ライター沖さやこの『アブストラクトマイライフ』

WRITERS' COLUMN

2020年11月号掲載

a flood of circleの最新作『2020』、バンドにとって10枚目のフル・アルバムに相応しい仕上がりではないでしょうか。アルバムを語るうえで出てきやすい言葉ベスト5内にランクインする"バラエティに富んだ音楽性"を味わえる作品なのですが、そんなありきたりな言葉に集約させるべきではないほどスケールのある作品です。アルバムの最初から最後まで、12の景色が鮮烈に全身へと飛び込んできました。

ここ数年のAFOCは海外でのレコーディング、UNISON SQUARE GARDEN田淵智也（Ba）のプロデュースによる制作など、多くのチャレンジやトライを繰り返していました。過去にギター・ヴォーカル兼ソングライターである佐々木亮介氏にインタビューをしたとき、"バンドを続けていくためにも新しい要素をバンドに取り込むべきだと思った"と話してくださった記憶があります。今作はそれらの経験が血肉となったうえで得意技を繰り出していることに加え、フレッシュな気持ちで音楽に向き合っている印象がありました。いい意味でロックを背負っていない作品だと感じたのです。

というのも、AFOCはわざわざロックを背負わなくても、もうハートから自然とバンド人生で培ってきたロックという概念が溢れてきている。おまけにそれをアウトプットするための身体は、様々なチャレンジでだいぶパワーアップしているわけですから、今までのように得意技を繰り出しても別物のような輝きを放つわけですよね。

私事ですが、AFOCの音楽と出会ったのはライターを目指して音楽系の専門学校に入ったときでした。高揚がそのまま表れたサウンドスケープと、心に忠実な言葉でありながら矛盾がなく、筋が通っている知的な歌詞のコントラストが、二十歳過ぎの自分の感性に響いてきました。それはこの12年間変わっていません。

こと芸事に関しては知性と感性を分けて語る風潮もありますが、私はこの相反すると思われるふたつを突き詰めた先に、交わる場所があると思っています。AFOCがその臨界点に最も近づいたと感じたタイミングは『花』というシングルでしたが、内向的なところへと潜って潜って自身の殻をこじ開けていくような同作に対して、『2020』は外に視野が広がっているように感じます。だからこそ秋空のように高く、清らかで逞しいのだろうなと思います。

先月号のSkream!さんに掲載された、ライター秦さんによる佐々木さんのインタビューによると、"前回の『CENTER OF THE EARTH』と、この『2020』を踏まえて、次のアルバムまでが3部作と考えている"とのこと。ロックンロール・バンド AFOC、この先もまだまだ我々を楽しませてくれそうです。