ライター沖さやこの『アブストラクトマイライフ』

WRITERS' COLUMN

2014年06月号掲載

こんにちは、ライターの沖です。このコラムの連載も1周年。今月は、楽曲タイトルをこのコラムのタイトルに拝借しているPlastic Treeについて書こうと思います。

Plastic Treeはヴィジュアル系というカテゴリーにくくられることが多いバンドです。とはいえ彼らは自身でも様々な媒体で以前から"ヴィジュアル・シーンに居場所がない""ヴィジュアル系に入れてもらっていいのかな？"と語っている通り、結成当初から独自の城を築き続けています。そしてその"城"にはたくさんのルーツがあります。たとえばTHE CUREやMY BLOODY VALENTINE、RADIOHEADなどUK方面のロック、オルタナ、グランジなどのテイストや、楠本まきさんのような耽美さ、太宰治的な明と暗と浪漫、中原中也のような繊細さ、江戸川乱歩のような謎めいた空気――などなど。文化も国も問わず、自らの好む、愛するものに感化されながら20年にも渡りバンド活動を行っているバンドなのです。

現在のメンバーは全員が作詞作曲をするPlastic Tree。2012年12月にリリースされたフル・アルバム『インク』もメンバー4人の嗜好が融合した作品でした。そして最新作である今年の3月にリリースされた（なにげにバンド初の）ミニ・アルバム『echo』は、曲タイトルが全て漢字2文字など統一性を持たせつつ、メンバーそれぞれの音楽的好奇心が強く出た、非常に実験性の高い作品です。その7曲のラストを飾る、YouTubeでMVも先行公開された有村竜太朗作詞作曲のリード・トラック「影絵」を初めて聴いたときの衝撃は大きかった。Plastic Treeには珍しく三連符を用いた曲で、焦燥的なギターのカッティングとノイズ、切なく優雅なピアノの音色、三連と四拍を巧みに操る包容力のあるリズム隊――音それぞれが別の方角を向いていながらも、互いが互いを頼り、支えるような強い結束が感じられるのです。あと、重要なのが有村さんの綴る言葉の威力。この20年で彼の表現も徐々に変化していますが、彼の言葉を彼が歌うと（それが彼の作る曲だと特に）、彼の感情がそのまま自分の心にトレースされるという感覚は、彼らの音楽に出会った頃からずっと変わらず襲ってきます。この感傷には必ず、体温と同じようなぬくもりがあるんですよね。バンドの挑戦が詰まった作品のラストに、変わらないものと懐かしさ、前に進むための新しさの両方を感じられたのはとても感慨深かったです。

結成から20年経ってもなおPlastic Treeというバンドが古くならないのは、やはり常に挑戦や試行錯誤を繰り返しているからなのだと思います。まだまだこのバンドは変わっていこうとしている。そんな意志に満ち溢れた『echo』、とても素晴らしい作品です。是非。

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