Japanese
アルカラ
Skream! マガジン 2019年11月号掲載
2019.10.16 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 吉羽 さおり Photo by 中山優瞳、新倉映見
[ア・ル・カ・ラ レコ発直前ワンマンツアー"new new new"]が、10月16日、渋谷CLUB QUATTROからスタートした。今回のツアーはタイトル通り、12月にリリースする10作目のアルバム『NEW NEW NEW』収録の曲を、いち早く披露するもの。普段とは違ったツアーとあって、満員の会場内はいい緊張感が漂っており、アルカラの登場で観客のボルテージは一気に高まった。1曲目に披露したのは「TSUKIYO NO UTAGE」。いきなりの新曲であり、疋田武史によるずっしりと奥行きのあるドラミングに、ギターやベースが繊細でカラフルなメロディを編み上げるように絡んでいく。今回のサポート・ギターは、竹内亮太郎。パーカッシヴで躍動的な下上貴弘のベースとも好相性で、アルカラ・サウンドの密度を高めていくアンサンブルを奏でる。サイケデリックな香りも漂う曲で、オープニングからディープなアルカラ世界で会場を飲み込んでいく。続くも新曲で「瞬間 瞬間 瞬間」。1曲目とは一転して、アクセルを踏み込んで加速し、きらびやかなギター・フレーズがフロアを高揚させる。『NEW NEW NEW』という新しいアルバムの中でおそらくはキーとなるような曲で、3分間の内でドラマチックに展開するアルカラ節のサウンドはもちろん、今この瞬間、心動く瞬間や出会いの瞬間を鮮やかに切り取り、切り取るだけでなく、その瞬間を積み重ねていくことで築かれていく能動的な"生"のきらめきを歌う。ちなみに、歌詞の最後に出てくる"長寿庵のおじさん"とは、レコーディング中の出前でいつもお世話になっている、蕎麦屋のおじさんのことだと稲村太佑(Vo/Gt)はMCをした。亡くなってしまったその長寿庵のおじさんに心を寄せたフレーズだ。リズミカルな語感のあるキャッチーで映像的な言葉と、その歌詞の奥に広がっているリスナーが自由に解釈を広げる深みある歌は、アルカラならではだろう。
そして続くも新曲で、エモーショナルな「猫にヴァイオリン」、グラマラスで奇天烈なダンス・ミュージック「誘惑メヌエット」では、稲村はノイジーなギターを響かせ、こぶしの利いた歌声を披露し、さらに間奏パートで華麗にヴァイオリンを奏でてフロアの温度を上げていく。のっけから新曲だらけだが、観客の反応も高く、何が起こるのかじっくりと目と耳に焼きつけていこうとしながらも、ついそのビートやリフ、歌に衝動的に身体が動いてしまう感覚だ。次の「くたびれコッコちゃん」は、稲村が幼少期に、お母さんが手作りしてくれたニワトリのぬいぐるみ"コッコちゃん"を歌ったという曲。WEEZER的な、グッド・メロディ&ポップなギターのコード感に痺れるパワー・ポップが、切なさを呼び覚ましつつも、愛らしい。"みんな、アルバム『KAGEKI』でいうところの「コンピュータおじさん」枠だと思ったと思う"と稲村。その流れで自分が解釈する「コンピュータおじさん」の歌詞についても語り、"こんな話したら、昔のアルバムも聴いてみたくなる"と言って、ここからはこれまでの作品から選曲する。「カラ騒ぎの彼女」、そして「アブノーマルが足りない」、「チクショー」とライヴでのキラーチューンで進んでいって、「デカダントタウン」でシンガロングを巻き起こしながら会場のボルテージを上げていった。"いつも作品を作ると、これ以上のものはもう作れないんじゃないかと思う"と稲村は語る。そういうときに自分たちを引っ張り上げてくれるのは、やっぱり音楽であり、曲だと言う。そう言って演奏した「やるかやるかやるかだ」は、まさにバンドを鼓舞してくれた最強のアンセムだ。
「むにむにの樹のおはなし」から始まった後半は、「マゾスティック檸檬爆弾」や「振り返れば奴が蹴り上げる」などを披露して、ディープなファンたちを満足させ、ラストには最新の『NEW NEW NEW』から「未知数²」を演奏した。ミドル・テンポでフォークロアな(と言っても、演奏はかなりアグレッシヴ)サウンドに、歌心のあるメロディが乗る曲。生を謳歌するようなその歌に心掴まれて、ぐっと拳を握るようなアンセミックな曲だ。最後の最後は、アカペラのラララのコーラスに、初めての曲でありながら、自然と会場も一体となってシンガロングする。ゴスペル的なパワーがあり、心が湧くままに大きな歓声や拍手が起こって、会場が歓喜に包まれたのは、ライヴだからこその得難い感動だった。全曲ではないが、アルバムの大半の曲を披露したこのツアー。自信作であり最高のアルバムであることを、この2時間で実感した。今のアルカラへの期待感しかない。観客の興奮に満ちた顔や、場内の温度からもそのことが伝わる一夜となった。
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