライダーに乗って空を進んでいく感じが、イントロで見えたらいいなっていうイメージはあって。パソコンで作るんじゃなくて、マンガを読みながら、頭に浮かんだものを鼻歌で作っていったんですよ。クラシカルな楽器のほうが空を飛んでる感じがするかなぁっていうのは考えてましたね。

-楽器はストリングス、ブラスに加えて、木管楽器はフルート?

井上:あれはピッコロかな。最初は木管楽器までは想定してなかったんですけど。あとからサビをもっと華やかにしたいってなって。足し算の方向で作っていったんです。

-メンバーは竜馬さんからあがってきたデモを聴いてどう思いましたか?

服部:この曲はギターが入ってない状態でデモを送ってくれたんですよ。で、イントロを聴いただけで"あ、空やな"って一発でわかって。ギターも、空を飛んでるようなイメージが湧くようなものにしたいなっていうので作っていきました。竜馬には"ピアノが駆け上がっていく感じだったから、それに合わせて間奏のギター・ソロを弾いて"って言われましたね。あと"ピアノとユニゾンするのもいいし"って。"それ、いいな"と思って、後半はユニゾンで上がっていく展開を作ってるんです。

木村:この曲は、竜馬がシンフォニックっていうキーワードを振ってくれたので、普通のドラムじゃないんですよ。キックの四つ打ちですね。フロアっていう太鼓とシンバルをガンガン叩いてるんです。あんまりスネアが入ってこないのも珍しいですよね。壮大さを出したいっていうのを意識してアレンジを進めていきました。

-臣吾さんは?

広瀬:すごくいろいろな楽器が入ってるから、基本的にベースはシンプルにいこうと思ってました。先にギターも入れてくれてたので、それに合わせて一瞬ギターとベースがユニゾンしたりして。伸びやかに楽しく弾けましたね。

-シンフォニックっていうテーマの中でも、この曲はいわゆる厳かなイメージじゃなくて、ブラス・バンドっぽい青春感がありますね。そのあたりは意識したんですか?

井上:たしかに青春感はキーワードであがってました。明るくて爽やかなもの。壮大で美しいっていうよりかは甲子園の応援みたいな。実はサビのメロディは春の甲子園("第92回センバツ MBS公式テーマ・ソング")に書き下ろした「Higher」(2020年リリースの4thアルバム『Tragicomedy』収録曲)の候補のひとつだったんです。気に入ってたからどっかで使いたいなと思ってて。四つ打ちが合いそうだなと思ってドッキングした感じですね。

-これまでもSHE'Sはシンフォニックな楽曲をたくさん作ってきたけど、この曲はこれまで以上にバンドとの一体感がぐっと増してる感じがしたんですよ。

広瀬:(バンドの上にオーケストラが)乗ってるというよりは塊感があるんですよね。

井上:そのあたりは、僕らのことをずっとやってくれてるエンジニアの今井(邦彦)さんが気にしてくれてましたね。"これ以上(音量を)上げちゃったから、こっち(オーケストラ)がメインに聴こえちゃうよ。バンド感が減っちゃうよ"とか。この曲はバンドのことも歌ってるから、そうなるのは良くないですねっていう話もしたんですよ。そういうバランス感覚を、今は無意識に選択できるようになってるなと思うんですよね。この曲のこの感じやったら、こっちの音やなって。それを選べるようになったのが、この10年間の積み重ねがあるからなんじゃないかなと。もう1から10まで説明しなくていいですから。

-わかります。「Blue Thermal」は、バンド・サウンドを軸に置きながら、オーケストラとの聴かせ方も探求してきたSHE'Sの到達点とも言えるサウンドになってる。

木村:うん。最後の昂揚感とかはちゃんとバンドが土台にあって、そのうえでオーケストラが表現してくれてる感じがあるなと思いますね。

-歌詞に関して、先方からはどんなリクエストがありましたか?

井上:つるたまちゃんって主人公が明るくて元気な子やけど、そのバックグラウンドは家とかで居場所があんまりないというのがあって。空にひと目惚れして、そこに居場所を感じるようになったっていうのがあるんですね。それで"居場所"っていうものをテーマにするとか。あとは上に昇っていく感じや、絆みたいなものが伝わるものになったら嬉しいですっていうのがあって。そういうキーワードは作品から汲み取ってますね。

-"パーフェクトブルー"とか"雲"、"気流"というワードを散りばめて。

井上:そうです。"「空が怪我をしてるみたい」と/君は言って 笑っていた"は、つるたまちゃんの奔放で天真爛漫な性格を想像してセリフをつけてます。

-そこに、バンドのことも重ねているわけですね。

井上:割合で言うと、(アニメとバンドは)4:6ぐらいかな。正直に言うと、アニメに対しては、自分の中では4割ぐらいしか寄り添ってないんです。半分以上は、自分の思っていることなんですよ。作品に出てくるグライダー自体がエンジンもないし、プロペラもないし、上昇気流を見つけながら上に昇って飛んでいく競技なので。それがすごくバンドと重なったんです。お先なんかずっと真っ暗やし、なんも見えないなかで、お客さんに支えられながら少しずつ歩んできた。そういうバンドの歌にしようって決めたんです。

服部:僕らも最初に聴いた瞬間に"バンドのことやな"って思いましたからね。

井上:武道館でやる前提みたいな、な(笑)。

木村:そうそう。武道館で一発目に披露するのが見える。竜馬が僕らの気持ちを背負ってかたちにしてくれてるなっていうのはありましたね。

-話を聞いてると、今回のタイアップは無理に寄せにいかなくても、自然に作品に自分たちが重なったんでしょうね。だから4:6じゃなくて、ちゃんと10:10なんじゃないかな。

井上:あぁ、たしかに。今までもタイアップ曲を作るときは、絶対に相手の物語だけにしないっていうのは決めてるんです。自分の考えと人生をクロスさせないと、自分が歌ってて気持ちが入らないし、誰にも伝わらへんのちゃうかなって思ってるので。ずっとそういうふうにやってきてるけど、今まで(先方に)めちゃくちゃに修正させられることもなかったんです。そうなったら、俺はもう(タイアップ曲を書くのを)やんなくなるかも(笑)。

一同:あはははは!

井上:締め切り過ぎても、"なんの話でした?"って心を閉ざす(笑)。まぁでも、そんな人いないですよ。相手だって俺らにお願いをしてくれるっていうことは、俺らのらしさを好きでいてくれてると思うし。

服部:たしかにね。

-らしさという意味では、歌詞の"条件良好でも慎重に進む/「見たことない」を見落としたくはないから"は、竜馬さんらしいなと思いましたよ。

井上:ですよね(笑)。最初、ここの歌詞は"条件"じゃなくて、"エンジン良好でも"やったんですよ。これは僕らで言う機材車に重ねたかったから。そしたら原作者の小沢(かな)さんに"すみません、竜馬さん、(グライダーに)エンジンないんです"って......。

一同:あはははは!

井上:原作者本人に言われて(笑)。ほんま浅はかでごめんなさい、みたいな。

服部:"気流に乗って"って歌ってるのに。

井上:で、"なんか他にありますかね?"って聞いたら、小沢さんもいろいろ出してくれて。その中で"条件良好でも"があったんです。いろいろな条件が重なって、やっとグライダーって飛べるんですよね。それはバンドにも合うのかなっていう。

-バンドだけじゃなく、いろいろな人生に重ねられますよね。

井上:そう。もちろん勢いも大事だとは思うんですけど。わりと慎重に進んできたのが俺らやなと思ったりしますね。僕もビビりやし(笑)。