Japanese
アルカラ
2014年09月号掲載
Member:稲村 太佑 (Vo/Gt) 田原 和憲 (Gt) 下上 貴弘 (Ba) 疋田 武史 (Dr)
Interviewer:天野 史彬
-疋田さんと稲村さんがおっしゃるように、前々作『ドラマ』はアルカラのキャリアの中でターニング・ポイントになる1枚で、あのアルバムにはそれまでになかった内省的な心象が深く刻まれた曲も収められていたと思うんです。でも、今回の『CAO』の持つシリアスさって、もっと"社会"を通して見えてくるパーソナルさにあるのかなって僕は思っていて。それが最初に稲村さんがおっしゃった"ロック"っていう言葉にも繋がってくるのかなと思うんですけど、今作を作るうえで改めて見つめ直した自分たちにとってのロックって、具体的にどういうものだったんでしょうか?
下上:今までは自分たちのやりたいリズムやメロディに関しても、"おとぎ話"みたいなフィルターを通してやってたけど、今回は通さずにやってみたらどうなるか?っていうことだったんじゃない?プレーンな感じというか。
稲村:歌にしても......僕、友達に"お前、1回会社勤めしてみろ"って怒られたことがあるんですよ。朝早く起きて、仕事行って。そういうことを通らないと気付けへんことがあるぞって言われて、それは正しい意見やなって思ったんです。たしかに、僕が社会的なことをバンバン歌っても、僕が歌うべきじゃないところってたくさんあると思うんですよ。でも、僕じゃない設定なら言えるなっていうのがあって。"こうだよね"って歌わないというか。例えば前作でいえば、おとぎ話を通しながら残酷さや、愛しさとか切なさとか心強さを歌ってきたんですけど(笑)......ある意味セコいんですけど、"そんなこと言ってる奴がいんなぁ"っていう見せかたをするというか。それはアルカラのやりかたとしてあると思いますね。
-でも今回は歌に関しても、下上さんがおっしゃるように、今までよりフィルターを通さず歌えた部分が大きかったんじゃないですか?例えば「アブノーマルが足りない」は、あらゆる価値観が均一化していく今の社会や時代感に対しての危機意識が、すごくストレートに歌われていると僕は思ったんですね。この曲はアルバムのムードを牽引していった曲でもあると思うんですけど、どういうふうに生まれたんですか?
稲村:曲ができたら普通は仮の歌詞を最初につけるんですけど、今回はどんどんライヴでやっていこうよっていう雰囲気になって。で、ライヴでやるとなったら適当な歌詞でやるわけにはいかないので、なんとなく曲に合う言葉はないかなって探してたら、"アブノーマル"っていう言葉が出てきたんですよね。なんか現代っぽくない、平成元年的な、バブルな感じの言葉ですけど、その危険な感じがいいなぁって思ったんです。
-今の稲村さんの中で、アブノーマルさ、危険さを求めている部分があったということでしょうか?
稲村:言ってしまえば、今はバンドマンより国会議員の方が悪いことしてるでしょ(笑)? 別に悪いことした方がいいってわけではないんですけど、昔はみんな、危険なものに惹かれてたと思うんですよ。見えない部分が多いぶんね。でも、今は見える部分が多くなり過ぎて、みんなちゃんとしようとし過ぎてる。僕らが地元の神戸でやってた時は、バンドマンってもっと自由やったし、もっとアホな人が多くて。なんでそういうことをしてんねやろ?って、理解できないからこそ気になる感じがあったんですよね。そういうことを考えた時に、"アブノーマルが足りない"って歌っちゃえばいいやんって思ったんです。そうすれば、気持ちもストレートに伝わるんじゃないかなって。そこからアルバム全体的にも、自分たちのロックを素直に出していこうぜっていう部分と、社会的反骨心みたいな部分を織り交ぜることができたら、いい作品になるんじゃないかなって思って。
-じゃあ、ここで歌われる"アブノーマルが足りない"っていうのは、周りのロック・シーンを見ていた時に出てきた言葉でもあるんですね。
下上:今は平均的になってるよね。昔はもっと、この人出したら、このイベントどうなるかわからへん、みたいな人が多かったし。
稲村:そうそう。僕は自分が危険な人間だとは思ってないけど、やっぱり危険な人って魅力があるし、そういうのがもっとよしとされてもおかしくないなって思うんですよ。僕らはネコフェスっていうイベントをやってるんですけど、それこそ武道館でやってるような、僕らよりひと回りもふた回りもデカいバンドにも来てもらってますし、でも神戸や大阪で、ひとりでカラオケ流しながら下ネタばっか歌ってるような奴にも来てもらってて(笑)。そのどっちもいるからこそ、イベントやなって思うんですよね。僕は自分でネコフェスの面子を客観的に見たり、実際に彼らのステージも観てますけど、やっぱりアルカラがやりたいことの大所帯版って感じなんですよね。もちろん真面目なことも、正義を振りかざすこともしたいけど、もっとアブノーマルなことも堂々とやっていきたい。あのイベントって、アルカラがやるから何でもありだし、逆にあれがアルカラなんやろうなって思うんです。今回のアルバムも、その形のひとつなのかなって思うし。
-そういうアブノーマルなものが追いやられてしまう現状って、音楽以外の社会生活の中でも感じたりしますか?
稲村:社会的なところまで行くとちょっとわからない部分もあるんですけど、でも、全部繋がってると思うんですよね。僕らはやっぱり音楽のこととかロックのことを見てしまうけど、音楽の中にもクラブ・シーンもあれば俺らの知らへんシーンもいっぱいあるし。......でも、もっと何でもありになってほしいんですよね。面白いことってもっといっぱいあるはずなのになって。こういうメロディがあってこういうサビがあってっていう決まりきった感じじゃなくても、面白いことや感動できることってあり得るし。昔って、変な人いっぱいいませんでした? 別に昔がいいって言っているわけじゃないんですけど、何かへの挑戦かのように妙に長い曲作ってる人とかいましたよね。僕がロックと出会った時って、それが正義だと思ってたんですよ。それでいいんやって。ぶっちゃけ、僕もなんのこっちゃわかってなかったですよ。でも、それを堂々とやるのがカッコよかったりして。そういう人たちがまたたくさん出てくることができたら、楽しむ側ももっと頭を働かせるのかなっていう気もするし。そのきっかけのひとつに、アルカラがなれたらなっていう気持ちがあるんですよね。
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