ライター沖さやこの『アブストラクトマイライフ』

WRITERS' COLUMN

2020年09月号掲載

ライヴの開催が難しい現在、インターネットからの音楽の流行や才能の発掘が増えてきています。中でも注目を集めているのがカバー動画。インターネット内で若いユーザーが自身の動画で楽曲を使用するようになり、同曲をカバーするユーザーが増えさらに広がり、そこから大物インフルエンサーの耳に届き彼らがカバーすることでインターネット以外でもピックアップされ、一大ブームになっていく流れが一般化しています。「香水」などがその代表格と言えるでしょう。

カバー・ブームのもとを辿ると2000年代。ニコニコ動画の"歌ってみた／踊ってみた／弾いてみた"シリーズです。ニコニコ動画にアップされたVOCALOID楽曲を、ユーザーがカバーしてニコニコ動画にアップするというもの。VOCALOID楽曲は好きでも歌唱は人の声がいいという人々や、イケボ好きの人々がこぞってカバー曲を聴くようになりました。

当時ニコニコ動画に（十分な容量の）動画投稿ができるのはプレミアム会員のみで、視聴にも会員登録が必要だったため、それを楽しむのはなかなかコアなインターネットマンに限られましたが、スマートフォンやアプリ、プラットホームの発達でそのハードルがぐんと下がり、同時にSNSも一般化し、機械に詳しくない人でも簡単に動画をアップできるようになりました。

そもそもなぜカバー動画はここまで多くの需要があるのでしょうか。"自分の好きなアーティストがほかの人の曲を歌うというレア度"が往年の人気の理由でしたが、現在はインターネットの情報量の多さも影響してか"知っている楽曲"を軸にして、その中から新しいアーティストを探す人が増えているように思います。

もうひとつが21世紀から顕著になった"声がいい人"を求めるという価値観の出現です。現在40代後半のとある俳優さんがラジオで"僕らが10代の頃には歌がうまい人、声のいい人、ダンスが踊れる人がモテるという価値観がほぼ存在しなかった"とおっしゃっていましたが、昭和末期生まれの私の時代もそれは少数派でした。声を重んじる人が増えてきたのは、カラオケの普及やアニメ・コンテンツのマス化などが影響していそうです。"この美声であの曲を聴きたい"というリスナーの願望は、カバー・ブームに大きく影響していると考えられます。

ライヴハウスから注目を集めるアーティストが多く世に出た2000年代、オーディションやコンテスト出身アーティストが多く登場した2010年代を経て、2020年代はよりインターネットを通じて頭角を現したアーティストが活躍すると思われます。現在注目を集めている若手アーティストが実はカバー動画が活動の原点であるパターンもしばしば。また時代が動いていきそうです。

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