ライター沖さやこの『アブストラクトマイライフ』

WRITERS' COLUMN

2016年04月号掲載

"ライヴ"。"live"。それはすなわち生きることと同義です。バンドそれぞれに、そのバンドの"ライヴ"があります。例えばcinema staffはアグレッシヴなパフォーマンスと激情が迸った演奏でハートに響くライヴを展開します（なんであんなに暴れるのにあんなに演奏がうまいんだろう......）。キュウソネコカミは安定感のある演奏とギター・ヴォーカルのセイヤさんのあっと驚く様々なパフォーマンスが特徴的だし、indigo la Endは繊細且つダイナミックな演奏で観客の感受性を揺さぶるし、現在活動休止中の爆弾ジョニーのライヴは5人が5人全力で音楽を吸収してそれをフロアに打ち込むようなエネルギーがあるし......"ライヴ"は本当にバンドによって全然違うなあ、と思います。
　
お客さんを盛り上げるのがうまいバンドも多く、お客さんを煽るのも"いいライヴ"には欠かせない大事なスキルになってきています。でもそこに少し違和感があるのも本音。お客さんを煽るのはうまいけど、演奏力や歌唱力のないバンドもいます。バンドのキャラクターを優先するがゆえに、ぬるめのライヴをするバンドもいる。それは楽しいライヴかもしれないけど、いいライヴではないんですよね。音楽はエンターテイメントである前に"音"ですから、音楽家たちには最も音を大事にしていただきたい、という気持ちがあります。
　
そんなことを考えていたときに、Brian the Sunのギター・ヴォーカル、森良太さんがライヴのMCでこうおっしゃっていました。"最近お客さんのこと煽ったりすることに興味がないんです。いい歌をうたいたい。それが俺のメイン・トピックス"。このときブライアンは音楽そのもので勝負していくんだなと思いました。そしてPeople In The Boxのライヴで、メンバーが演奏に入り込めば入り込むほど、お客さんのテンションが上がっていく様子を観たときに、すごく健全な光景だなあ、と思ったのです。ステージ上の演者は楽曲を演奏する、観客は生演奏を観て聴いて楽しむ――そういう正攻法のライヴを魅せられる日本のバンド、実は少ないんじゃないかな？それは最近のバンド・シーンのライヴにおいて、楽しませること、盛り上がることが重要視されて、音そのものへのポリシーが影をひそめてしまっているからだと思います。
　
音楽を含め表現物というものは、抑えきれない自我のかたまりだと思うんですよね。私はバンドの自我に振り回されたときに見える風景がどんなものなのか知りたいし、体感したいなあ、と思っています。やはりロック・バンドの本気の音で殴られたときの衝撃は、何物にも代え難いです。