ライター沖さやこの『アブストラクトマイライフ』

WRITERS' COLUMN

2018年04月号掲載

春は出会いと別れの季節。このコラムが世に出ているころには、新生活を送っている方々も多いのではないかと思います。今年の3月は二十歳のころから聴いていたバンドのギタリストが他界してしまったり、下北沢駅の南口改札が閉鎖されてしまったりと、思い入れのある人やものが遠くに行ってしまった月になりました。下北沢の南口はいろんな人と待ち合わせをした場所でもあるし、ライヴハウスに向かう夢の扉みたいなところがありました。たかが改札、されど改札、ドラマがあったなぁと思います。

思い出話ついでに。わたしは10年前に音楽系の専門学校の2年生だったんですが、ライター・コースに通っていたので1年かけて同じコースの子たちと一緒に音楽雑誌を作るという卒業制作に力を注いでいました。2008年ですね。雑誌のコンセプトは"ネガティヴ人間に捧ぐ音楽の楽しみ方"とかそんな感じだった気がします。クラスが11人だったので、ひとり1コーナーを受け持って企画を立てました。メンバーが取り上げていたのは野外フェス、ニコニコ動画、VOCALOID、声優×音楽、2.5次元ミュージカル、アンダーグラウンドのクラブ・シーンなどなど......当時はちょっとマニアックで敬遠されていたものもあったけど、いまの時代には当たり前に存在しているものばかりです。二十歳の子たちのアンテナってやっぱりすごいんだな～と思います。

そんななか私は下北沢特集を組みました（※写真は卒業制作のために撮影した2008年の下北沢駅南口です）。いまの下北沢というとKEYTALKがジャックしていたり、サーキット・イベントが盛んでいろんなバンドが集まったりするイメージが強いですが、10年前はもっとジャンルが偏っていて、小さいハコしかなかった。それぞれのライヴハウスで"楽しい"だけではない、ネガティヴの味方とも言える音楽がたくさん鳴っていた時代でした。まだ日本のロックがJ-ROCKと呼ばれていたころ。邦ロックと言われるようになったあたりから、フェスで受け入れられやすい音楽が流行してきたなという印象を持っています。

下北沢は音楽や演劇と密着した土地なんだけど、この10年でチェーン店がとっても増えて、昔よりは"一般的な街"感が強くなった気もします。それでも楽器を持って歩いている人や若い子たちがたくさんいて活気のある街で、それだけで嬉しくなってしまう。用事もないのになんとなくふらっと立ち寄ることも多いです。5年後の下北沢はどうなっているんだろう。日本のロックも、日本もどうなっているんだろう？過渡期で混沌とした時代だけど、どんな時代にも必ずいい音楽は存在しているし、いつの時代も音楽は生活を豊かにするなぁと思います。みなさまの新生活が素晴らしいものになりますように。